大前研一「ニュースの視点」Blog

KON1028「小林製薬 紅麹サプリ/国産ウイスキー」

2024年4月5日 国産ウイスキー 小林製薬 紅麹サプリ

▼小林製薬 「紅麹」関連製品を自主回収
まずは原因分析、そして一日も早い線引きを


小林製薬は22日、発酵食品の紅麹を使った機能性表示食品を自主回収すると発表しました。同社のサプリメントを摂取した消費者から腎疾患などの健康被害が発生し、これまでに114人が入院し、5人の死亡が確認されており、被害はさらに広がる可能性があります。また厚生省と大阪市は30日、小林製薬大阪工場の立ち入り検査を行いました。小林製薬は2016年、繊維メーカーのグンゼから紅麹の製造販売事業を譲り受け、今回問題となった「紅麹コレステヘルプ」など3商品の原料を大阪工場で製造していましたが、この工場では青カビ由来で毒性の強いプベルル酸が検出されており、その生成および混入の経緯など、原因究明を進める方針です。

「原子炉の人間」と自負している私は、原子炉の事故のように甚大な事故が起こった場合には、まず原因分析をすることが第一だと思っています。分かっていることは何か、仮説に対するネガティブなことは何かというように、素早く事故分析をするという手法を取るべきです。しかし今回は、その手法を誰も用いてはいません。

現時点では、該当する紅麹配合サプリメントを常時飲んでいた人たちだけがこの問題に関わっています。しかしマスコミによる報道などを見ると、小林製薬の紅麹を使って商品を製造販売している会社は1000社以上ありますが、そういった会社からは腎臓病やひどい問題が起こったという話は今のところ出ていません。そして該当サプリメントを製造していた工場からは青カビ由来のプベルル酸が検出されたようですが、腎臓病との関係については専門家もまだ分からないと言っています。そういう状況であるため、取りあえずはどの企業も謝罪の姿勢を見せ、そして世間は大騒ぎとなっているということなのです。

一つの例として、私のケースをお話ししたいと思います。長い間、わが家では岡山・備前の会社が作っている「紅麹みそ」が好きで購入しています。私は小林製薬との関係が気になって、電話で直接聞いてみました。すると小林製薬から購入した紅麹を使っているとのことで、回収するため着払いで送ってほしいと言われました。そこで手元にある商品を見ると、私はみそに賞味期限なんて関係ないと思っていますが、賞味期限が2年も過ぎていました(笑) しかしポイントは、今回の事件で問題の紅麹配合サプリメントは1年半前に製造されたということです。私の自宅にある商品には問題はないのですが、電話口の会社の方は非常に低姿勢で謝っておられました。

私は紅麹原料を使った商品を作った会社は、今回の事件には関係ないと思っています。今1000人近い患者が出ているのは、小林製薬の該当サプリメントを摂取した方だけです。この部分を仕分けして考えなければならず、紅麹が全て駄目だというイメージが広がっていることが問題なのです。サントリー社長の新浪氏は大変いら立っていますよね。それはサントリーが非常に多くのサプリメントを扱っているからで、今回の事件によってサプリメントの使用をやめようとする人が増えることを恐れているのだと思います。つまり、サントリーは直接の被害者となるわけです。

1年半前に製造された紅麹配合サプリメントにプベルル酸が混入し、それ以前のものには問題はありません。そしてプベルル酸の毒性の強さは明らかですが、人が亡くなるほどに腎臓を傷めるものかなど詳細はまだ分かっていません。ですから小林製薬や厚生省はもっと厳しく原因分析をすべきです。原子力の事故分析で用いられたように、分析手法はある程度確立しています。小林製薬が紅麹を卸している千何百社全てが商品を回収するとなれば大変なことになりますので、一日も早く線引きを行わなければいけません。

「初動対応として、BBTの大学院で学んだジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノール事件が手本になるのではないか」という質問をいただきましたが、今回については手本にはなりません。ジョンソン・エンド・ジョンソンの事件はタイレノールの一部に毒を入れた犯人が存在し、それを飲んだ人が被害に遭ったというもので、ジョンソン・エンド・ジョンソンは社是に従って事実の全てを明らかにしました。もちろん小林製薬も社是に基づいて全てを開示する必要はありますが、ジョンソン・エンド・ジョンソンとは事情が違います。小林製薬は「“あったらいいな”をカタチにする」をブランドスローガンにしていますが、社名も含めた大きな変革をしなければ立ち直れないでしょう。そして社長は代々、小林一族が務めており、社名の小林も含めて今後の会社としての在り方を考えることにもなるでしょう。小林製薬にとっては甚大な影響があるということです。

▼国産ウイスキー 「ジャパニーズウイスキー」定義する自主基準施行
カテゴリーではなく、ブランド戦略を進めるべき


ウイスキーの業界団体、日本洋酒酒造組合が定めた自主基準が4月1日に発行されます。これは「ジャパニーズウイスキー」と表示するための製造面での定義として、「仕込みに日本国内で採取された水のみを使用すること」や「日本国内の蒸留所で10日、発酵、蒸留すること」などを定めたもので、海外で日本産と偽り海外製品が販売されている現状を踏まえ、日本産のブランド保護につなげる考えです。

以前は日本で作ったウイスキーを「スコッチウイスキー」名付けて売っていましたが、スコットランドで作られたもの以外は「スコッチウイスキー」とは呼んでは駄目だと、スコットランド側から怒られた歴史があります(笑) ちなみにサントリーは、その時期にスコッチの蒸留所をいくつか持っていたので、非常に得をしたようです。そして今では、日本のウイスキーは名声を回復して値段も高騰し、博物館に入るまでになりました。しかし日本ではウイスキー新規製造免許取得者数は増加していますが、ウイスキーの消費量は他の酒類と比べて最も低く、さらに酒類全体の消費量も減りつつある状況で、何をいまさらと私は思います。

また「日本の主な品目別の農林水産物・食品の輸出額」グラフによると、ウイスキーは日本酒よりも上位ですが、ホタテ貝よりも下にあり、さらにホタテ貝は調製したものもあり、ジャパニーズウイスキーの名声は高くなっていますが、輸出額としてはそれほどではありません。ジャパニーズウイスキーというカテゴリーで売るのではなく、ブランドで売っていくほうがうまくいくと思います。同じメーカーのウイスキーでもブランドの好き嫌い、良しあしはありますので、カテゴリーで売ろうとすれば必ず事故を起こすでしょうから、誰がやっているのかは知りませんが、やめてほしいと思いますね。


---この記事は2024年3月31日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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