大前研一「ニュースの視点」Blog

KON872「東日本大震災/津波防災地域 ~関東大震災の復興を手掛けた当時の政府と、今の政府の違いとは」

2021年3月22日 東日本大震災 津波防災地域

本文の内容
  • 東日本大震災 被災地、自立回復探る
  • 津波防災地域 津波警戒区域、指定3割どまり

東日本大震災の復興が全く進んでいないのは、明確な方針を示さないから


日経新聞は11日、「被災地、自立回復探る」と題する記事を掲載しました。

東日本大震災の発生から丸10年が経過し、政府による大規模な公共投資は一段落しました。

この先は原発事故に見舞われた福島の再生、雇用を増やす企業の振興などが課題になるとし、新型コロナの影響が続く中、被災地経済は自律的な回復を探る段階にあるとしています。

当時、不幸にして政権を握っていた民主党は東日本大震災の対応に慌てふためき、全くまともな対応ができていませんでした。

その上、東京電力と政府は日々、誤りも含まれた情報を報道し続けました。

その点について、東日本大震災から一週間後にユーチューブで公開した動画、及び2011年10月に公表した「福島第一原発事故から何を学ぶか」というレポートで、私は正しい情報を発表しました。

そして復興については、津波の被害にあった地域は津波プレーンとし、住まない地域として復興を考えないほうがいいというのが私の意見でした。

もし、どうしても津波プレーンに住みたいという人がいれば、何があっても自己責任として認識してもらうべきだと思います。

結局、政府が正しい情報を伝え、このような方針を明確にしなかったために、復興に方向性がなく全てが中途半端な状態になっています。

たとえば、石巻市は再び人が住めるように復興活動を行いましたが、市外へ移り住んだ人の多くが戻ってきていません。

残りの1/3は高台に住み、1/3は津波プレーンに相当する元の場所に戻る、というバラバラの状況です。

結果として、商業活動も戻らず、「街の復興」は全く実現できていません。

また、防波堤の建造に多額の資金を費やしていますが、防波堤ですべての津波を防ぐのは難しいので、高台の住宅にお金をかけるべきだと私は思います。

どんなに大きな津波が来ても、すぐに「上へ」逃げられるような構造の建物に限って許可することにして、それに対して支援すべきです。

福島第一原発の事後処理にも相当な資金を費やしましたが、やはり方針が適当だったために「成果」と呼べるものはないと私は感じます。

政府は除染の目標として長期的には「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト」という常識では考えられない低レベルの基準を採用しました。

そのために、たとえば南相馬市だけでも約500億円もかけて、広い範囲にわたって土地の表面を削り取りました。

しかし、放射線物質は局所的に溜まる傾向がある(その場所はホットスポットと呼ばれます)ため、運動場のような広い土地を全面的に引っ掻き回してみたところで、それほど大きな効果は見込めません。

福島第一原発のデブリ(溶け落ちた核燃料)除去についても、無駄なお金を使っていると私は思います。

今政府が示しているようなデブリ除去は不可能ですし、万が一、取り出せたとしても、それを置く場所がありません。

そんなところにお金をかけるよりも、国が土地を買い取って国有化した上で、長い年月をかけて冷やし続けるしかないので、そちらの予算として使うべきです。

こうした仕分けや峻別が一切行われていないというのが、東日本大震災の復興が大きく遅れ、また資金を投じた割には効果が出ていない原因だと私は思います。

被災三県である宮城県、岩手県、福島県の県内総生産の増加率を見ると、この10年間で第1次産業は大きく減少し、建設業も含む第2次産業が伸長し、第3次産業もやや伸びています。

しかしながら、産業別の県内総生産では、水産業、電気業、農業などの落ち込み度合いが大きく、復興に成功したとは言えない水準です。





関東大震災の復興を手掛けた当時の政府と、今の政府の違い


日経新聞は12日、「津波警戒区域、指定3割どまり」と題する記事を掲載しました。

国土交通省によると津波被害の恐れのある40都道府県のうち、津波災害警戒区域の指定を終えたのは3割の11府県に留まると紹介。

地価の下落などを懸念する地元との調整が難航していることが要因ですが、東日本大震災の教訓を踏まえ、最大級の津波に備えた対策を強化する動きに水を差しかねないとしています。

関東大震災の時、当時の政府は一晩で明確な対策を立案しました。

その1つが、震災によって生じた瓦礫などを一箇所に集めて処理することです。

そのとき、瓦礫を集めて、埋め立てられて造られたのが山下公園です。

今の政府とは全く違い見事な素早い対策だと思います。

現在の政府は、今になって「津波警戒区域を指定する」と動いていますが、理解に苦しみます。

江戸時代の石碑なども残っていて、これまでに津波がどこまで来たのかを示しているデータはいくつもあります。

今さら国が新たに指定するまでもなく、これまでの歴史の中で先人が残してくれているデータがあるのですから、それを活用すれば済む話です。

国民がパニックに陥っている時に重要なのは、いち早く明確な対策を示すことです。

そして、「こうやって生活は保障する」という安心感を与えることだと思います。

それを示さなければ、国民は慌ててしまいます。

今の日本はそれができていないから、東日本大震災の被災地のように人々がバラバラに動いた結果、街も復興せず、商業活動も復興せず、ニッチもサッチもいかない状況になるのです。

東日本大震災から10年経過しても、私の提出したレポートを振り返って見直し、明確な方針を示す政治家は現れません。

東京電力は何重にも倒産し、原賠法で生き長らえている状態で、もはや夢遊病者のようです。

そして、福島第一原発内のデブリをいつ取り出すのか?という不毛な議論が繰り返されています。

東電にせよ、国会議員にせよ、もう少し勉強して問題解決につながる思考をしてほしいと強く思います。





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※この記事は3月14日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は東日本大震災のニュースを大前が解説しました。

大前は津波プレーンの考え方や福島第一原発の周辺地域への対応について述べ、「国が地域ごとに仕分けをした上で復興の取り組みを進めていないため、復興費用に対して効果が出ていない」と述べています。

目の前の課題を闇雲に解決しようとしても、想定通りに進まなかったり、思うように効果が出なかったりします。

局所的な対応をするのではなく、問題が起こる構造を把握したうえで、解決策を立案することが重要です。




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