大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON318「ギリシア、借金のカタに国土売却!?~危機においてリーダーは大衆迎合するな」

2010年7月2日

 ギリシャ財政
財政再建へ島を売却 国内に約6000島
英財政健全化策
イギリス政府
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 ▼ 財政危機は、ギリシャの島々の売却まで追い込む
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25日付の英紙が報じたところによると、財政危機による信用不安に直面
するギリシャは財政健全化のため、国内に約6000ある島の一部の売却
を始めました。


ミコノスやロードスといった人気観光地の島の一部も対象で、長期の
リース譲渡にも応じるということです。


先日私は似たような趣旨のことを雑誌に書いたばかりで、それが現実の
 ものとなってしまい少々驚きました。


 ギリシャ支援のための負担を強いられたドイツでは与党政治家から
「ギリシャは島を売って借金を返せ」との声が上がっていました。


 発言そのものは感情的なもので、それほど実現性を考えたものでは
 なかったと私は感じましたが、ギリシャ政府としては実際にそれくらい
 の「誠意」を見せなければ外国からの支援を受けられないと理解したの
 でしょう。


 例えば、イオニア海のナフシカ島1200エーカー(約4.9平方キロ)は
 全体が約1500万ユーロ(約16億5000万円)で売りに出ているとのこと
 です。


 私もこの島に訪れたことがありますが、非常に美しい島です。こういった
 島には歴史的に価値があるものもありますが、個人が所有しているという
 島もあります。


 ロシアや中国のお金持ちならば、エーゲ海の美しい島を購入するという
 選択肢は大いに「アリ」だと私は思います。


 島全体の売却だけではなく、ミコノスやロードスといった人気観光地の
 島は部分的に対象となるようです。ただし3兆円規模の借金を返済する
 ためには、かなりの数の島を売却する必要がでてきます。


 ここには財政再建に向けてのギリシャ政府の「決断」の強さを感じます。
 ギリシャの最高の売り物は世界中の憧れの対象となっている美しい島々
 です。


 この取引が成功したとして、私としてはむやみな乱開発をしないで欲し
 いと思います。美しい島を壊さないために政府が一定の枠組みをつけて
 売却するべきでしょう。


 このギリシャの動きを見て困っているのは、ドバイだと思います。ドバイ
 は以前から島の売買取引を行っていましたが、ギリシャの島々とは「格」
 が違います。歴史的にも全く歯が立ちません。


 そこまで価値のあるものを「売る」という選択肢を取らざるを得ないの
 がギリシャの現状です。財政危機は最後にはここまで行くのだと、日本
 はギリシャを見て感じ取って欲しいと思います。


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 ▼ 英キャメロン首相に見る、真のリーダーとしての姿勢
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 英政府は22日、財政再建のため、日本の消費税にあたる付加価値税の
 税率を、現在の17.5%から20%へ引き上げることなどを盛り込んだ、
 緊急予算案を発表しました。


 キャメロン首相の行動の早さと決断力、そしてリーダーシップは素晴ら
 しいと私は感じました。


 この財政危機に際して英国はもはや「景気刺激」などとのんきなことを
 言っている場合ではなく、「財政再建」しかないと判断したのでしょう。
 財政再建の骨子を見ても、強い姿勢が感じられます。


 英政府の財政再建の骨子と日本の方針を比較すると、両者の違いが明白
 です。


■「財政再建の目標」について
 【英国】2015年までに財政赤字の対GDP比率を10.1%から1.1%に減少


 【日本】15年度までに国と地方を合わせたプライマリーバランスをGDP比
     で「10年度の水準からの半減」を目指す


     国地方の債務残高については「21年度」以降、安定的に低下させる


■「歳出削減の目標」について
 【英国】4兆円の歳出削減
 【日本】10年度の当初予算を11年度から3年間の上限予算とする
     11年度の新規国債の発行額を10年度以下に押さえる


■「税制の変更」について
 【英国】付加価値税を引き上げ、銀行税を導入、法人税率を引き下げ
 【日本】未だ決定事項なし


 キャメロン首相は、こうした強い方針を次々と決定しました。7月5日号
 のTIME誌にも掲載されていましたが、首相オフィスの前で自らのカバン
 を前に出して、「これが予算(バジェット)だ」と示した姿は非常に印象
 的であり、断固たる決意を感じました。


 リーダーというのはこうであるべきです。世論を見ながら「消費税を
 10%と言ったけれど、7%くらいで」という日和見な姿勢ではお話にな
 りません。


 議論をするばかりで「これはまだ決定ではないから」などと述べるのも
 リーダーとしては失格でしょう。


 いい加減なことを言わず、すぐにポジションをとるのがリーダーとして
 あるべき姿勢です。


 世論を聞いて妥協せず、一発で決めるのがリーダーです。おそらく今回
 の英国政府は財政赤字の対GDP比率を10.1%から1.1%に減少という
 目標を達成すると思います。


 2014年までの自らの任期中に達成しなければ、次はないと考えていると
 思います。


 日本は政治家もマスコミも、そして国民自身もだらしないと言わざるを
 得ないでしょう。いい加減な態度を示す政府も問題アリですが、リーダー
 シップの欠片もない彼らを許容している国民にも問題アリです。


 リーダーの資質の1つは削るべきものは削りつつ、全体のバランスを
 しっかりとることです。英国では、公務員の賃上げを2年凍結、子供
 手当を3年間停止、福祉給付の抑制、などの大幅な削減が決定しています。
 厳しい決定ではありますが、全体のバランスは考慮されていると思います。


 G20に出席した日本の菅直人首相は、未だに「景気刺激も大切」などと
 述べているようですが、ぜひ英国の事例を参考にして、リーダーとして
 あるべき姿を見直してもらいたいところです。


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