大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON413「日本のデフレ対策と経済構造 ~日本と米国の違いを考える」

2012年5月11日

 デフレ対策 「日本化」回避を強調
 米株式市場 ダウ工業株平均 4年4ヶ月ぶり高値
 米住宅ローン金利 30年固定型3.84%で過去最低を更新


 -------------------------------------------------------------
 ▼日本の景気対策がなぜ難しいのか?日本と米国の違いは?
 -------------------------------------------------------------


 「我々は(日本のような)デフレに陥るのを回避した」。
 
 バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は25日、米国は素早い
 政策対応をした結果、バブル崩壊後の日本のような長期の経済停滞は
 回避できるとの見通しを表明しました。


 一方、日本政府は27日、デフレ脱却に向けた対策を検討する閣僚会議を開き、
 デフレへの取り組み方針などを示した4原則を了承しました。


 非正規雇用と正規雇用の均衡処遇、医療、介護など成長分野の
 需要掘り起こしなどを盛り込んでいます。


 私に言わせれば、バーナンキ議長も「良く言ったものだ」と思います。


 米国は90兆円規模の資金を投入して日本と同じような状況を回避したと
 いうことでしょうが、結果として銀行は集約され、ほぼゼロ金利状態に
 なりましたから、「ほとんど日本と同じ」だと私は思います。


 また米国と日本では「条件」が異なる点も忘れるべきではないでしょう。
 日本は米国に比べても厳しい条件下にあります。
 
 少子高齢化が進み、国内の消費は上向く様子はなく、また外国人が
 入ってこないためにダイナミックな政策をとることも難しい状況です。
 


 バーナンキ議長が言う「インフレ政策」として資金をマーケットに
 供給しても、日本の場合にはマーケットが資金を吸収しないという
 問題があります。


 日本では、一部経営難に陥っている企業を除けば、構造的に企業が
 資金を必要としていません。
 
 通常、自己資金もしくは減価償却の範囲内で賄えてしまいます。
 
 実際、2001年~2006年にかけて30兆円規模の資金が日銀から
 マーケットに投入されています。
 
 ところがニーズがないため、資金は吸収されませんでした。
 
 仕方なく日銀は資金を銀行に貸し出しましたが、銀行が中小企業に対して
 貸し渋ったため、亀井氏による悪名高い
 「中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)」につながってしまいました。
 
 結局、企業にせよ個人にせよ、お金を吸収できないというのが
 日本固有の大きな問題なのです。
 
 政府が決めたデフレ脱却の4原則を読みましたが、
 「成長産業には成り得ない」というのが私の感想です。
 
 例えば非正規雇用を正規雇用に変えたところで、
 需要創出にはつながらないでしょう。


 このような流れになると「官民連携ファンド」のようなものが立ち上がり、
 最後まで責任を持たない官僚が、後先考えずに大きな予算を組み、
 「バラマキ」をするという可能性が大ですが、
 何ら根本的な問題解決にはなりません。


 日本の場合、「銀行そのものが機能していない」という点が
 根本的な問題だと私は考えています。
 
 日本の銀行には「これぞ成長産業だから投資しよう」という見極める力が
 あるわけでもないですし、「成長産業」を育てていく力もありません。


 今や銀行は統合されてしまい、どこもかしこも同じような銀行に
 なってしまいました。


 かつて住友銀行と松下電器がそうであったように、
 企業と銀行は何十年に渡る互恵関係がありました。


 中小企業で言えば、あるときは銀行にお世話になり、あるときは銀行に
 預けておくという関係性です。


 今はそうした関係性がありません。


 中小企業としては「借りても、どうせ後から貸し剥がしにあう」
 のは分かっているので、そうまでして成長しようとは思わないというのが、
 本音だと思います。


 こうした日本の特殊事情を考えると、米国と日本を一元的に比較することは
 難しく、バーナンキ議長が誇りたい気持ちも分かりますが、
 経済状況の違いから見ると米国のほうが幸運だったと言えるでしょう。


 -------------------------------------------------------------
 ▼回復の兆しが見える米国経済。自国経済を理解していない米国経済学者
 -------------------------------------------------------------


 1日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、米経済指標の改善を
 好感して反発し、前日比65.69ドル高の1万3279・32ドルで取引を終えました。


 終値として2007年12月28日以来、約4年4カ月ぶりの高値水準を回復しました。


 今年、米国は大統領選挙の年なので、「失業率が下がっている」
 「経済は好調さを取り戻している」など、やや誇張された報道が目につきます。


 ダウ工業株30種平均の推移を見ると、リーマン・ショック以降も、
 リーマン・ショックほどではないですが、何度か「大きめの波」が
 襲ってきているのが分かります。


 1日数ドルずつ推移するという安定した状態から比べると、下がるときには
 一気に100ドル下がるという状況もあるので、経済そのものが
 「安定している」とまでは言えないでしょう。


 ただし全体の平均値で見るとリーマン・ショック以前の水準に
 回復しつつあります。


 日本は未だそこまで回復をしていませんから、その点は大きな違いと
 いえるでしょう。


 また住宅建設についても明るい兆しが見え始めています。


 米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は3日、
 米国の住宅ローン金利が過去最低を更新したと発表しています。


 同公社の週間住宅ローン調査によると1週間の期間30年の固定金利は
 全米平均で前週比0.04ポイント低い年3.84%で、
 これまでの最低だった2月16日の3.87%を下回ったとのことです。


 固定金利は高くなりがちですが、3.8%というのはものすごく有利な
 数字だと思います。


 政治的な働きかけもあったと思いますが、基本的には市場が決めている
 固定金利として、この数字に定められています。


 一昔前からすると、夢のような水準です。
 住宅建設が少しずつ上向いてきている証拠だと思います。


 そんな中、5月7日号のNewsweek誌は表紙に「スーパーマン」を登場させ、
 「米国は未だにナンバーワンである!」という記事を
 大々的に掲載していました。


 私としては、また米国の悪癖が出てきたかと思いました。


 「the U.S. is better, stronger and faster」などと書いてありましたが、
 そもそも勝手に比較して「米国経済が衰えた」
 「中国にやられてどうしようもない」という記事を書くのも自分たち自身です。


 1年から2年周期で米国を非難したかと思うと、今回のように
 やっぱり米国は強いという記事を書いています。


 2009年3月以来S&P500の株価指数が104%上昇、2011年には6200万人の
 外国人旅行者の流入、アップルの好業績、2010年2月以来、民間部門での
 400万人の雇用創出など、確かに頷ける部分はあります。


 2011年の輸出額は約170兆円で2009年に比べて34%伸びているといいます。
 ドル安の背景を考えれば当然でしょう。


 さらに言えば、米企業は「特許」「ネットダウンロード販売」
 で莫大な利益をあげています。


 ここで注意してもらいたいのは、米国は世界で唯一「貿易という概念がない国」
 だということです。


 米国には国際貿易という考え方は必要ありません。
 なぜなら、ドルという自国通貨で決済できてしまうからです。


 わかりやすく言えば、何か海外のものが欲しいと思ったら、
 輪転機を回しさえすれば買えるのです。


 日本、中国、ブラジルなど世界の国々は、そんなわけにはいきません。
 何かを買うときには、まずドルを手に入れる必要があります。
 
 日本のように貯めているドルを使える国もあれば、
 借金をしてドルを手に入れる必要がある国もあります。


 こうした背景を理解せずに、かなり古い経済学を拠り所にしているのが
 米国の経済学者であり、彼らは自国の経済を正しく理解できていない、
 と私は感じています。


 日本は米国と貿易戦争を30年も繰り広げてきましたから、こういうことを
 分かっていますが、中国はまだこのあたりの事情を理解できてないと思います。


 私は中国に行った際には「日本の経験が中国でも役に立つ」と述べているのは、
 まさにこういう部分です。


 今、中国は貿易戦争真っ盛りで、米国に「いじめられている」最中です。


 ぜひ、日本の経験・事例を参考にしてもらいたいところです。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点