大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON349「エジプト反政府デモ~ムバラク大統領の後釜を模索する米国や周辺諸国の動き」

2011年2月14日

エジプト情勢
ムバラク大統領 退陣表明も任期務める意向
反政府デモ
ヨルダン・アブドラ国王 リファイ首相を更迭
 -------------------------------------------------------------------
 ▼ ムバラク大統領の後釜を必死で模索する米国
 -------------------------------------------------------------------


退陣要求デモが続くエジプトのムバラク大統領は1日、今年9月に
 予定されている次期大統領選挙への不出馬を表明しました。


 しかし権力委譲のため残りの大統領任期を務める考えを示したことを
 受けて、反大統領体制派はデモを継続。大統領支持派との衝突が頻発
 するなど混乱は依然収まっていません。


 先日までの状況を見ていて、ムバラク大統領は早々に辞任に追い込ま
 れることになるだろうと予想していましたが、思った以上に長引いて
 います。ムバラク大統領の辞任に歯止めをかけてこの状況を作り出して
 いるのは米国でしょう。


 米国はムバラク大統領が辞任し、「真空」状態ができてしまうのを恐れ
 ているのだと思います。


 なぜなら「真空」状態になればイスラム原理主義が台頭してくるから
 です。


 ムスリム同胞団などはエジプトの事実上の最大野党と言われており、
 これまでは非合法化され活動を抑えられてきましたが、民衆からは
 根強い支援を受けています。


 ムバラク大統領の後継者候補としてエルバラダイ前国際原子力機関
 (IAEA)事務局長の名前が挙がっていましたが、海外で知名度は
 あるものの選挙基盤が弱く、エジプト人がエルバラダイ氏を大統領に
 選ぶ可能性は低いと言われています。


 またこれまで一党独裁が続いてきたため、一丸となって選挙に臨む
 ことは難しいでしょうし、選挙に慣れていないため、上手くいく
 可能性は極めて低いと思います。


 米国にとって悩みの種になっているのは、イスラム原理主義者は
 イスラエルとの関係を見直すかもしれないという点にあります。


 これは米国にとってみれば、かつて革命によりパーレビ国王が追放
 されイスラム体制へ移行したイランの二の舞になることを意味します。


 ムバラク大統領はすでに「死に体」にあり、息子が後を継ぐ可能性も
 なくなりました。


 さらにスレイマン副大統領では民衆の不満を抑えることは難しいと
 いう状況で、何とかして9月の選挙への代替案を米国は模索している
 最中だと思います。


 このままストレートに9月の選挙に突入すれば、ムスリム同胞団に
 政権が移る可能性も考えられるでしょう。それを阻止する可能性が
 ある施策は、唯一「軍隊」だと私は見ています。


 すなわち、軍隊が一度クーデターにより実権を掌握し、その軍隊の
 中から次の指導者を選び出すという方法です。


 ムバラク大統領も軍隊の出身者ですから不自然さもないでしょうし、
 米国とエジプトは軍隊のあらゆるレベルで相互交流しているので
 米国にとってもコントロールしやすいはずです。


 当然、裏で米国が糸を引いていたというのは絶対に公表することは
 できませんから、クーデターが成立したら、米国はそれを仕方なく
 認めるという態度をとることになると思います。


 -------------------------------------------------------------------
 ▼ 中東の民主化要求の動きとその影響
 -------------------------------------------------------------------


 チュニジアの政変から始まった中東での民主化要求の動きは、エジプト・
 シリア・ヨルダン・イエメン・リビア・アルジェリアにますます
 広がっています。


 ヨルダンなどは比較的安定していますが、イエメンは約20年にわたり
 政権を維持してきたサレハ氏が、事実上2年後に退陣する意向を明らか
 にしています。


 アルジェリアではブーテフリカ大統領が99年からの長期政権を継続中
 です。


 ブーテフリカ大統領は外務大臣として活躍した後、大統領に選出された
 人物ですが、かなりの実績を積み上げてきています。2008年に大統領
 三選禁止条項を撤廃し、さらなる長期間の居座りを図っているのでは
 ないかと見られています。


 このような状況に対して不安を大きくしている国の1つが中国でしょう。
 中国は50年以上の1党独裁政権ですから、中東での動きは他人事
 ではないはずです。


 最近、中国の検索サイトでは「エジプト」あるいは「ムバラク大統領」
 に関する検索に制限がかかったそうですが、まさに中国の不安心理の
 表れでしょう。


 今後の中東について見る際には、エジプトの後継者として「トルコ」
 に注目したいと私は思っています。


 世俗主義を国是としつつも、近年イスラム回帰の動向が見られる
 トルコは、エジプトが死に体になり、真空状態になっている中東において
 盟主としての立場を確立しつつあります。


 米国もトルコへの注目度は高いようで、最近行われた中東諸国との
 いくつかの会談では大抵参加国の1つとしてトルコの名が挙がって
 います。米国はトルコにイスラエルとの講和を期待しているのでしょう。


 この点、ロシアは実に上手い方法を採用しました。プーチン大統領の
 まま継続も可能な状況でしたが2期の任期終了時に、メドベージェフ大統領
 に引き継ぎました。


 これを繰り返して二人で大統領を交互に務めることも十分に可能だと私は
 見ています。実際、多選禁止になった中南米ではこうしたスタイルを採用
 している国も見られます。


 2011年2月7日号のNewsweek誌には
 「ALL QUIET IN PALESTINE(パレスチナ戦線異状なし)」という記事が
 掲載されていました。


中東の衛星テレビ局「アルジャジーラ」がウィキリークスよろしく、
 イスラエル・パレスチナの密約文書などを内部告発として
 ほぼ毎日公開していました。


 かなり大きな騒ぎになるかと予想していましたが、
 パレスチナのアッバス議長もイスラム組織ハマースも、
イスラエルとさらに戦いたいという意向はないようで、
非常に静かな状況で落ち着いています。


 そんなパレスチナの状況を『西部戦線異状なし』になぞらえて
 指摘している記事でした。


 民主化要求の動きに伴う中東各国の動向、それを見据えた米国や中国の動きなど
 について今後も注目していきたいと思います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点