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KON978「水素エネルギー/大学ファンド/花粉症対策/自動運転~次世代のスタンダードを見極める難しい選択」

2023年4月17日 デジタルライフライン全国総合整備計画 国際卓越研究大学 水素エネルギー 花粉症対策

本文の内容
  • 水素エネルギー 2040年の水素導入目標1200万トン
  • 大学ファンド 東大、京大など10大学が認定申請
  • 花粉症対策 「もはや日本の社会問題」
  • 自動運転 デジタル技術普及へ整備事業まとめ

・水素エネルギー 2040年の水素導入目標1200万トン
「次世代のスタンダードを見極める難しい選択」


政府は4日、次世代エネルギーとしての水素の導入目標として、2040年に1200万トンとする方針を明らかにしました。現在の水素供給量は年間およそ200万トンでこれを2030年に300万トン、2050年に2000万トンに増やす計画ですが、新たに40年の目標を設定することで、普及の道筋を明確にし、企業の投資を呼び込む考えです。

水素はあらゆる分野で利用されていますが、現在注目されているのがエネルギーとしての利用です。日本は政府主導で、供給量10倍を目指す方針のようです。水素ならなんでも環境に優しいわけではなく、化石燃料のようなCとHの化合物から水素を取り出そうとするとCO2が発生してしまいます。水を電気分解して取り出したような水素はグリーンエネルギーと呼べるでしょう。

エネルギー利用の中でも注目すべきなのは自動車ですが、政府は難しい舵取りを迫られています。まず水素エンジン自動車の可能性ですが、これは水素が爆発しやすいという点で運搬、保管に課題が残ります。トヨタが一説には1兆円を使って普及に努めたと言われていますが、上手くいっていません。次に燃料電池自動車(FCV)の可能性がありますが、今度はインフラ整備の面で電気自動車(EV)と競合します。EVとFCVのステーション両方を同時に整備するのは現実問題として難しく、国としてどちらかを選択する必要がありますが、この選択が世界のスタンダードと違ってしまった場合、日本の自動車会社は大打撃を受けることになってしまいます。

現状では、EVが世界では優勢です。欧州では妥協する動きもでていますが、米国ではEVの推進姿勢が明確で、補助金の額に大きな隔たりが生まれています。中国はどうなるか分かりませんが、現状ではやはりEVを推進しようとしているようです。とはいえ、もし日本がEVのためのインフラ整備に舵を切ったあと、世界がFCVに流れてしまうと、日本車が世界で全然売れなくなってしまうという事態になります。海外拠点で生産している分などはすべて無駄になってしまいます。技術的には水素エンジンでもFCVでもEVでも、どれでも選べる日本ですが、産業の事を考えると、非常に難しい選択です。


・大学ファンド 東大、京大など10大学が認定申請
「何もかもがあやふやで支離滅裂な政策」


文部科学省は4日、政府が創設した10兆円の大学ファンドの支援対象に東京大学や京都大学などが申請したと発表しました。大学ファンドは公募で選んだ数校を国際卓越研究大学と認定しファンドの運用益で助成するもので、数百億円規模の支援で研究基盤を強化し、大学の国際競争力向上を図る考えです。

私に言わせると、何も分かっていない人がつくった、何がやりたいのかわからない政策です。まず、卓越した研究というのが、20年後や30年後にノーベル賞を取れるような研究を意味すると仮定します。湯川秀樹博士の本を読みましたが、研究の初期段階に必要だったのはノートだけだったそうです。カミオカンデのようなものを作ろうとすればお金がかかりますが、お金をかければノーベル賞が取れるというわけではありません。独創的な研究を支援したいなら、返却不要の研究助成として使ってもらった方がよいと考えます。商業的価値を生む研究を対象としたいとしたら、起業に助成するということになります。卓越した研究は、すぐに商業的価値を生むようなものではありません。青色発光ダイオードのような例外もありますが、それでも10年以上かかっています。そして、起業にお金をかけるのだとしたら、この予算ではスタートアップの研究費としては多すぎます。運用益で研究して欲しいという設計も理解できません。むしろ、1000兆円の個人預金をこちらに回すべきでしょう。

日本は特許数も論文数も米国や中国に大きく水をあけられており、起業の支援や実績でも欧州に大きく後れを取っています。そんな中で、目的も成功基準もあやふやで、お金もあるのに自由には使わせないというこの政策は、意味不明だとしか評価できません。私に言わせれば、上手くいく道筋が全く見えないプランです。


・花粉症対策 「もはや日本の社会問題」
「日本のお役所仕事では根本的解決は難しい」


岸田首相は3日、花粉症について、「もはや日本の社会問題と言っていい」と述べ、政府で関係閣僚会議を開催し、情報共有や効果的な対策の組み合わせに取り組んでいることを明らかにしました。

20年遅いと思いますが、首相が社会問題だと明言したことは評価します。現在、花粉症の人は全人口の40%を超えています。それだけの国民が病気になっているのに、政府が今まで放置していたことは理解できません。とはいえ、対策の内容は評価できません。粘性のある物質を撒いて、花粉の飛散を抑えるという案は悪くないですが、診断や薬に補助するのは対症療法に過ぎません。花粉が少ない杉を植えるなどという案は愚の骨頂です。これから増える杉が花粉を飛ばさなくても、いま存在している杉からの花粉がそのままなら何の解決にもなりません。

そもそもスギ花粉の問題は、戦時中の木材不足を背景に成長が早い杉の植林を推奨し、補助金を出したことが始まりです。それが戦後には、輸入の木材に比べて国産木材の競争力が無かったために放置され、大量の古木が花粉をまき散らしている状況を作り出しました。花粉症を本気で対策するなら、この大量の古木を伐採するしかありません。補助金を出して伐採を推進すれば、切った木は価格競争力のある木材として売ることもできます。

ところが現実は、未だに杉の植林に補助金を出しているような状況です。日本の行政の問題として、一度予算がついた事業はやめられないということがあります。花粉症を根本から解決するためには、このお役所の悪弊を排し、杉の伐採にお金を使うしかありません。


・自動運転 デジタル技術普及へ整備事業まとめ
「次世代社会実現へ意義ある前進」


経済産業省は先月31日、デジタルライフライン全国総合整備計画の骨子を公表しました。これは、デジタル技術を使った各種サービスの普及に向け、今後取り組む整備事業をまとめたもので、2024年度にも新東名高速道路の駿河湾沼津と浜松間に自動運転者用のレーンを設け、深夜帯に自動運転のトラックを利用しやすくすることなどが盛り込まれています。

ミシガン州では、レベル4、5の自動運転実験にデトロイトの街中を解放し、それによってデトロイトの町が甦るかもしれないと言われています。日本では実験する場所がないため、トヨタが私有地を実験都市「ウーヴン・シティ」として利用する事業を進めていますが、やはり実用の場で実験することが一番です。その意味で、今回の取り組みは高く評価します。新東名のこの区間は片側3車線あり、そのうちの1車線を使うのは合理的です。次世代技術の開発と社会への実装において、日本はかなり後れを取っていましたが、ようやく一歩前進した印象を持てました。


---この記事は2023年4月9日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています

▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


大前は、「2024年度にも新東名高速道路の駿河湾沼津と浜松間に自動運転者用のレーンを設けるという実用の場での実験について、今回の取り組みを高く評価し次世代技術の開発と社会への実装において、ようやく一歩前進した印象を持てた。」と述べています。デジタル社会の発展により、あらゆる産業のビジネス環境が著しく変化していきます。用意しておいた仮説・検証が机上の空論とならないためにも地に足のついた実用の場に設けることの重要性を感じました。そして、社会課題を解決することが、経済価値の創出にも繋がっていきます。


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