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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON335「財政再建と将来の経済活力~論理が通じる英国、目の前の感情論に左右される日本の違い」

2010年10月29日

ドイツ経済
10年GDP成長率 年3.4%
イギリス財政
過去最大の赤字削減計画を発表
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 ▼ 東西ドイツの合併は、経済的には最高の合併事例だった
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21日に独政府が発表した経済予測によると、2010年の実質成長率は
 年3.4%、11年も年1.8%と潜在成長率を上回る勢いの景気回復が
 続く見通しが明らかになりました。


 ドイツ経済の強さが注目されています。欧州ではギリシャを発端として、
 アイルランドなど周辺諸国にも経済危機が広がりました。


 そのような中、ドイツがアンカーのポジションを取って踏ん張っている
 お陰で、今、欧州経済全体を見たときに一時のような壊滅的な状況には
 なっていないと私は感じています。


 ドイツ経済の強さは、高い技術力とそれを武器とした輸出が順調な点
 にあります。


 ドイツが日本の約2倍の輸出額を誇っています。また、現在も続いて
 いるユーロ安は「欧州全体には危機」ですが、逆に「ドイツには
 チャンス」をもたらしています。


 「経済が強い国は、危機が逆にチャンスになる」という現象が見られ
 ますが、今のドイツ経済はまさに代表的な事例でしょう。ただドイツ
 の輸出先は新興国が多く、その点について将来的な不安を指摘する声
 もあります。


 2010年10月4日-10日号のBloombergBusinessweek誌に「BEST MERGER EVER」
 という記事が掲載されていました。「企業合併の一番良かった事例は何か?」
 に対する答えとして、それは「東西ドイツの合併」だったと解説しています。


 20年前の「東西ドイツの合併」は実に見事な合併の事例だと
 Businessweek誌という経済誌が特集している点が非常に面白いと
 感じます。


 特集の中では、この20年間の奇跡的な合併劇について様々な指標が
 示されていました。総じて、多額の資金を投下したけれど、それを
 上回り十分に利益が出た合併であり、それゆえ今ドイツは世界第4位
 の経済大国になり、欧州で最も好調な経済を維持していると賞賛して
 います。


 面白い指標だと感じたのは、トルコやイタリアから流入してくる労働者
 が増えており、これらの国との関係性が強化されていて、結果として
 経済的に大きくプラスに働いているという点です。


 また、旧西ドイツ側には非常に広い地域で雇用機会が生まれていると
 いうのもドイツ経済の好調さを物語っている特徴的な指標だと感じま
 した。


 政治的に見ればドイツの合併が成功だったのかどうか、私としては
 疑問に感じる点もあります。しかし経済的にはドイツの合併が大成功
 だったというのは間違いないでしょう。


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 ▼ 英国の大規模な削減計画の行方は?
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 オズボーン英財務相は過去最大規模となる歳出削減計画の詳細を発表
 しました。


 公務員50万人を削減するほか、「持続可能で最大限の」歳入を確保
 するため銀行への課税を導入する方針などが盛り込まれたものと
 なっています。


 「消費税の引き上げ」「公務員50万人削減」など、英国キャメロン
 政権の財政建て直しにかける意気込みには、相当なものを感じます。


 一方、日本はこの期に及んで未だに「無駄予算」を増やす議論をして
 います。民主党には「本気で」財政赤字を削減しようという意志が
 まるで感じられません。


 日本は、対GDP比債務残高で世界ワースト1位に君臨しています。
 それにも関わらず、未だに肥満体質が抜けきらない政府にも呆れる
 ばかりですが、それを批判する声が上がらないことにも驚いてしま
 います。


 財政赤字を20兆円削減しスリムな体質改善を図る英国と、肥満体質
 のままの日本。この態度の違いは5年後、10年後になってどのような
 形で現れてくるのか注目していきたいと思います。


 これだけ大規模な削減計画が出ても、英国民は反対しないのか?と
 いうと、当然のことながら不安を感じているし、反対の態度も示して
 います。


 ただし、英国というのは非常に「論理が通る」という側面が強い国だ
 と私は感じています。


 BBCの放送などを見ていると、日本などに比べてバランスの良い報道
 内容になっていると思います。


 もちろん、削減計画の結果として「失う側の悲しみを伝える」報道も
 ありますが、それだけをクローズアップしていません。


 ゆえに全体としては「政府不信」までの報道にはなっていないのです。
 また、「全ての責任は前政権にある」「労働党政権が悪かった」という
 コンセプトがあり、早めに手を打ったのが功を奏している側面もある
 でしょう。


 一方フランスでは削減計画の一環として、現行の60歳定年制を廃止し、
 年金の支給開始年齢を62歳に引き上げることなどを柱とする制度改革
 法案を発表した途端、大規模なデモとストライキが起こり、大変な
 事態になっています。


 英国の場合、現段階ではフランスのような事態には至っておらず、
 「論理で収まりつつある」という状況です。


 ただ、これから本当に50万人の公務員が削減されたときには、どう
 いうことが起こるのかは分かりません。英国がどのような局面を
 迎えていくのか、注目していきたいと思います。


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