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- 財政赤字 MMT、政府と日銀警戒
- スルガ銀行 不適切融資1兆700億円
日本経済は次の世代になると、大きな変化をする可能性あり
日経新聞は23日、「財政赤字容認論 MMT、政府と日銀警戒」と題する記事を掲載しました。
インフレにならない限り財政赤字の膨張は問題ないとする「現代貨幣理論(MMT)」について、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が「日本政府と日銀がMMTを実証してきた」と主張しています。
しかし、この理論は政府と日銀が目指す財政健全化とは正面から対立するのに加え、足元では景気が陰り、財政支出を求める声が出やすい現状で関係者は火消しに躍起になっています。
このステファニー・ケルトン教授の見解を聞いて感じたのは、これまでの米国の経済学者同様、日本及び日本経済に対する理解・認識が甘い、ということです。
ポール・クルーグマン氏、ジョセフ・スティグリッツ氏といった米国を代表する経済学者は、「アベクロ政策」の初期の頃に、金利を下げ、マネタリーベースを増やして、マーケットをお金でジャブジャブにすればいい、と提言していました。
しかしこれらの政策は日本経済には全く効果はなく、クルーグマン氏など自らの提言の過ちを認めて敗北宣言をするに至りました。
このときの見誤りの原因は、日本及び日本経済に対する理解の甘さです。
具体的には、日本の低欲望社会に対する理解不足です。
日本をミクロ経済で見たとき、個人が低欲望のため、金利を低くしたところで何も効果を発揮しなかったのです。
米国という高欲望社会の国に育ち、自らも非常に高欲望に生きてきた彼らからすれば、全く理解できないことでしょう。
いまだに日本では、1800兆円にのぼる個人金融資産が、金利0.1%に満たない銀行預金に塩漬けされています。
世界中を見渡しても、このような国は見当たりません。
ケルトン氏が提唱する「現代貨幣理論(MMT)」は、インフレにならない限り、日本の財政赤字は問題ないとしています。
将来に対する期待が高まるとインフレになりますから、逆に言うと、今の低欲望社会の日本においてはインフレの心配はほとんどありません。
ケルトン氏はこの状況を踏まえているのでしょうが、先に述べたようにそれでもケルトン氏の日本及び日本経済に対する理解は甘い点がある、と感じます。
たしかに今大きな金融資産を持っている高齢者の世代は、貯蓄奨励の教育を受けてきた「低欲望」の世代ですが、次の世代はまた異なる価値観を持っています。
いわゆるバブル世代の人たちが50代になろうとしていて、次の世代になるのはこの人たちです。
この世代の人たちは今の高齢者世代に比べて、もっと「高欲望」で、派手に生きてやろうという人が多いと私は感じます。
おそらく、金利が無いならどんどんお金を借りてチャレンジしてみようという考えの人もいるでしょう。
もしそうならば、日本経済は将来に対する期待が高まった結果、インフレの方向へ動いていきます。
そしてインフレになると、多額の国債を抱え込んでいる日銀が困ったことになります。
本来、国の借金である国債を日銀が購入するのは禁じ手です。
その借金を財産呼ばわりしながら、無理やり抑え込んでいるのが現状です。
しかし、日本経済がインフレに振れれば、もう日銀は耐えられなくなり、破綻・即死することになるでしょう。
ケルトン氏の見解は、過去の日本を見る限り、現時点では正しいと思いますが、さらに日本を分析し、今の状況を生み出している要因を知ると、その見通しはやや甘いと言わざるを得ません。
日本の場合には、世代、年代、時代に合わせて、ミクロ的に個人がお金に対するどのような思考を持っているのかを知ることが重要です。
今の状況を前提にして安心していると、あるとき日銀のダイナマイトが爆発して、一巻の終わりです。
そして、日銀が抱えるダイナマイトのことを考えれば、一刻も早く財政赤字を減らしていくべきです。
今現在は爆発する恐れがないからといって、ダイナマイトをさらに溜め込んでもいいわけはありません。
低金利時代に地方銀行が生き残る道を示せるか?
不正融資が多数発覚し経営が悪化したスルガ銀行は15日、不正が疑われる融資は総額1兆700億円に達したとする調査結果を発表しました。
また同日、新生銀行と個人向け金融など幅広い分野で業務提携することも発表しましたが、当初取り沙汰されていた資本提携には踏み込みませんでした。
1億円を借りる余裕すらない人に、2億円を貸し付けていたような不正融資の総額が1兆円を超えていたのですから、まるで米国のサブプライムローンです。
絶対に貸してはいけない人に貸してしまったわけです。
もちろん不正融資をしたスルガ銀行に非がありますが、日本経済全体の課題として認識すべきなのは、金利がつかない今の時代に地方銀行が生き抜く方法を示すことができていないということです。
これだけの不正融資が発覚したスルガ銀行を抱え込むことは、相当リスクが高いですから、新生銀行が資本提携まで踏み込むことはないだろう、と私は見ています。
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※この記事は5月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、財政赤字のニュースについて大前が解説しました。
ケルトン教授の見解に対して大前は「過去の日本を見る限り、現時点では正しいが、現状を生み出している要因を知ると、その見通しはやや甘い」と述べています。
未来を予測する際には、過去の延長線上で見るだけでなく、その事象の原因を突き止めたうえで「その原因自体がいままでどのように変化し、今後どうなっていくか」その振れ幅を考慮する必要があります。
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