大前研一「ニュースの視点」Blog

KON873「武田薬品工業/仏ルノー/オンライン販売/国内コンビニ業界~日産にとって極めて重要なテーマとは」

2021年3月29日 オンライン販売 仏ルノー 国内コンビニ業界 武田薬品工業

本文の内容
  • 武田薬品工業 米マーベリックを買収
  • 仏ルノー 独ダイムラーの全保有株を売却
  • オンライン販売 日産、スマホで購入完結
  • 国内コンビニ業界 コンビニ、百貨店化のワナ

武田薬品にとって、買収した企業の今後が重要


武田薬品工業は10日、米マーベリック・セラピューティクスを買収すると発表しました。

マーベリックは2016年に設立されたバイオベンチャーで、免疫細胞ががん細胞を認識したり攻撃したりする力を高める技術を持つとのことです。

武田薬品はこの十数年で10社以上のM&Aを行っていて、普通にニュースを見ているだけだと状況を理解するのは難しいと思います。

当初、特に目立ったのは、スイスのナイコメッドを約1兆円、米ミレニアム・ファーマシューティカルズを約9000億円で買収したことでしょう。

合計2兆円ほど費やした結果、「日本の」武田薬品の姿が薄れていくのを感じました。

さらに和光純薬工業を富士フイルムに1500億円で譲渡し、シャイアーを6.2兆円という莫大な金額で買収したことで、「武田薬品はもはや日本の会社ではない」ということを我々に知らしめました。

直近では、日本人にも馴染み深い大衆薬事業をブラックストーンに2420億円で譲渡しました。

既に大阪本社も売却しており、私達日本人が知っている武田薬品はもうどこにもないといった印象です。

武田薬品がM&A戦略に舵を切ってグローバル化を推し進めるのは、製薬業界の中で世界トップ10に入るグローバル企業を目指しているからです。

次々と買収をした結果、現状はトップ10ギリギリに入り込んだという状況です。

これから買収した会社が芽を吹いてくれれば良いですが、私はやや懸念せざるを得ません。

というのは、医薬品業界でM&Aを上手に活用できている企業は少ないからです。

ファイザーやメルクなども、これまでのM&Aの結果を振り返ってみれば、それほど成功した事例は多くありません。

私が知る限り、この業界で最もM&Aを上手に活用できているのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンです。

今回新型コロナのワクチンも発表したヤンセンファーマは、J&Jグループの一員で、M&Aの成功事例と言えるでしょう。

今後、武田薬品がJ&Jと同じように買収した企業を上手に活用できるのかどうか、注目したいところです。




日産はダイムラーに対応しつつ、さらに将来のルノー対策も考慮するべき


仏ルノーは12日、独ダイムラーの株式を全て売却したと発表しました。

日産を含む日仏連合はダイムラーと資本業務提携をしましたが、協業が当初の想定ほど広がらず、近年は株式を保有する意味が薄れていました。

今後は同じくダイムラー株を保有する日産の動きが焦点となります。

日産もダイムラーの株式を売却するというのが本筋に見えますが、逆にダイムラーと大掛かりな提携をして、ルノーとの関係性を断ち切るという選択肢もあると私は思います。

これは非常に面白い策だと思いますが、難点は日産が資本投下している三菱自動車から反対される可能性が高いことです。

三菱自動車とダイムラーの仲は良くありません。

かつてダイムラーは三菱自動車と資本業務提携していましたが、結果として三菱ふそうトラック・バスのみ連結子会社として奪い取り、三菱自動車とは資本提携を解消しています。

もう1つ、ダイムラー株を今すぐ売却する以外の選択肢があるとすれば、ダイムラー株を投資として保有しておく、ということでしょう。

日産には、将来ルノーから株を買い戻す局面が来るはずです。

そのとき、ルノーから自社株を買い取るためにキャッシュに変えるという活用方法です。

日産はルノーの株を15%保有していて、逆にルノーは日産の株を40%以上保有しています。

今、日産の株価は下がっているので、好都合なタイミングになってきています。

今回のダイムラー株の問題以上に、どのようにしてルノーから株を買い戻すのかというのは、日産にとって極めて重要なテーマです。




ネット販売が本格化すると、新車選びでメーカーが横並びになる


日経新聞は9日、「日産、スマホで購入完結」と題する記事を掲載しました。

日産自動車が2021年春、日米で専用システムを導入し遠隔での商談や納車をスマホで完結できるサービスを開始します。

新型コロナ禍で人々が外出を控える中、来店を最小限にして、オンライン経由で車を買う顧客が増えている状況に対応するとのことです。

日経新聞の記事では日産に限定した内容になっていますが、ここで重要なことはインターネットで車を買う場合には「メーカーの垣根がなくなる」ということです。

ネットで車を選ぶときには、特定のメーカーの車のみを探すのではなく、メーカーを横並びで見て、望むスペックなどから車を探していくという方法になります。

つまり、従来のようにメーカーをまず決め、それからショールームに行く、という導線とは大きく異なります。

実は、最近私も熱海で利用する車を購入するにあたり、上述のような車の選び方をしました。

熱海は急な坂が多く、道が狭いので、小さめの車で急坂に対応したスペックの車を探して購入しました。

私の人生で初めて、スペックからスタートして車選びをした経験でした。

ネット販売が増えてくると、このような選び方がさらに一般化してくると思います。

日産というメーカー前提で来てくれないお客さんに対して、どのようにアプローチしていくのか?ということも、今後日産が考える必要がある重大事項だと思います。




セブンイレブンの鈴木社長が活躍した頃とは、時代が変わってしまった


日経新聞は14日、「コンビニ、百貨店化のワナ」と題する記事を掲載しました。

コンビニの売上高の変遷を見ると、2010年からの5年間は100円コーヒーやドーナツなどで快進撃を見せたものの、その後は成長が鈍化しています。

ライバルであるドラッグストアの急成長や24時間営業への批判及びコロナ禍で消費者の行動が変容し、再びスーパーに流れていることなどが要因で、コンビニは日常消費の奪還に向け価格対応の柔軟性が急務としています。

コンビニが陰っているというのは、前年比で店舗数の伸びが鈍化し、売上高が減少に転じていることからも見て取れます。

新型コロナの影響もあり、自分で料理をする人が増え、それによって良い素材が揃っているスーパーに行く人が増えました。

おまけに、コンビニの値段は決して安くはありません。

特にドラッグストアと比べられるケースが増えています。

ドラッグストアはマージンが大きい医薬品を販売できます。

その余力のおかげで、コンビニで扱うようなナショナルブランドの商品の値段を安くしても全体で利益を確保できます。

しかし、コンビニはその戦略を取れません。

これまでコンビニは成功物語の代表でしたが、これから先は別の道を模索していく必要があるでしょう。

例えば、スーパーのように生鮮食品に乗り出すということも考えられます。

ただし、生鮮食品を扱うなら敷地面積を大きくする必要がありますし、売れ残った時に非常に惨めに見えてしまうので、スムーズに事業展開できるとは限りません。

逆に百貨店やデパ地下のような、ハイエンド戦略をとるというのも1つの策です。

しかしこの場合も、豪華なお惣菜を作って売れ残ってしまったときのリスクは大きいと思います。

これまでは、セブンイレブンを筆頭に、商品の回転率を高めるという戦略で成功を収めてきたコンビニですが、今はそれが成功を約束してくれるものではなくなりました。

さらに、左を見ても右を見ても新たな業態がライバルとして出現しています。

セブンイレブンの鈴木敏文氏が大活躍していた頃とは、コンビニ業界全体の状況が全く変わってしまったと言えるでしょう。

コンビニ業界は非常に苦しい状況に置かれています。




---
※この記事は3月21日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はオンライン販売のニュースを大前が解説しました。

大前は、メーカーから選ぶのではなくネット上で予算やスペックから車種を絞り込み、購入する動きが海外で広がっていることに触れ、「ブランド前提で来てくれない消費者に対するアプローチを考える必要がある」と述べています。

インターネットやSNSの台頭により、消費者の購買プロセスも大きく変容しています。

消費者が購買に至るまでの行動プロセスの中に、自社の商品・サービスの魅力を知ってもらうポイントを創り出すことが必要です。




▼サポーティブ・リスニングスキル
新・「聞き出す力」養成講座
~テレワーク時代に求められる対話力を!~
■詳細はこちら:http://bit.ly/397p0zA

問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点