大前研一「ニュースの視点」Blog

KON1012「東芝/ 岩谷産業/ 産業用ロボット」

2023年12月8日 岩谷産業 東芝 産業用ロボット

本文の内容
  • 東芝 株式併合などの議案可決
  • 岩谷産業 シティインデックスからコスモHD株取得
  • 産業用ロボット 中小の生産性、産学で改善

▼東芝 株式併合などの議案可決
 再生への道には、いくつもの厳しく厚い壁

東芝は先月22日、臨時株主総会を開き、株式の非公開化に向けた議案を賛成多数で可決しました。東芝は2015年以降、不正会計やアメリカの原発子会社による損失発覚などで経営が混乱、また17年に実施したおよそ6000億円の増資でモノ言う株主が株式を大量に保有して経営が揺さぶられました。非公開化後の株主はJIP、日本産業パートナーズのみとなり、独自の成長戦略で再生を図る考えです。

私は、東芝の再生は無理だと思います。日本産業パートナーズは国そのものであり、そのような会社が株主であれば、今後、自由な経営はできないでしょう。私はこれまでに、二つの問題があると、いくつか記事にしています。東芝危機は3名の高齢者が起こした内ゲバで、西室氏はそれを良しとし、そういった老害が長らく続いたことが問題でした。そして投資銀行の介入が、二つ目の問題です。投資銀行はこのような状況になると、売れるものから売っていきます。レーマン方式による成功報酬を手に入れたい投資会社は、東芝メディカルのような高く売れる事業からどんどん売却するため、売れ残った事業はいわば「がらくた」です。

東芝が売却した主な事業は、東芝メディカルや中国・美的集団が喜んで買った白物家電の東芝ライフスタイル、東芝映像ソリューション、東芝ロジスティクスがあります。そしてパソコンのDynabookは台湾の鴻海傘下のシャープに売却され、空調システムの東芝キャリアはもともと合弁であった米国キャリアの傘下となりました。

その結果、現在の東芝の事業領域は発電や上下水道、鉄道交通のシステム、エレベーターなど、その多くは厳しいものとなりました。例えば東芝テックの事業であるリテールについては、Squareのような米国企業が簡単にパッドなどで行えるシステムを構築するなど、困難な状況になることは明白です。

東芝はかつて日立と並び称されていましたが、今はそうではないという悲しい状況なのです。


▼岩谷産業 シティインデックスからコスモHD株取得
 ハイエナから解放されて、見通しは明るく

水素販売の国内最大手、岩谷産業は1日、旧村上ファンドのシティインデックスイレブンスなどから石油元売り大手、コスモエネルギーホールディングスの株式19.86%を取得したと発表しました。取得額は1053億円です。これにより岩谷産業がシティインデックスに代わりコスモの筆頭株主となり、昨年4月から続く村上氏側との攻防が決着する見通しです。

村上氏は、今回もまた大きく儲けました。ちなみに東芝についても特殊株主となって同じく儲けたようですが、弱った獲物に群がるハイエナのように見えます。企業間の協業といった業界再編は、ファンドを起点に促進されたと思っている方もいるようですが、今回についてはファンドが行ったのではなく、岩谷産業によるもので、今回の水素ステーションの整備を進める岩谷産業と、コスモ石油という組み合わせについては、とてもいいコンビネーションだと私は思います。村上ファンドのような邪魔者は早くいなくなるほうが、岩谷産業とコスモ石油のためであり、ハイエナにはそろそろ日本のためになるような社会貢献でもしてもらいたいものです。


▼産業用ロボット 中小の生産性、産学で改善
 ロボット導入より搾取の構造を改善すべき

日経新聞は先月28日、「中小の生産性、産学で改善」と題する記事を掲載しました。これはファナックやデンソー等と国内の大学が連携し、最大6割安く産業用ロボットを導入できるシステムを開発すると紹介しています。腕型などの産業用ロボットを導入する場合、投資額は通常5000万円程度かかりますが、ロボットの仕様や動作などに関するデータベースを構築して中小企業に無償開放することで、中小企業にロボットへの投資を促し、生産性を高めるほか、経済全体の底上げを狙うということです。

この記事についてですが、日経記者は勘違いをしているようです。大企業の生産性は高く、中小企業の生産性は低い、よってそれを高めるためにロボットを導入しましょうという内容ですが、実はそうではありません。中小企業は大企業に搾取されており、大企業のほうが少人数で付加価値の高いものを得て、中小企業はその犠牲になっています。中小企業の生産性を改善するためにロボットで手伝おうということですが、日本の製造業では既にロボット化がとことん進められています。問題なのは、価格交渉力のない中小企業が大企業に搾取されているという構図であり、それを改善していくのは中小企業庁の役割ではないでしょうか。

「企業規模別の生産性の推移」のグラフを見れば、搾取の構造がよく分かります。中小企業の生産性は大企業の半分以下です。しかし大企業も苦労して生産性を高めてきましたが、世界から見ればそれほどではありません。従って中小企業庁が、中小企業が価格交渉力をもっと持てるように見張っていく必要があるということです。


---この記事は2023年12月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています

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