大前研一「ニュースの視点」Blog

KON810「米金利/WTO/新NAFTA~来年トランプ・ショックが起こる可能性がある」

2020年1月6日 WTO 新NAFTA 米金利

本文の内容
  • 米金利 米短期金利の急上昇に言及
  • WTO 「紛争案件の審理を停止」
  • 新NAFTA USMCA一部修正で合意

来年、トランプ・ショックが起こる可能性がある


国際決済銀行(BIS)は8日、四半期に一度の報告書を公表し、米短期金利が9月後半に急上昇したことについて、構造要因が金利の動きを増幅させていると指摘。

米大手銀行が資産の健全性を求める金融規制に対応するため、他の金融機関などへの資金融通に慎重になっていることが響いたもので、今後も四半期末などに資金が逼迫し金融市場全体へ悪影響が広がる恐れがあります。

どこの国も年越し資金は必要ですが、米国は米連邦準備制度理事会(FRB)がマネタリーベースを増やすしかない状況に置かれています。

また、中国も民間企業と地方自治体のリスクが高まっていると言われており、世界全体的に市場リスクが上がってきていると思います。

もし何かの拍子に最後のフェーズを突破してしまうと、10年前のリーマン・ショックのような大きな金融ショックが起こるかもしれません。

もしそれが実現してしまったら、「トランプ・ショック」と呼ばれることになるでしょう。

トランプ大統領が、選挙のために景気の良い事ばかりを並べ立て、減税をしながら使うお金をどんどん増やしていることが大きな要因だからです。

日本も対岸の火事だと言ってはいられません。

安倍首相に反対する人はおらず、102兆円もの予算が組まれる事態になっています。

金利もつかないのにお金をたくさん印刷し市場をお金でジャブジャブにし、どんどんお金の価値が下がっています。

2019年を振り返ると、このような大きな金融のリスク要因をずっと溜め込んできた1年だったと思います。

来年2020年は、この溜め込んだリスクを調整する年になる可能性が高いと私は見ています。

もし来年の半ばまでにそのような金融調整が起こるとしたら、トランプ大統領は終焉を迎えるでしょう。

そうならないために、おそらくトランプ大統領はパウエルFRB議長をいじめて金利を下げることで、何とかしのごうとするでしょう。

しかし、その強引なやり方にも限界がきていると私は感じます。

リーマン・ショックもすでに10年以上前の出来事です。

10年も経つと、あのような大きな事件のことですら記憶から薄れていくのが人間です。

それゆえに、またリーマン・ショックのような大きな金融危機が起こってしまう可能性があると思っています。




トランプ大統領が破壊した組織の1つがWTO


世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長は10日、「明日から新しい紛争案件の審理はできなくなる」と語りました。

最高裁にあたるWTO上級委員会メンバー2人の任期が切れ、審理に必要な人数を満たせなくなったためで、米国が委員会の判決内容や審理時間の長さに不満をつのらせ、委員の再任や補充を拒否したことなどが背景にあります。

通商問題を解決する組織であるWTOがまともに機能していれば、トランプ大統領を押さえつけることにも成功していたでしょう。

それがわかっているからこそ、トランプ大統領はWTOの委員を補充しないのだと思います。

本来7名いるはずの委員会に、今は3人しか在籍しておらず、さらにここから2人やめて1人しか残らないという状態です。

予備的な委員会は開けますが、まともな会議を開くことはできません。

WTOはトランプ大統領が壊した組織の1つだと思います。

通商問題の解決をするべき組織として、今は完全に機能不全に陥っています。

このままであれば、何か通商問題が発生しても「WTOには提訴しても全く意味がない」という状況になってしまうでしょう。




USMCAはトランプ大統領の悪癖が生んだ産物


米国のトランプ政権と民主党は10日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の一部修正で合意したと発表しました。

自動車などの関税ゼロの条件を厳しくした他、民主党が求めていた労働者や環境の保護、薬価引き下げなどを反映したもので、今後各国で批准を進め2020年春にも新たな貿易協定が発効する見通しです。

トランプ大統領は、自ら新しい枠組みを制定したつもりでいるでしょうが、私に言わせれば実質NAFTAと変わりなく、単にトランプ大統領の悪癖が生み出したものにすぎません。

トランプ大統領がNAFTAを否定する理由は、単に自分以外の他の人が考えたものだからです。

要するに、自分自身が制定したと主張したいだけであり、これはトランプ大統領の大きな悪癖の1つだと思います。

トランプ大統領はメキシコから米国への生鮮食品の輸入を止めろと息巻いていたものの、実際に停止するとなると大問題になると判明し、慌てて事態の収拾に乗り出しました。

そのときに、「自分の出す条件を満たすのであれば許可する」ということで作ったのが、今回のUSMCAです。

NAFTAに代わるものだと豪語していますが、実際的にはNAFTAとほとんど変わりありません。

そもそも、もしNAFTAの条件で改善すべき点があるなら、NAFTAを残しておいて部分的に条件を追加するなど、いくらでも対応ができたと思います。

わざわざ新しい制度として、USMCAを作る必要は全くありません。

おそらく世界中の多くの人が、今回の件であらためてトランプ大統領を「扱いづらい厄介な親父」だと思ったはずです。

日本企業にとっては、メキシコで生産している自動車に影響が出てくるかもしれません。

USMCAでは、メキシコの低賃金による優位性を低下させるため、自動車の40~45%を時給16ドル(約1700円)以上の従業員によって製造させることなどを義務づけています。

実際のところ、メキシコの日本企業では時給10ドル以下で働いている人も多いでしょうから、課税対象になってくるでしょう。

今回のUSMCAの一連の動きを見ていても、トランプ大統領という人物は、何も学習しない人だと改めて感じます。

中国に対しては貿易問題で手を振り上げてみたものの関税率を15%から7.5%に引き下げてみたり、スマートフォンまで追加関税の対象となると言ったものの、一般大衆が騒ぐ事態になる可能性が浮上した途端に延期すると言ってみたり、ずっと同じことを繰り返しています。

自分の無知を棚に上げて、なにか事態が大変な方向に向かいそうになると、急に歩み寄って妥協する。

トランプ大統領の悪癖だと私は思います。

今回のUSMCAにしても、まさにその最たる例でしょう。




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※この記事は12月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は米金利のニュースを大前が解説しました。

約10年前に発生したリーマン・ショック。

大前は「来年は溜め込んだリスクを調整する年になる可能性が高い」と述べています。

そのような事態になったとき、自分たちは何をすべきなのか?

事前に準備できることはないか?

過去に発生した事象から学ぶことが危機対策に繋がります。


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