大前研一「ニュースの視点」Blog

KON1005「欧州医療DX/ 米長期金利/ 米エクソンモービル/ 欧州再生エネ市場」

2023年10月20日 欧州再生エネ市場 欧州医療DX 米エクソンモービル 米長期金利

本文の内容
  • 欧州医療DX 英独にみた医療DXの功罪
  • 米長期金利 10年物国債利回り
  • 米エクソンモービル 米パイオニアを買収
  • 欧州再生エネ市場 中国製風力発電タービンの調査検討

▼欧州医療DX 英独にみた医療DXの功罪
 今が日本の医療DXを進める最高のタイミングである

日経新聞が1日に公開した記事「英独にみた医療DXの功罪」について解説します。日本以上にコロナ禍で苦しんだ欧州では、医療DXの取り組みが進んでいます。ドイツはビスマルクが制定した健康保険法など、優れた医療制度があだとなり、DXに取り組む動機が鈍っていたとして、現在電子処方箋の普及に注力している一方、イギリスはジョンソン政権下でリモート診療を推し進めた結果、患者の仕分けを一手に引き受ける家庭医の負担が増加しているということです。

日本では医療DXが全く進んでおらず、コロナ禍当時は保健所とのやりとりはファックスが主流で、対してシンガポールやイスラエルではスマホベースにシフトしていました。他国では医療DXが進み過ぎたことによる弊害もあるようですが、日本では苦い経験をはっきりと記憶している今が遅れを取り戻すチャンスであり、病院、開業医、門前薬局などをつなぐシステムの組み換えや構築を実施するには非常によいタイミングだと私は思います。


▼米長期金利 10年物国債利回り
 銀行を苦しめる国債利回りの大幅上昇

6日のアメリカ債権市場で長期金利の指標となる10年物国債の利回りが、一時4.88%と2007年8月以来、16年ぶりの高水準となりました。アメリカ労働省が公表した9月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が市場予想を大きく上回り、FRBの利上げが長期化するとの見方が広がったのを受けたものですが、FRBはインフレを抑えながら経済を軟着陸させるシナリオを描いており、難易度が一層高まることになります。

「米10年債の利回り推移」のグラフでは、2020年は0.5%であったものが現在は5%へと近づいているのが分かります。国債の利回りが高水準になるのはよいことですが、裏を返せばそうしなければ国債が売れないということで、銀行などにとっては非常に苦しい状況であるということです。


▼米エクソンモービル 米パイオニアを買収
 もう一つの超高額買収が与える日本への影響はいかに

米エクソンモービルは11日、シェールオイル大手の米パイオニア・ナチュラル・リソーシズを買収すると発表しました。買収額は595億ドル、およそ8兆8000億円で、化石燃料の収益力が高まっているのを受け、買収によりシェールの事業基盤を再構築する考えです。

数年前であれば何を考えているのかと株主からたたかれたでしょうが、どう考えても化石燃料はしばらく続くだろうと、エクソンモービルはシェールオイルの最大手を8兆8000億円で買収すると表明しました。ヨーロッパでは再生可能エネルギーにシフトしていますが、「世界の電源別発電電力量の構成比」のグラフによると、世界はまだ石炭や天然ガスが主流であり、化石燃料の収益力が高まっている今だからこそ、エクソンモービルはシェールの事業を再構築しようとしているわけです。「米国で稼働中の石油・ガス掘削リグ数の統計」のグラフを見ると、シェールの値段が安くなるたびに掘削リグの稼働を止めていたため、掘削リグ数がどんどん下がっています。そこを生き残ったパイオニア・ナチュラル・リソーシズを、エクソンモービルは提携ではなく高額で買収しましたが、普通では考えられないことだと思います。

今週、このクラスの買収がエクソンモービルの他にもう1件ありました。マイクロソフトによる、アクティビジョン・ブリザードの10兆円での買収です。アクティビジョン・ブリザードはゲームソフトウエアの開発会社で、ソニーや任天堂など、日本のゲーム業界は大変な影響を受けることになると思います。


▼欧州再生エネ市場 中国製風力発電タービンの調査検討
 太陽光パネルの二の舞を踏まぬよう中国製風力発電タービンへ対抗する構え

欧州委員会が中国製の風力発電タービンについて、中国政府の補助金などにより欧州での競争が不当に阻害されていないか、調査を検討していることが分かりました。欧州ではデンマークのベスタス、スペインのシーメンスガメサなど、風力発電機メーカーの業績が悪化しており、業界団体からは安価な中国製が流入すれば、域内の産業基盤が崩れかねないとして、欧州委員会に対応を求めていました。

太陽光パネルにおいては、日本も含めて欧州など世界の国々が、中国に完膚なきまでにやられました。今度は風力発電のタービンにおいて、中国政府の補助金により安価で販売しているとすれば違法であるとベスタスなどが欧州委員会に訴え、調査の検討が始まったということです。


---この記事は2023年10月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています

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