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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON148 金融再編で見えた!金融庁の再定義で、業界の健全な成長を目指せ

2007年2月2日

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三菱UFJフィナンシャル・グループと松井証券が提携交渉へ
不良債権に見通し。全国の銀行、不良債権比率2.7%に低下
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●再編が進む金融業界。金融庁の役割に懸念。
23日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)が、
インターネット専業証券大手の松井証券と資本提携に向けて
交渉に入りました。


個人投資家の株式売買はインターネット経由が主流と
なっているので、MUFGとしては、松井証券と連携し、
証券の個人向け部門の強化を図る狙いでしょう。


逆に、松井証券は手数料の引き下げ競争が激化する
ネット証券内での巻き返し戦略の見直しのための提携と
いったところでしょう。


以前から私は、松井証券はどこかと提携して競争力を向上
させない限り、ネット証券業界内で活路は見出せないと
主張してきました。


提携先として、MUFGとは予想していませんでしたが、
提携という方向性そのものは正しいと思います。


今回の提携の今後の行方を考えるときのポイントは、
MUFGが保有するカブドットコム証券と松井証券の棲み分け
という点でしょう。


今回の提携はMUFGが松井証券の株式15%を保有する
(出資する)というもので、完全合併という形ではありません。


カブドットコム証券は、会員数は多くありませんが、
システム面が強いという特徴があります。
松井証券とは、システムも業務の守備範囲も大きく
異なっています。


完全合併ではない状態で、この両者をどのように結びつけ、
またどのように棲み分けていくのか、という点が
今後の最大の課題になるだろうと思います。


このような建設的な金融再編が進む一方で、
非常に残念なことに、MUFGでは金融不祥事も発覚しています。


26日、金融庁は三菱UFJ銀行に対し、一部業務の
停止命令などの行政処分を下す方向で調整に入りました。


財団法人「飛鳥会」の元理事長の不正に
長期間かかわったことが判明したためとのこと。


また、これとは別に、三菱UFJ証券は自己売買取引に
法令違反が見つかり、業務改善命令を発動する
見通しもあるとのこと。(31日同令発動)


金融再編を行おうとしているまさに同じタイミングで、
このような不祥事が発覚し、建設的な再編の動きに
水を差す形になるのは非常に残念でなりません。


ただ一方で、私はこれらの不祥事そのものだけでなく、
これらの不祥事の取調べを行っている金融庁のあり方
そのものにも懸念を抱いています。



●不良債権処理を終えた、金融庁の役割を再定義するべき。


25日、金融庁が発表した全国の銀行の不良債権状況によると、
2006年9月末の不良債権残高は約12兆で、4年連続の減少を受け、
不良債権問題の対処の見通しが見えてきたと発表しました。


私から言わせれば、この数字そのものは若干「まやかし」だと
指摘したいところです。不良債権の残高のピークは
2002年3月期の約43兆円という発表ですが、


私の調べでは96年ごろが残高のピークで100兆円以上あった
のではないかと思っています。


その100兆円超の金額の中で、銀行が認めたものだけが
公表されているに過ぎないのではないかと思います。


※「全国銀行の不良債権残高と不良債権比率の推移」
「全国銀行の不良債権残高と不良債権比率の推移」チャート


ただ、不良債権問題の対処が終わりに近づいているのは、
間違いないでしょう。


今後の懸念としては、主要行9行の不良債権比率が
平均で1.5%まで低下した一方、地方銀行は未だに
4.4%もあるという点です。


平均で4.4%ですから、中にはもっと高い水準の銀行が
あるということです。


このあたりは慎重に見守っていくべきだと思います。


さて、このように不良債権処理が進んできたとき、
私が以前から主張しているのが、金融庁という組織の
再定義です。


金融庁は、もともと不良債権処理のために組織されたものです。
当時、私自身が故小渕元首相に金融庁の役割について
提言しましたので、間違いありません。


ところが、金融庁は、その本来の目的である不良債権処理が
終わろうとしている今、さながら金融業界の鬼っ子のような
立場になってしまっています。


先に取り上げたMUFGへの処分を見ても、
これと言ったやることがないので、気づくと取調べと
業務改善の勧告を繰り返し行っているという印象があります。


もちろん、不正そのものを見逃すべきではありませんし、
行政処分は厳しくあるべきでしょう。


しかし、金融機関を育てるという役割と、行政処分を執行する
という役割を同時に金融庁が担っているのは問題があります。


役所としては、それぞれの役割ごとに2つに分けるべきです。


指導を受ける側の金融機関側からすれば、
いつ自分を取り締まり、業務停止を言い渡すかもしれない
相手にオープンに情報を開示しろといっても難しいところで
しょうから、今のままの金融庁では機能しなくなって
しまうのは明らかです。


不良債権の処理が一段落したというなら、
本来の目的からはずれ、なし崩し的に業界育成と
行政処分を行う組織になっている金融庁は、早急に
再定義されるべきです。


金融庁の問題を含め、日本の行政・役人体質で常々感じるのは、
目的を明確にしていない、オープンにしていない政策が
多いということです。


不良債権処理を終えた今、健全に金融業界を成長させる
という目的が第1ではないでしょうか。


もう一度、その目的を明確にして念頭におきつつ、
必要な組織を考え直してもらいたいと思います。


                            以上


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