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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON150 全国夕張化?!国民が運用志向を持つべき理由

2007年2月16日

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 基礎的財政収支
 09年度に7兆8000億円の赤字
 国債残高
 2010年度末、600兆円突破の見通し
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●日本全体が夕張化しているという事実に目を向けるべき


財務省がまとめた2007年度以降の財政状況の推計によると、
税収増で大幅に改善した国の基礎的財政収支は再び悪化。


名目成長率を3%として試算した場合、09年度で
6兆9000億~7兆8000億円の赤字になる見通しとのこと。


少子高齢化に伴う社会保障費の自然増などが財政を
圧迫すると見込みだと言っています。


こんな話を聞くと、呆れてモノが言えません。


つい先ごろには、『景気回復の兆しがあり、
プライマリーバランスの黒字化を1年前倒しに・・・』などと
言っていたのは、一体何だったのか?と問い質したくなります。


※「国と地方のプライマリーバランスの推移」チャート
「国と地方のプライマリーバランスの推移」チャート


新規国債発行額も07年度予算で25.4兆円まで下がって
きましたが、09年度から10年度で再び30兆円を超え、
国債発行残高は600兆円を突破する見通しだといいますから、


結局、「プライマリーバランスが改善された」などと言われて
いたのは、単なる一時的なものに過ぎなかったということで、
政府の発表を聞いていると非常に混乱してしまいます。


さらに、日本の状態としてよろしくないのは、
この財政状況にあって、日本の国債は返済できないという
事実を認識していないという点です。


私の主催するビジネス・ブレークスルー大学院の生徒の方が
面白い試算をしてくれました。


それは、先ごろ破綻した夕張市と日本全体の借金の額を、
市民・国民1人あたりの金額で換算するという試算です。


この試算の結果、約600億円の債務を抱えて破綻した夕張市と、
600兆円の債務(国債)を抱える日本全体(中央政府)では、
1人当たりの借金額はほぼ同じだということがわかりました。


もちろん破綻した夕張市の財政政策に問題はあったと
思いますが、問題は夕張市だけのものではないということです。


たまたま夕張市だけが、祭り上げられて、いじめられている
という状況に過ぎないと私は思います。


私は、前々から日本の債務は返済が困難なレベルに
達しているということを強く主張してきましたが、
この試算を見ても、それは明らかだといえます。


現在の日本は、日本という国全体が夕張化しているという
状態なのです。


●最後にババを引かたないためには、個人個人が運用志向を
 強く持つべきだ。


では、このような返却できる見込みが立たない莫大な金額の
国債を発行し続ける日本政府は、最終的に、この国債を
どのように処理しようとしているのでしょうか?


答えは簡単です。すべて1500兆円を誇る日本の
「個人金融資産」にそのしわ寄せが回ることになるという
だけでしょう。


実際に、国債の保有割合において、家計部門の存在感が
少しずつ高まってきています。


2006年9月末に、家計の国債保有残高は初めて30兆円を突破
しました。国債発行残高全体に占める比率も5%弱に達し、
銀行など金融機関の保有比率が低下しているのと対照的な
構図になっています。


※「国債発行残高と家計の国債保有残高の推移」チャートを見る
「国債発行残高と家計の国債保有残高の推移」チャート


また、家計の国債保有残高約30兆は、前年同月に比べ20%もの
増加になっており、05年3月末に20兆円台に乗せてから
1年半でほぼ10兆円増えているという状況です。


家計の国債保有残高の推移を見てみると、80年代~90年には
多くても10兆円強だった家計保有額が、00年以降、急激に
伸びてきているのが分かります。


対照的に金融機関は、自分たちの国債保有比率を
下げてきています。


なぜ、このように家計の保有比率が高まってしまうかというと、
大きな理由は次のような点にあると私は思います。


1つは、銀行預金の金利が低いことに嫌気をさした個人が、
少しでも金利がつくという理由で国債を購入してきたからだと
思います。


一方で、いかに低金利でもやっぱり銀行預金が安心だという
人たちは、引き続き銀行に預金をしてきたでしょう。


しかし、ここでも銀行が国債を買っていることで、
結果としては、銀行を通じて間接的に家計が国債を負担している
ことになってしまっているのです。


国が返却できる見込みもなく発行し続ける国債を、
家計が保有することで、最終的には、一般庶民がババを
引くということになれば、あまりにも横暴です。


では、これを回避するためには、どうすればいいか?


先に述べたように、銀行に預けても、自分で国債を買っても
ダメです。


ポイントは、個人個人が運用志向を強く持つことだと
私は思います。


運用志向が強くなって、きちんとした投資判断をすれば、
日本の銀行に低金利で銀行預金として預けることも、
国債を買うこともなくなるでしょう。


銀行預金や国債購入というのは、自ら運用したくない、
面倒だ、という不精な意識の現われだと私は思います。


確信犯的に返せる見込みのない国債を発行し続ける政府。
そして、夕張市だけを祭り上げて自らの問題を公表しない
政府には、大きな問題があるでしょう。


政治家や役人が持つ「問題を先送りにする、隠蔽する」という
体質の改善を強く望みます。


しかし、そのためには、単にそれを指摘・批判するだけでなく、
私たち個人がしっかりと自分自身で問題点を考え、判断し、
行動できるようになる必要があると思います。


自ら考えることを放棄してしまうと、結局は、ババを
引かされることになります。


政府の問題と片付けるのではなく、個人個人が意識を
高く持つことが大切ではないでしょうか。


                               以上


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