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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON259 マレーシア・ナジブ氏首相就任~手腕が問われる政界のサラブレット~大前研一ニュースの視点~

2009年4月10日

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マレーシア情勢
ナジブ首相が就任
保護主義的な政策の懸念も
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●アブドラ氏を首相に選んだのは、マハティール氏の失策


 3日、マレーシアのミザン国王はナジブ副首相を第6代首相に
 任命しました。アブドラ前首相は昨年3月の総選挙で与党連合
 の議席数が大幅に減ったのを受け事実上、引責辞任しました。


 マイナス成長も予測されるなか、新首相が自国優先の経済政策
 への傾斜を強めるのではないかとの懸念も出ています。


 アブドラ前首相は2003年に首相に就任以来、結局最後まで取
 り立てて良いところがないままに終わってしまったというのが
 私の印象です。


 それほど国民から嫌われているということはありませんが、私
 に言わせれば、能力的に首相としての器ではなかったというこ
 とだと思います。


 一方、今回第6代首相に任命されたナジブ首相はどういう人か
 と言うと、一言で言えば政界のサラブレッドです。


 家業として首相を継承したと言っても過言ではないような人物
 だと言えます。父アブドゥル・ラザク氏は第2代首相であり、
 第3代首相のフセイン・オン氏が叔父にあたります。


 そして、自身も22歳で下院議員に初当選し、教育大臣などの
 主要閣僚ポストを経験しており、第4代首相のマハティール氏
 の時代からマハティール氏の後継者として一目置かれる存在感
 を示していました。


※「ナジブ・新マレーシア首相について」チャートをみる
  


 ところが、マハティール氏が後継者として選んだのは、ナジブ
 氏ではなく、マレーシアの元副首相兼財務相であるアンワル氏
 でした。


 これが後のマレーシアの混乱を引き起こす大きな引き金になった
 と私は見ています。


 アンワル氏は若年時にはマハティール氏の被保護者でもあり、
 マハティール氏との関係はほぼ親子関係も同然と言われたほど
 でしたが、マハティール氏の意に反して、米国流の自由主義経
 済の考え方に傾いていきました。


 そして1998年、アンワル氏が副首相を罷免されたばかりか、
 さらには逮捕される事件にまで発展し、マレーシアは混乱の渦
 中へと突き進むことになります。


 1981年から2003年まで長期にわたりマレーシアを牽引してき
 たマハティール氏の後継者としては、やはりナジブ氏が適任
 だったと私は思います。


 学生運動出身のアンワル氏を後継者にしてしまったのも間違い
 だったし、さらにアンワル氏が退いた後、アブドラ氏を首相に
 選んでしまったのは、マハティール氏の失策だったと言えるで
 しょう。


●ブミプトラ政策など、マレーシアの政治・経済の課題は山積み


 今後のマレーシアの動向を見ていく上で、1つ注目しておきた
 い政策があります。


 それは、ブミプトラ政策です。ブミプトラ政策とはいわゆるマ
 レー人優遇の経済政策であり、マハティール氏も継承し推進し
 ていた政策です。


 この政策により政治・行政におけるマレー人の優位確立には成
 功したと言えるでしょう。


 しかし一方で、ブミプトラ政策によって「働かないのに優遇さ
 れる」という問題が浮き彫りになってきています。


 ブミプトラ政策が官僚による汚職などを助長しているのは確か
 でしょう。また、それによって華僑が割を食っているという印
 象も拭えません。


「お金を持っていて」「頭が良くて」「働き者」という3拍子
 揃った華僑の人たちが、かつてのようにマレーシアという国を
 熱狂的に愛する国として認めなくなってきている気がします。


 マハティール氏の頃にも官僚が自らの権限を盾にして汚職をす
 るということはあったのだと思いますが、マハティール氏はそ
 れが蔓延することが無いように上手く抑制していました。


 しかし、アブドラ氏にはマハティール氏ほどのマネージメント
 能力はありませんから、一気に問題が大きくなったのだと思い
 ます。


 さらには、そうした官僚に対して毅然とした態度を示すことも
 できず、国民からの怒りまで買ってしまったという始末です。


 政権をバトンタッチされたナジブ首相としても、この問題をど
 のように対処するかは大きな課題だと思います。


 ナジブ首相はどちらかというと正統的な政策を打ち出す可能性
 が高い人ですが、それに対して政界に復帰を果たしたアンワル
 氏がどのような手を打ってくるのかというのも見物だと思いま
 す。


 アンワル氏は国民からの人気が高く、ナジブ首相としても苦労
 する側面もあるでしょうが、マハティール氏がナジブ氏に任せ
 てみようという態度を示しています。


 そのサポートを利用すれば、上手く自らの政策を推し進められ
 るかも知れません。


 私はマハティール氏の時代に、18年間に渡ってマレーシアの国
 家アドバイザーを務めた経験があります。


 かつての「国家アドバイザー」という立場からすると、いささ
 か無責任に聞こえるかも知れませんが、今のような状況を見て、
 私は率直に「非常に面白くなってきた」と感じています。


 マレーシアの政治・経済が活発に動いていく予感がします。今
 後の展開にも注目していきたいと思います。


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