大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON455「TPP交渉参加と日本の農業改革~価値ある情報を理解する」

2013年3月1日


 農業改革

 農業の構造改革を加速

 TPP

 すべての品目が交渉対象


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 ▼ 日本の農業を成長産業に位置づけるなど、世界を知らなすぎる

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 安倍首相は18日、政府の産業競争力会議で今後の農業政策について

 「成長分野と位置づけ、産業として伸ばす。農業の構造改革を加速し、

 農産品、食品の輸出を拡大する」との考えを示しました。


 また同時に「『日本の農業は弱い』という思い込みを

 変えていくことが重要だ」と指摘したとのことですが、

 私は理解に苦しみます。


 産業競争力会議のメンバーには、竹中氏などもいるはずなのに、

 なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。


 日本の農業を成長分野と位置づけて、あまつさえ輸出で

 1兆円規模を目指すなど、まず不可能です。


 主要国の平均経営農地面積を比較して見ると

 以下のようになっていて、日本の農業に国際競争力が

 ないことは一目瞭然です。


 米国:178.6、イギリス:55.6、フランス:48.6、ドイツ:43.7

 北海道:18.7、日本全国:1.8 (単位:ヘクタール)


 北海道でも米国の10分の1に過ぎませんし、

 それ以外の地域は箸にも棒にもかからないレベルです。


 世界的に見れば、オーストラリアの方が米国よりも、

 さらに広い農地面積を有しています。


 この現状で農業によって世界と戦おうなど、

 「井の中の蛙」の中でも相当レベルが低いと言わざるを得ません。


 また日本の農業について考えるとき、

 次の2点が重要だと私は思います。


 まず1つは、農作物は工業用品よりも嗜好品に近い感覚で

 捉えるべきだということです。


 市場が開放されたからと言って、必ずしも価格が安ければ

 受け入れられるわけではありません。


 日本でも、ピーナッツやさくらんぼの市場が開放されましたが、今でも

 千葉県のピーナッツ、山形県のさくらんぼの方が海外から輸入したもの

 よりも高値で売れており、見事に生き残っています。


 つまり、国際競争力とは関係なく、ニッチなニーズが存在するという

 事実を認識すべきだと思います。


 2点目は、日本では耕作放棄地も耕作放棄地面積率も共に増加し

 続けているということです。


 特にこの十数年間で、耕作放棄地に占める自給的農家と

 土地持ち非農家の割合がぐっと増えています。


 ウルグアイ・ラウンドの後、莫大な資金を投じて

 農耕地の拡大を図ったのに、結局は耕作放棄地に成り下がり、

 日本農業の弱体化は進む一方です。


 日本の農業従事者の平均年齢は65歳を超えていますから、

 頑張れと言っても体力的にも難しいでしょう。


 このような現状を踏まえて、

 「農業で国際競争力を持って成長分野と位置づける」など

 信じられない話です。


 もしかすると、この話題そのものが何かのためのフェイクなのかも

 知れませんが、それにしても「筋が悪い」話だと私は感じます。


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 ▼ 例外なき貿易自由化はあり得ない。米国にも悩みの種はある

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 日米両政府は22日、環太平洋経済連携協定(TPP)についての

 共同声明を発表しました。


 「あらかじめ、一方的に全ての関税撤廃を約束するよう求められる

 ものではない」としており、安倍首相は交渉への日本への参加について、

 「なるべく早い段階で決断したい」と意欲を示しました。


 TPPで米国が市場開放を求めて狙ってくるのは、農業に加えて、

 郵政(特に簡保)の利益だと思います。


 TPPによる「例外なき貿易自由化」の危険性を訴える人がいますが、

 実際にはどこの国でもあり得ません。


 米国にしてみても「悩みの種」はあるのです。


 米国の場合、それはGMとフォードです。


 両社ともピックアップ・トラックの業績が好調ですが、

 日本のピックアップ・トラックにのみ25%の関税をかけています。


 もしTPPによって、この関税が撤廃されれば、

 せっかく回復しつつあるGMもフォードも危ういかも知れません。


 特にフォードはかなり危険だと思います。


 ですから、全てをテーブルの上において議論したとしても、

 米国にも「これは例外にしてほしい」というものはあるはずだから、

 極端に恐れる必要はないのです。


 日本の場合、農業団体が騒ぎを大きくしている節があります。


 これは、おそらく補助金狙いでしょう。


 すでに補助金漬けの日本の農業が、さらに補助金をとるために

 騒動を起こしているというのが実態だと私は見ています。


 米国側の事情も分かっているので、安倍首相としては

 TPPへの参加を決断できると思います。


 党内の手続きは少々面倒になることが予想されます。


 おそらく、参議院選挙の直前まで引き伸ばして6月くらいが

 最終的な目安になるでしょう。


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