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- ウクライナ・ザポリージャ原発 IAEA調査団派遣にルートを指定
- 欧州ガスパイプライン 8~9か月で稼働可能
- 日中関係 台湾問題など約7時間協議
危機回避のためにはロシアの妥協案に乗るべき
国際原子力機関(IAEA)がウクライナ南部・ザポリージャ原発の調査を求めている問題で、ロシア外務省高官は、ロシア側が指定するルートで現地に入るよう求めました。
IAEAはウクライナの首都キーウ経由で調査団を派遣する計画ですが、ロシア高官は「ウクライナ側から原発に入れば困惑を引き起こす」と警告しました。
プーチン大統領は当初この問題に強硬な態度でしたが、ここ数日で態度が軟化し、第三者の介入に前向きになってきました。
ここはロシア側の妥協案に乗って、まずはIAEAの調査を優先するべきだと私は考えます。
そこからIAEAや国連が間に立って、ロシアの占領を辞めさせるところまでやらないと危険なままです。
ウクライナへの電力供給を止めることができるというだけでもロシア側に原発占領のメリットはありますが、それ以上に、ウクライナ側からの反撃を防ぐ「核の盾」としての利用価値があります。
「核の盾」として使われると、常に核災害の大きなリスクがある場所として残り続けることになります。
また、今のロシア軍では、なんらかの理由で原発を損傷させたり、管理しきれずに事故を起こしたりする可能性もあります。
ロシア軍がいる限り何が起こるかわからないというのが、ザポリージャ原発の現状です。
原発の運営自体はまだウクライナがやっていますので、IAEAは視察をしたうえで安全な運営ができる人に管理を任せ、ロシア軍には占領を解いてもらう。
そこまでしてはじめて、ザポリージャ原発の危機的状況は解決します。
新パイプラインは天然ガス不足の救世主になり得る
スペインのリベラエネルギー担当相は12日、スペインとフランスをつなぐ新たなガスパイプラインについて、ヨーロッパ諸国が同意すれば8~9か月で稼働できるとの見方を示しました。
スペイン東部とフランス南部のピレネー山脈を貫いて結ぶおよそ200キロメートルのパイプラインとなる計画で、ドイツのショルツ首相も「現在の天然ガス供給状況が大幅に改善される」と述べ、スペインやポルトガルなどに構想の実現を持ちかけたことを明らかにしました。
天然ガス不足の解決策として、この新パイプラインは盲点でした。
アルジェリアには大きな液化天然ガス(LNG)基地があり、スペインやフランスへのパイプラインが敷かれています。
スペイン・フランス国境のピレネー山脈を貫くパイプラインが完成すれば、アルジェリアからスペイン経由でドイツまで届く形になります。
ドイツは今までロシアやノルウェーに天然ガスを依存していたため、ロシアへの経済制裁でエネルギーの深刻な供給不足に陥りました。
しかし、アルジェリアにも供給源を分散出来るようになれば、状況は大きく改善します。
埋蔵量はこれから検証するようですが、一年以内に新パイプラインができて埋蔵量も十分あれば、大きな福音になるでしょう。
ロシアにエネルギーを依存する際はカントリーリスクが少なからず存在していましたが、今回のウクライナ侵攻でそれが顕在化しました。
日本もサハリン2の問題で被害を受けていますが、既に動き出しているビジネスに関しては、無理にロシアを排除せずに柔軟に対応するのが得策だと私は考えます。
シェルをはじめとする外国の企業がことごとく撤退した今、資源を買う客としての地位を保っているだけでも利はあります。
サハリン2は今までと同じ資本比率で話が進んでいますが、これまでに出した資本の扱いがはっきりしていません。
そのまま新体制の資本として使えればいいのですが、新たにゼロから負担しないといけないのであれば、コストとリターンを鑑みて撤退を考えてもいいと思います。
いずれにせよ、おそらく来週にはこのあたりの条件が提示されるはずです。
米国への盲従より歴史に立脚した国際関係構築を目指せ
秋葉国家安全保障局長と中国共産党の楊潔篪政治局員は17日、中国の天津でおよそ7時間にわたって会談をしました。
その中で秋葉氏が、中国が日本近海に弾道ミサイルを落下させたことなどについて抗議したのに対し、楊氏は「台湾問題は、中日関係の政治的基礎と両国間の基本的な信義に関わる」として日本側に釘を刺しました。
一方、昨年10月の日中首脳協議で一致した「建設的かつ安定的な関係の構築」については、双方の努力で実現していくとの認識で一致したということです。
日本と中国は1972年に国交正常化をしましたが、最近は関係がおかしくなってきています。
楊潔篪氏は王毅外相より序列が上の、信頼できる人物です。
その楊氏が、秋葉国家安全保障局長と7時間にも及ぶ協議をしたというのは、重要な出来事です。
日中の2000年に及ぶ歴史的な交流があるにもかかわらず、200年足らずの交流しかない米国に追従し、中国との関係を軽視してほしくないというのが楊氏の主張で、私はこの考え方に大賛成です。
遣隋使や遣唐使の頃から日中の交流はありましたが、国交が「正常」であった時期でも両国間の軋轢・衝突は多々ありました。
一方で非公式・民間ベースでは、国交がないとされる時代であっても、円滑で活発な交易や学問交流が行われています。
歴史的に「不即不離」の距離感で安定した関係を築いてきました。
他方、米国の現状を見てみると、必ずしも国際秩序の安定に寄与しているとは言えません。
宣戦布告なしでイラクに派兵したジョージ・W・ブッシュ、ビンラディンが潜んでいると思い込んでアフガニスタンに派兵したオバマ、環太平洋パートナーシップ(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)など今までの国際的な公約を反故にし、北朝鮮との関係をいたずらに混乱させたトランプなど、とても追従することが得策とは思えない大統領が大勢います。
さらに、その横暴なトランプ元大統領が再度勢力を取り戻しつつあるという惨状です。
トップが頻繁に交代し右往左往する米国にただ追従するのではなく、歴史的な大局観をもって日中関係、台湾問題を捉える視点。
これを日本の政治家や官僚も持つべきだと私は考えます。
王毅外相は習近平の代理人のような立場ゆえに強硬な印象を打ち出していますが、元々は日本大使館にいた日本通で、こうした歴史観を持っている人物です。
楊潔篪氏は王毅外相の知性や能力に加えて、卓越した温かみ、丸みをもった傑物ですので、今回その楊氏と長時間の協議の場を持てたということは、日本にとって良いことだと評価します。
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※この記事は8月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は欧州ガスパイプラインのニュースを大前が解説しました。
大前は「ドイツのガス供給状況が厳しい中で、アルジェリアから繋がるガスのパイプラインを新しく作ることで、供給状況を大きく改善できるのは意外な盲点だった」と述べています。
厳しい状況に置かれた時は視野が狭くなりやすいですが、逆に変革のチャンスと捉えて行動することもできます。
恐れずに視野を広げて新しいチャレンジをすることで、状況を打破するアイデアが見つかるかもしれません。
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