- 本文の内容
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- 西武HD 国内約40施設を売却へ
- 藤田観光 日本政策投資銀行から150億円調達へ
- 丸井グループ 「売らないテナント」3割に
西武HDはリースバックなど使わず、経営そのものを任せるべき
西武HDがホテルやレジャー施設などを売却する見通しが明らかになりました。
対象は国内の約40施設で、売却額は1000億円を超える見通しです。
今後は運営に特化しつつ、資産を持たずに財務を軽くするアセットライト経営への転換を進める考えだということです。
アセットライト経営への転換と言っても、売却対象は約40施設で、売却額は1000億円にすぎませんから、全体から見ればごく一部です。
プリンスホテルは全国にたくさんありますが、軽井沢や品川駅前のプリンスホテルなどは売却対象にはなっていません。
対象となっているのは、「札幌プリンスホテル」「びわ湖大津プリンスホテル」、そして「ザ・プリンス パークタワー東京」などで、プリンスホテルの中核を担うホテルではありません。
しかも、今回はリースバックとのことで、購入意欲が高いファンドに売却するものの、実際の経営はプリンスホテルが行うことになっています。
ここに大きな問題があると私は感じます。
私に言わせれば、プリンスホテルの経営力は三流です。
軽井沢のプリンスホテルなどを見ていると、高度経済成長期の日本の名残を感じるだけで、一流ホテルとしての雰囲気は全く感じられません。
同様に、びわ湖大津プリンスホテルもロケーションは素晴らしく、景色も最高ですが、ホテルの中身を見るとやはり途上国だった頃の日本を感じてしまいます。
かつて、プリンスホテルは、堤義明氏が率先して政治家に便宜を図り、政治家のパーティーなどでよく利用されていました。
赤坂プリンスホテルなどで1000人規模のパーティーを開催するのは、当時の政治家の得意技でした。
当然、そんな方法は、今となっては通用するべくもなく、現在のプリンスホテルの経営力は非常に弱いと私は思います。
無理に自分達で経営せずに、カナダのフォーシーズンズホテルでも、中国の高級ホテルチェーンでも良いので、経営を任せてしまえば良いと思います。
まともな経営力があるホテルが経営すれば、価格を3倍ぐらいに上げるような価値を創出できるはずです。
そうせずに、ファンドに売却してリースバックのような形をとったのは、グループ全体の業績が悪く、少しでも資金を得たいと思ったのでしょう。
セグメント別業績を見ると、鉄道もホテルレジャーも大赤字で大変な状況です。
西武ライオンズ球場も無観客の影響もあり、厳しい状態です。
私がファンド側の立場だったら、プリンスホテルが経営するなら絶対に買わないでしょう。
もっと経営力があるホテルに買ってもらって、食事から何から何までサービスレベルを上げてもらう必要があると思います。
藤田観光の経営を立て直すのは至難の業
藤田観光は16日、日本政策投資銀行から第三者割当増資で150億円を調達すると発表しました。
同行が飲食や宿泊業の支援向けに設立したファンドのために優先株を割り当てるもので、これにより藤田観光は財務基盤を強化するとともに、新型コロナ収束後の成長に向けた投資資金を確保する見込みです。
親会社も子会社を立て直すノウハウを持っていませんし、藤田観光の経営を立て直すのは、非常に難しいと思います。
ワシントンホテルは大赤字ですし、椿山荘も売上・利益ともに半減して赤字幅が拡大しています。
とりあえず、150億円の資金で出血をとめても、経営のコンセプトそのものが瓦解しているので、見通しは非常に暗いと言わざるを得ません。
ワシントンホテルはビジネスホテルですが、ビジネスホテル業界にはアパホテルのように非常にアグレッシブな経営をする競合がいます。
アパホテルはロケーションが良い場所を確保し、稼働率に連動させて値段を変えていくという、非常に「エグい」経営を行っています。
こういう競合に対して、今までの藤田観光のおっとりとした経営のやり方では建て直すことは極めて難しいと思います。
他の百貨店とは違った業態変換を一気に進めた丸井
日経新聞は13日、「丸井『売らないテナント』3割に」と題する記事を掲載しました。
丸井グループが商品やサービスを体験できるスペースを拡大し、急成長するネット通販企業などを誘致すると紹介。
コロナ禍で、消費のネットへのシフトが加速していることを受けたもので、各社は店頭での売上を追わず、客層の拡大や生の声の収集に繋げる一方、丸井も独自のテナント構成で集客力を高めるとともに、来店客にグループのクレジットカードの作成を勧めるとのことです。
丸井グループの形態別の店舗面積の割合を見ると、2014年時点では、7割のスペースが消化仕入れに使われていました。
すなわち、自ら「販売を行う」スペースです。
しかし2021年の今、店舗面積の7割は「定期借家」になっています。
そして、今の丸井グループの売上収益を見ると、小売の定期借家テナント収入が331億円で割合が大きくなっていることがわかります。
定期借家ということは、極端に言えば、店舗でモノが売れようが売れまいが、丸井には関係ありません。
一方、フィンテックセグメントで、丸井の収益源となっているのが約800億円に成長したショッピングクレジットです。
丸井の店舗を訪れるのは若い人が多く、支払い時にクレジットカードの分割払いを選択する割合も高いので、店舗に来てくれた人が丸井のクレジットカードを作ってくれれば、それだけで丸井にとっては収益になります。
駅近というロケーションを利用して、ドローンスクールやコンピュータースクールなど、普通の百貨店では考えられない集客をしている丸井。
何が何でも店舗でモノを売ろうとする百貨店とは、全く異なる収益構造を持っている丸井だからできる施策と言えるでしょう。
上述したように、2014年から2021年までの7年間で、丸井の店舗面積に占める定期借家の割合が急増し、7割に達しています。
定借料さえ支払ってもらえれば、後はモノが売れようが売れまいが全然関係ないという構造を作り上げることに成功しました。
他の百貨店とはかなり違う業態変換を急激に行った結果だと言えるでしょう。
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※この記事は7月25日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は丸井グループのニュースを大前が解説しました。
大前は売上収益や形態別の店舗面積の割合に触れ、「駅の近くで店舗展開している利点を活かし大きく業態転換したことで、テナント料やショッピングクレジットによる売上収益の割合が他の百貨店と比較して大きい」と述べています。
百貨店として顧客に提供する価値を磨き続けられているのは、マネタイズのポイントをずらすことも同時に実現しているからだと言えます。
顧客価値の創造とビジネスモデルを合わせて考えることにより、ブレークスルーに繋がります。
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