大前研一「ニュースの視点」Blog

KON955「英トラス首相/イタリア情勢/台湾情勢~大衆迎合の政治家らしい失政」

2022年10月31日 イタリア情勢 台湾情勢 英トラス首相

本文の内容
  • 英トラス首相 英トラス首相が辞任表明
  • イタリア情勢 FDIメローニ党首を次期首相候補に指名
  • 台湾情勢 澎湖諸島で軍事演習実施

大衆迎合の政治家らしい失政


英国のトラス首相は20日、「保守党から選出された任務を果たすことができない」と述べ、辞任する考えを示しました。

9月に発表した大規模減税策の財源が不透明として、英国ポンドと国債が売られるなど金融市場が混乱し、求心力が低下したことを受けたものです。

トラス首相はあまり期待ができない印象だったので、予想通りの展開です。

英国の政治的混乱の始まりは、ボリス・ジョンソン前首相の辞任劇でした。

コロナ禍でパーティを開催していたことを追及され、嘘を突き通せなくなって結局辞任してしまいました。

その後、スナク氏とトラス首相との一騎打ちでは、窮地のジョンソン前首相を裏切ったスナク氏が敬遠され、最後まで辞任しなかったトラス首相が選ばれたという経緯があります。

政策では、スナク氏の緊縮財政に対し、トラス首相は減税と歳出拡大を打ち出していました。

それが、いざ首相になってみると中央銀行の引き締め路線と嚙み合わず、ポンドと国債の暴落に至ります。

当初は「自分はファイターである」と宣言し、減税・拡大路線を貫く姿勢を示したトラス首相でしたが、結局すぐ辞任。

第二のサッチャーと呼ばれながら、本家の在任期間が11年208日なのに対し、短命記録を樹立して終わってしまったことは皮肉な結果です。

また次期首相は、当初はジョンソン前首相が返り咲くのではないかと報じられましたが、党内で多くの支持を集めたスナク氏に決まりました。

スナク首相が誕生したことで、マーケットの混乱も少し落ち着くでしょう。

そもそも英国は今インフレ率10%を超えており、そんな中で減税・積極財政を打ち出すのは非常識です。

おそらく人気取りで減税を主張してしまったのだと思いますが、政治家としてのレベルが低いと評価せざるを得ません。

ただ、レベルが低い政治はレベルが低い国民によってもたらされるもので、古代ギリシャの時代から、民主主義は衆愚政治に陥ることで終わりを迎えています。

英国、イタリア、ブラジル、米国など、今は世界中の民主主義が危機に陥っている時代です。

日本も例外ではありません。




ポピュリズム政権は混乱を招くと予想


イタリアのマッタレッラ大統領は21日、9月の総選挙で第一党となった極右「イタリアの同胞(FDI)」のメローニ党首を次期首相候補に指名し、メローニ党首が受諾しました。

メローニ氏はムッソリーニの流れをくむネオファシスト政党の出身です。

財政拡大路線を打ち出すなど、市場では政策を不安視する声も上がりますが、新政権は上下両院の承認を経て、月末にも正式に発足する見通しです。

今回の連立政権を構成するのは、フォルツァ・イタリア、同盟、FDIとすべて右寄りの三党です。

フォルツァ・イタリアはベルルスコーニ元首相の政党で、FDIはファシスト党。

同盟は私の本で勉強してくれていた時期もあったのであまり厳しいことは言えないのですが、今回は講演の依頼をお断りしました。

FDIは得票率を2018年の4.4%から26%へと急激に伸ばし、メローニ党首が政権を担う形になります。

ドラギ氏は素晴らしい人材だったのに、国民が極右政党を選んでしまったことが残念です。

前身がファシスト党だということは組閣の際にうまく隠すと思いますが、メローニ政権もトラス首相と同じ運命をたどるのではと予想します。

積極財政を宣言していることも共通しますし、現にイタリア国債の利回りも高騰しています。

プーチン大統領と親しいという情報もありますし、対ロ政策でEUと揉めることにもなりそうです。




台湾有事となれば中国政府が危機に陥る


台湾国防部は19日、台湾海峡に位置する澎湖諸島で実弾を使った軍事演習を実施しました。

中国が台湾の離島に上陸することを想定し、主力のM60戦車等が海上に向けて実弾を発射する訓練を行ったもので、邱国正国防部長は「今後はいかなる事態もあり得るとして、あらゆる準備をする」との考えを示しました。

澎湖諸島は蔡英文総統の出身地で、台湾本島と中国本土に近い金門島・媽祖島との間に位置します。

台湾有事の際には、澎湖諸島が中国の上陸拠点になると想定されるため、阻止する作戦の演習です。

台湾政府では、中国は3段階で侵攻してくると考えられています。

まずは演習の名目で中国沿岸に軍を終結させ、台湾民衆のパニックを誘います。

次にロシアの手口と同様に、演習とされていた部隊が実際に攻撃を始め、最後に海と空から一気に上陸し、制圧を図るという想定です。

とはいえ、台湾はウクライナと違い、防衛政策はかなり整っています。

裕福な国でもあるため、今後は米国から最新の武器を購入していきますし、共同での武器生産も進めようとしています。

また、空母が出てきても十分に対処可能な軍備を備えており、サイバー作戦能力も高いと考えていいでしょう。

さらに兵力に関しても、正規軍が10万人以上いる他に、2018年まであった国民皆兵令の元で軍事訓練を受けた人が約166万人存在します。

数の上でも中国に引けを取りません。

もし台湾有事になれば、中国の上陸はことごとく阻止され、逆にミサイルや戦闘機で中国内陸部にまで反撃が及ぶのではないかと考えます。

そうなると、中国国民の間で政府への信頼が大きく揺らぐため、北京はそう簡単に侵略を決断できないはずです。




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※この記事は10月23日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は英トラス首相のニュースを大前が解説しました。

大前は「イタリア、イギリス、ブラジル、アメリカ、そして私は日本も衆愚政治だと考えている」と指摘した上で、英国国債や英ポンドの対ドルレートの推移に触れつつトラス首相の金融政策の難点を述べています。

他社の不祥事や失敗事例からは自社の今後に繋がる学びが数多くあります。

問題が発生した原因やその後の対処について学び、自社で同様の問題が発生しないよう予め対策を検討することが重要です。



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