大前研一「ニュースの視点」Blog

KON986「原子力政策/マイナンバーカード/株式報酬制度/国内株式市場」

2023年6月12日 マイナンバーカード 原子力政策 国内株式市場 株式報酬制度

・原子力政策 GX脱炭素電源法が可決、成立
「法的に可能になっても実現は難しい」

原発の運転期間を60年超に延長することなどを盛り込んだグリーントランスフォーメーション(GX)脱炭素電源法が先月31日、参議院の本会議で可決成立しました。これは既存の原発を可能な限り活用し、電力の安定供給と温暖化ガスの排出削減を目指すことなどが盛り込まれたもので、人材育成や技術開発に必要な産業基盤を維持強化する方針も明記しました。

現在、40年以上稼働している原発は日本に4基、30年から39年のものは14基あります。これらの延長を政策で決めることはいいのですが、実際に延長するとなると様々な問題が発生することが予想されます。

その際、これらの原発の稼働を延長しても大丈夫だという根拠を示し、それを立証するのは非常に難しいはずです。法的には60年超の稼働が可能になったものの、実際に稼働し続けるのは非常に難しいと私は考えます。


・マイナンバーカード 改正マイナンバーカード法が可決、成立
「デザイン不在、行き当たりばったりの政策」

改正マイナンバー法が2日の参議院本会議で可決成立しました。紙の健康保険証を廃止して、原則マイナンバーカードに一本化するほか、給付金など個人に迅速に配布するため、口座の登録を広げる措置などを盛り込んだものとなっています。一方、デジタル庁は2026年中にも偽造防止のため、暗号技術などを採用する新たなマイナンバーカードの導入を目指す方針を示しました。

恥ずべきことですが、難しいシステムをつくって、マイナンバーカードにいろんなものを関連付けられるようにしようとして、できなかったというだけの話です。これから健康保険証とも関連付けることで、大混乱することは目に見えています。人員も資金も莫大な量をつぎ込みましたが、結局最初から一本化された新しいカードをつくって国民に再配布することでしか解決できなかったということです。だったらもっと早く作り直すことを決めるべきでした。

インフラ関連の話題として、高速道路もいつまでたっても無料化していません。吉田茂元首相が計画を始めた時には、債権を発行して20年経ったら無料にするというやり方でスタートしたはずですが、いまではおよそ100年後の2115年まで料金徴収を延長する改正法が成立しています。

そもそも、公共のものとして無料化したいのならば、国が運営していないと不可能なはずです。今は株式会社化してしまっているので、運営に関しては会社に一任する以外にありません。20年だったのが、30年に、100年に、と数字は色々と変わっていますが、返済する仕組みもなければ予定もない無意味な数字です。高速道路が無料化する日も、日本には訪れないと私は予想します。


・株式報酬制度 「信託型ストックオプション」は「給与」の見解
「問題の根源は異常な税率の所得税」

国税庁は先月30日、株式を使った報酬制度の1つ、信託型ストックオプション(自社株購入権)について、給与所得として扱うとの見解を示しました。信託型のストックオプションは、会社が成長する前に発行したストックオプションを信託し、信託会社が役員名に配布するもので、株式を売却した際に、譲渡所得としておよそ20%課税されるとの認識から導入企業が増えていましたが、今回の国税庁の見解で最大およそ55%の税率がかかることになり、導入企業からは戸惑いの声が上がっています。

そもそもストックオプションの扱いについては、曖昧なままで来てしまっていたという経緯がありました。しかしそれ以前の話として、所得税が最大で55%に達するということを問題視するべきだと考えます。所得、つまり働いて得た収入から、国家が55%を持って行ってしまうとなればもう江戸時代より厳しい搾取です。

ストックオプションの扱いが、譲渡所得にあたるのか給与所得にあたるのかは大した問題ではありません。問題は、給与所得にすると55%もの莫大な税金を課されるという税制度にあります。この税率が法外だから、譲渡と解釈して20%で済ませたいという動機が生まれ、給与収入で莫大な所得税をとられている人たちからの反発や不公平が生まれ、本来もう少し多めにとってもいいはずのストックオプションからの税収が、20%に抑えられてしまうのです。

異常な税制度を放置しておいて、問題が大きくなったからといって解釈を変えることで20%を55%の税率にしてしまうという、今回のやり方は私に言わせれば邪道です。もっと根本から、変えるべきところがあるはずです。


・国内株式市場 海外投資家が3816億円買い越し
「日本株好調の陰に、知られざる根拠がある可能性」

東証が1日に発表した、5月第4週の投資部門別売買動向によりますと、海外勢が現物を3816億円買い越したことがわかりました。海外の運用会社が手がける日本株特化のファンドに資金が流入しているもので、買い越しは9週連続、買い越し額も合わせておよそ4兆円に上るとのことです。

この「海外の運用会社」の中には、ノルウェー銀行やブラックロックの名前が挙がっています。つまり、プロフェッショナル中のプロフェッショナルが買い越す動きを見せているということです。ウォーレン・バフェットが日本株を買ったことも注目されましたが、こうした慎重な運用をする投資家に買われているということは、何かまだ日本では知られていない、調査に基づいた根拠があると考えられます。


---この記事は2023年6月4日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています

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