大前研一「ニュースの視点」Blog

KON966「給与制度/養豚DX/タクシー業界/高速道路料金 ~高齢化とコロナ禍で解決の糸口は見えず」

2023年1月23日 タクシー業界 給与制度 養豚DX 高速道路料金

本文の内容
  • 給与制度 日本企業、国際人材を確保へ
  • 養豚DX 豚の発情を自動検知
  • タクシー業界 「タクシー全然捕まらない」問題の原因
  • 高速道路料金 料金支払いを50年間延長へ

世界共通の給与制度実現は難易度が高い


日経新聞は13日、「給与の世界共通化進む日本企業、国際人材を確保へ」と題する記事を掲載しました。

日本企業が、国内外の社員の給与制度の共通化を進めています。

日本の給与制度は主要国に比べて硬直的とされており、現状は優秀な人材への配分で見劣りしていますが、制度の共通化によって給与水準を引き上げやすくするとのことです。

私も30~40年前、マッキンゼー時代に世界共通の給与制度作りに取り組みました。

新卒の給料を世界共通にすると、米国基準の高水準になります。

すると、だんだんと給料を上げていく仕組みを採用しているオーストラリアや英国、日本などでは、「新卒を金で釣っている」と批判が起こってしまいます。

そこで、最初はローカルの水準に合わせて採用し、社内の基準を満たしてパートナーやディレクターに昇進するタイミングで、世界共通の水準に引き上げる工夫をしていました。

初任給の他にも大きな問題が2つあります。

まずは生活費の問題です。

国によって物価が様々なので、同一の仕事で同一の給料をもらっていても、同じライフスタイルができるとは限りません。

子供がいる方なら、学費も国によって大きく異なります。

転勤で住む国が変わるごとに、生活水準を大きく変えないといけなくなってしまうのです。

当時の私は「どこからどこに転勤したら、何%給料を上げ下げするか」という表を毎年改定して使っていました。

もう一つの問題が為替です。

私自身も、給料が大きく上がった翌年にものすごい円高になり、円での手取りが40%も減ってしまった経験があります。

ファーストリテイリングは物価や為替を考慮して、40%くらいの範囲で調整するとしているようですが、それでは足りないと思われます。

生活費の問題、そして為替の問題。

同じ仕事をしていれば世界中で同じ給料というのは理想ですが、この二つの問題を解決しない限り、実現するのは不可能です。

報道を見る限りでは、問題解決の妙手があるようには見えていません。




畜産分野でもDXは利益を生み出す


豚の体重や体脂肪率などを測定し、出荷時期を判定するシステムを手がけるEco-Porkが、豚の個体識別や発情期を検知するサービスを2023年度に開始することがわかりました。

帯広のファームノートという会社でも、似たような取り組みをしています。

こちらでは、乳牛の発情を検知し、和牛を掛け合わせることで利益の大きい和牛の子牛を効率的に生産しているそうです。

Eco-PorkはAIカメラで個体識別と、ずいぶんハイテクなことを打ち出していますが、ファームノートにはセンサーで簡単に識別する仕組みがあります。

畜産DXの分野にも、日本には報道されていない素晴らしい技術や企業が存在しています。




高齢化とコロナ禍で解決の糸口は見えず


東洋経済オンラインは13日、「東京で深刻“タクシー全然捕まらない”問題の原因」と題する記事を掲載しました。

以前、私が出会ったタクシー運転手の方は52歳でしたが、それでも若い方だとおっしゃっていました。

タクシー運転手という職業は、すでに高齢者の仕事領域になっているのです。

この仕事は、交通事故リスクはもちろん、見知らぬ人を乗せるため犯罪に巻き込まれるリスクなどもあります。

高齢のタクシー運転手は配偶者の方から心配されることも多く、さらにコロナで利用者が減ったことにより廃業が激増し、昨年だけで9,000人が離職しました。

未だにインバウンドの利用者は戻ってきておらず、ニーズは低迷しています。

少し値上げはしましたが、利用者数の減少を埋めるほどではありません。

このままでは、人手不足による「タクシー全然捕まらない」問題はますます深刻になるでしょう。




建造費捻出の工夫も利権に堕してしまった


高速道路の料金を利用者が支払う期間について、国土交通省が現在定めている2065年から、50年間延長する方向で最終調整に入ったことがわかりました。

高速道路は吉田茂首相の時代に、米国やドイツと同じく原則無料で使えるものとして計画されました。

しかし、建造費が不足し、その対策として当面の有料化が決まりました。

通行料で建造費を返済していくと、25年後には無料化できるはずでしたが、いつの間にか2065年まで延長されていて、ついには2115年までとさらに50年間の延長です。

無料化ができない原因は、構造の問題です。

以前私は、ナンバープレートに課税する方式での無料化を提言しました。

高速道路を使う車両にだけ課税し、ナンバープレートで識別する仕組みで、一般車両は年間1万円、トラックなら年間3万円と設定すれば、当時の道路財源13兆円と合わせて十分賄えるはずでした。

たったこれだけのことで無料化できるはずなのですが、利権団体の考え方には合わなかったようです。

出来ることをせずに2115年まで有料期間の延長をするということなので、これはもう永遠に無料化しないつもりとしか思えません。




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※この記事は1月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は給与制度のニュースを大前が解説しました。

大前は過去に取り組んだ国内外の給与制度統一の際の課題について触れ、「各国で新入社員の給料水準や為替、コスト・オブ・リビングなどの状況が大きく異なるため、給与制度を世界で共通化するのは非常に難しいこと」と述べています。

同じ課題であっても、地域や所属している組織によって解決策が大きく異なる可能性があります。

グローバルの基準に合わせることも大切ですが、置かれている状況を鑑みて取るべき手段を検討することが求められます。



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