- 本文の内容
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- 台湾情勢 最大の懸念は中国の軍事動向
- 新疆ウイグル情勢 中国当局者らへの制裁発動
- 米英関係 対「一帯一路」構想を提案
台湾有事は対岸の火事ではない。日本は緊張感を持つべき
米国のアキリーノ太平洋艦隊司令官は先月23日、インド太平洋地域の安全保障環境について、「最大の懸念は台湾に対する中国の軍事動向」と指摘しました。
また、「この問題は大半の人が考えているよりもはるかに切迫している」と述べ、日本など地域の同盟国との連携が不可欠との見解を示しました。
私は何度も話していますが、最近「習近平のヒットラー化」が顕著に表れています。
約束の50年を待たずに中国に吸収されてしまう香港の例を見ても、目に余るものがあります。
その香港に続いて習近平のターゲットになったのが台湾です。
なぜ習近平、中国が台湾を狙うのか?というとここには中国共産党創立100周年に向けた歴史的な理由があると私は見ています。
長年、中国共産党は自分たちが抗日戦争に勝利したと発表してきましたが、実際には当時の日本軍と戦い勝利を収めたのは国民党による国民政府であり、そのトップは蒋介石でした。
習近平国家主席は、この矛盾点をどうにか解消したいと考えているのだと思います。
そこで建国の父を毛沢東ではなく孫文であるとし、国民党と共産党が共闘して日本を追い出したというストーリーにして、中国共産党創立100周年を盛大に祝う、という流れを作ろうとしています。
中国共産党は、第二次大戦後、蒋介石を中国から台湾へ追い出しています。
故に、この中国共産党の成功ストーリーを成立させるにあたり、台湾を邪魔に感じたのでしょう。
本来なら、このような無理なストーリーをでっち上げずに、仲間だった国民党が抗日戦争で勝利したことを共に祝うとでも言えば良いはずです。
しかし、今の共産党はやりたい放題やり過ぎているため、それでは立場がないのでしょう。
このような背景があるため、無理に今、台湾に手を出しているのだと私は思います。
習近平国家主席が本当の意味で台湾を欲しているのかどうか大いに疑問です。
そして、もし台湾有事になったらどのようなことが起こるのか。
米軍の空母が向かうとしても、中国の迎撃ミサイルも優秀ですし、かなり苦戦すると思います。
そして、日本にとって極めて重要なことですが、その際には確実に米軍は沖縄を利用します。
台湾有事になれば、尖閣諸島の問題ではなく、沖縄というさらに大きな問題が発生します。
この点まで考慮して、台湾有事となる日が近いとするなら、日本はもっと緊張感を持つべきだと思います。
ところが今の日本の政治家を見ていると、こうした緊急事態に即座に対応して意思決定できるほど勉強している人は、ほとんど見当たりません。
新型コロナウイルスのワクチンの接種についてすら、即答できないのが今の日本の政治家のレベルです。
台湾問題について、対岸の火事のように感じている日本人も多いでしょうが、想像以上にこの問題は日本が直接絡む可能性があり、注意する必要があると私は思います。
新疆ウイグルの人権問題で欧米に広がる波紋
欧州連合(EU)は先月22日に開催した外相理事会で中国でのウイグル族への不当な扱いが人権侵害に当たるとして中国当局者らへの制裁を採択し、即日発動しました。
欧州による制裁は天安門事件以来30年ぶりですが、これについて加藤官房長官は「この自治区の人権状況に深刻な懸念を表明する一方、日本には人権問題を理由として制裁を科す規定はない」と慎重な姿勢を示しました。
米ナイキとスウェーデンH&Mは、直接的に「ジェノサイド」という言葉までは使っていませんが、「人権侵害している」と指摘しウイグル族が強制労働をさせられていると報じられていることへ懸念を表明しています。
さらにH&Mは、新疆ウイグル自治区からの綿の買付を中止すると発表しました。
中国はハイテク技術やデータベースを活用しながら、厳しい監視体制のもと、「教育」という名目で100万人以上のウイグル人を勾留しています。
一部の人には手錠をかけて、中国への忠誠を誓うように厳しく指導している様子が、映像として世界に出回っていて、欧米から強く非難されています。
日本は法律がないために批判にするには当たらないとしていますが、それは全く理由にならないでしょう。
中国の「一帯一路」構想に対抗するなど、愚の骨頂
米バイデン大統領が先月26日、英ジョンソン首相との電話会議で中国との「一帯一路」構想に対抗するため、民主主義国家で作る同様の構想を提案したことを明らかにしました。
米欧と中国はウイグル族への人権侵害をめぐり、互いに制裁を科す事態になっていますが、米英は同盟国による戦略的な経済外交が必要との見解で一致したと見られます。
率直に言えば、「バイデン大統領もジョンソン首相も、外交について勉強不足が甚だしい」と私は思います。
中国が掲げる一帯一路など放っておけば良いのです。
中国の言う一帯一路とは、かつて欧米列強が途上国や後進国に対して行っていた植民地政策と同等のものです。
即ち中国の「遅れてきた植民地政策」に過ぎません。
今さらまともに相手にする必要すらない、と私は思います。
そのような中国の馬鹿げた一帯一路に対抗するということは、逆に言えば中国の一帯一路が優れていると認めているようなものです。
中国のことは相手にせず、自分たちはきちんと仲間と結束を固めれば良いだけです。
もし、何かの枠組みが必要なら、対象の意味合いは異なりますが、第2次世界大戦後のガリオア資金やエロア資金のようなものを企画するのも良いでしょうし、平和部隊を派遣して発展途上国を支援するというやり方でも良いでしょう。
そのような手を打たず、中国に付き合って同じような構想をぶつけようとするなど、バイデン大統領もジョンソン首相も全く勉強不足であり知的にお粗末だと思います。
中国が掲げる「一帯一路」構想は苦し紛れの産物であり対立する価値すらない、と私は思います。
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※この記事は3月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は台湾情勢のニュースを大前が解説しました。
大前は台湾と中国の関係性の経緯と台湾が有事となった際に考えられる日本への影響に触れ、「日本は緊張感を持っておく必要があるが、いざという時に即座に決断を下せるように勉強をしている政治家がほとんどいない」と述べています。
物事の本質を理解するには、歴史的文脈を把握することが大切です。
また、日々最新情報を収集することで、将来起こりうるリスクに対し能動的に備えておくことが大切です。
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