大前研一「ニュースの視点」Blog

KON1030「憲法改正/日米関係/米ノースカロライナ州」

2024年4月19日 憲法改正 日米関係 米ノースカロライナ州

▼憲法改正 今国会初の自由討議開催
まずは案の提示を、順番を間違えるな


衆院憲法審査会は11日、今国会初となる自由討議を開きました。その中で自民党の中谷元防衛大臣は会見の原案作成の協議を行う環境を早期に整備することを提案するとし、協議会を立ち上げるよう求めましたが、立憲民主党の逢坂代表代行は自民党派閥の裏金事件について、自浄作用のない自民党が改憲を論ずることに正当性があるのかと批判、岸田首相が目指す9月までの総裁任期中の憲法改正は困難な情勢となりました。

憲法改正については原案がありませんので、9月までの実現が無理であるのは明らかです。本来は原案作成後に国民が議論、そして国会の場で政党が議論するというのが正しい順序ですが、安倍政権以降の十何年はそれが行われていません。自民党は憲法改正を党是として設立されましたが、二つか三つの案はあるものの、その内容はいい加減なものです。私は『君は憲法第8章を読んだか』という本の中で、それを詳しく取り上げていますが、国会議員でこの本を読んでいる人は少ないと思います。そして多くの国会議員は、憲法そのものでさえ読んでいないと思います。まずは国民自身が憲法をしっかりと読み、理解することから始めなければいけません。

憲法を作成する際に、米軍は駐留中に聞いたうわさ話をもとに、例えば当主は家族をなぐってはいけないなどといった趣旨の記述を含めました。これを書いたのは女性の米軍メンバーだったようですが、このような付け焼き刃的なものが多く含まれるのが今の憲法です。このような憲法の改正原案を提案しているのは、日本広しといえども私だけです。京都大学・法学部の先生がたは、私のことを図々しいやつだ、俺たちは憲法の批判はすれど、こういう憲法にすべきだという提案はしたことがない、部外者だからできるのだと言っていますが、私の説をちゃんと読んでもらえば分かってもらえると思います。

たたき台となるべきものがないのに9月までに憲法改正を目指すという岸田氏はおかしい、順番が違います。安倍氏は憲法改正に向けて、国民投票法案、選挙権年齢引き下げ案などを表明しましたが、岸田氏にはどういう憲法がよいかの提案がありません。また9条を巡っては、自衛隊は軍隊であると改めたいようですが、安保3文書によれば既に軍隊どころの話ではありません。

衆議院の憲法審査会は全く仕事をせず、国民は考えることを放棄しています。また立憲民主党は裏金問題のほうが先だと騒いでいますが、そんなことはどちらでもよいのです。立憲民主党は憲法問題についての考えを示さねばなりません。私は何十年にもわたり、自分の案を提案してきているだけに、今の状況は幼稚園児のけんかのように見えて仕方がありません。

▼日米関係 米バイデン大統領と首脳会談
アメリカの言いなりの立場だと表明して、拍手喝采


アメリカを訪問した岸田首相は11日、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、自衛隊とアメリカ軍の指揮統制の向上など防衛協力を深めるとともに、経済安全保障や宇宙など、幅広い分野での連携強化を確認しました。またアメリカ議会での演説で、岸田氏は「日米は未来のためのグローバルパートナー」などと呼び掛け、十数回にわたりスタンディングオベーションを受けました。

9年前の安倍氏の演説と比べると、今回はアメリカ人が非常に喜ぶ仕上がりで、スピーチライターが優れていたのだと私は思いました。そして岸田氏が今回、国賓待遇での訪問となった理由は、安保3文書を決定したことであり、アメリカ人が喜ぶのも当たり前です。いざとなったときには日本が米軍の指揮系統に入る、防衛費をGDP2%へと増額決定したことなど、アメリカの期待に応えたからです。日米共同パートナーと言ってはいますが、実質的には日本はアメリカの言いなりで、アメリカが戦闘状態となれば日本は必ず駆け付けると言っているのですから、スタンディングオベーションぐらいは何度でもやるでしょう。

そしてGDP1%を守り続けていた枠を2%にまで広げて、日本では造れない兵器についてはアメリカから買います、トマホークも買いますと言っているのですから、アメリカからすれば日本は貢ぐ君です(笑) カモがネギを背負って来たのですから、国賓待遇にだってするでしょう。日本は100%、アメリカの同盟国ですから仕方がありませんが、岸田氏は与えられた状況の中ではうまくやりました。日本がアメリカに従順であることを熱弁した岸田氏は、アメリカ人にとっては涙が出るほどうれしいお客さまです。

また歴代の総理大臣が重要だとしている拉致問題については、今の日本はそれを横に置き、トップ同士が会いましょうとアメリカにも北朝鮮にも妥協した形になっています。40年近く前に小泉氏は蓮池氏ほか数名の帰国を実現しましたが、金与正氏は「拉致問題は解決済みであるのに、それを諦めないまま、わがリーダーに会いに来ることは認めない」と言っており、今となっては拉致問題解決の実現は疑問です。大っぴらに言えば恐らくたたかれるでしょうが、岸田氏は現実を意識し、政治的には大きなリスクを背負うべきでないと、私は思います。

ここで日米関係に関する質問を紹介します。
「日米同盟の在日米軍の司令部強化に関連して、日米同盟の在り方については何十年も議論されていますが全く変化はありません。地政学上、日本一国で対処するのは難しく、日米同盟は抑止力として必要であるとしても、自衛隊にも一定の権限を持たせるような施策が必要であり、米国一国からの依存から抜け出す必要があるのではないでしょうか」

これまでの日本は専守防衛などいった、ばかげたことを言っていたため、攻撃以外の目的がない空母を日本は造れませんでした。しかし安保3文書が決定されたことにより、日本は専守防衛ではなくなりました。日本が米国一国からの依存から抜け出すとすれば、中国がパートナーになるのでしょうか。その場合、アメリカと中国が戦闘関係になったときには日本はどちらに付くのでしょうか。そして、日本が中立国になるのも難しい。

2021年に発足したAUKUSはオーストラリア、イギリス、アメリカ間の軍事同盟であり、フランスも興味を持っているようで、アメリカの保護の下にパートナーシップをつくっていく流れがあります。またフィリピンのボンボン・マルコス氏は知事時代には中国べったりの政策を行っていましたが、中国海警局の船が高圧放水銃でフィリピン船を攻撃して、けが人も出たという事件があり、マルコス氏もようやく現実に目覚めたようです。アメリカとの関係を強化しようと、マルコス自身が3プラス3の協議を定期的にやろうと提案しています。

今、オーストラリアを含むもの、イギリスを含むものなど、同盟が多過ぎて分かりにくくなっていますが、基本は日米であり、そこに韓国が見え隠れするというような状況です。安保関係の中心にアメリカがあるのは間違いありませんが、日本、韓国、フィリピン、オーストラリア、そしてヨーロッパで仲間外れとなっているイギリスも入れてくれと希望するなど、非常に流動的です。

韓国には、何が何でも北朝鮮と一緒になるほうがいいと主張していた文在寅政権時代の残党がかなり残っており、今回の選挙では議席の多くを増やしています。もしかすると次は民主党政権となり、そうなれば南北統一が重要で、日本なんてくそくらえだという流れに向かうかもしれません。現政権は日本やアメリカとの関係強化を望み、北はどうでもよいという考えですが、政権が変われば韓国が同盟国であり続けるのは難いでしょう。日本は誰を頼りに生きていけばよいのか、日本だけでは寂しいという、非常に不安定な状況にあります。

▼米ノースカロライナ州 トヨタ工場、ホンダ拠点を視察
日本の自動車産業は北米で発展し、米国への直接投資で貢献


アメリカ・ワシントンでの日程を終えた岸田首相は12日、ノースカロライナ州でトヨタ自動車が建設中の工場や、ホンダのアメリカ航空機事業子会社の拠点を視察しました。トヨタは同州で総額139億ドル、およそ2兆1300億円を投資し、EV向けの蓄電池工場を建設する計画で、岸田氏は日米のサプライチェーンや先端技術での協力を象徴する取り組みと強調しました。

ノースカロライナ州はワシントンのすぐ南にあるため、行きやすいという理由で岸田氏は立ち寄ったのでしょう。小型ビジネスジェットであるホンダジェットはこの地で造られ、よく売れています。日本の海外直接投資残高はアメリカが圧倒的に多く、岸田氏の演説でこの話題になったときには、スタンディングオベーションとなりました。

日本はアメリカにお金を落としていますが、デトロイトをつぶしたのも日本です。日本の自動車会社は、アメリカで生産するようになり、今はデトロイトでも多くの車を造っています。アメリカにとっては悩ましい問題ではありましたが、日本は日米貿易戦争の頃に大変たたかれたため、アメリカに多大な投資を行い、50%以上の付加価値を付け、メイド・イン・アメリカのレッテルを貼られた車を売るということをやってきたわけです。

ホンダはジェット機だけではなく、もちろん車もアメリカで製造し、そして日産はテネシー州にスマーナに工場があります。日本の自動車メーカーの工場はメキシコにもありますが、基本的には北米での生産を主とし、年間350万台以上、多い年は400万台の生産を行い、生産量はアメリカ・デトロイトのビッグ3のそれを超えています。韓国による自動車生産は、カナダではうまくいきましたが、アメリカは攻略できずにいます。この話も演説に盛り込み、日本はアメリカの疑似メンバー、家族になったと、拍手喝采、うれし涙を誘いました。

---この記事は2024年4月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています。

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