- 本文の内容
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- スマートシティー トヨタ、パナソニックが住宅事業を統合
- コクヨ ぺんてるに101億円出資
- 富士フイルムHD 営業利益2098億円
- キーエンス キーエンス、高収益の秘密
- ソフトバンクグループ 連結純利益1兆4111億円
トヨタとパナソニック、コクヨとぺんてるの事業提携の先行きは暗い
トヨタ自動車とパナソニックは9日、住宅関連事業を統合すると発表しました。
2020年1月に共同出資会社を立ち上げ、トヨタホームやパナソニックホームズなど両社の住宅関連子会社を移管する計画です。
移動サービスの台頭で、都市のあり方が変わる中、両社の資源を融合させ、街づくりに絡む事業を強化する考えです。
日本の住宅メーカーは専業が強く、トヨタもパナソニックも住宅関連事業に参入したものの、どちらも好調とは言えません。
そんな「イマイチ」同士が手を組んだところで、果たして結果は期待できるのか?というのが、私の率直な感想です。
パナソニックは家電を組み込んだスマートホーム、トヨタはEV充電施設がある街づくりを目指していく。
トップ同士が会談をすると「こうした社会を実現するために」という話になるのでしょうが、それだけでは競争力は生まれません。
積水ハウス、大和ハウスなどに対抗できるでしょうか。
また日本は、都市部でマンションが増え、全体的に新築住宅が増えるわけではない市場環境なのです。
この点を踏まえて、どのような戦略を考えているのか、私にはわかりません。
私に言わせれば、今回の発表において「両社ともトップになれなかった」という事実を受け止めた発言がなかった点に懸念を感じます。
過去の失敗をどのように分析し、今後どのような戦略で勝ちに行くのかを述べるべきだったと思います。
それをせずに、「スマートシティー」という言葉だけで逃げたのは、トップが戦略を考えていない証拠だと私は感じました。
コクヨは10日、筆記用具大手のぺんてるに出資したと発表しました。
101億円を出資し、事実上の筆頭株主となる見通しで、国内事業に軸足を置くコクヨと、海外進出を積極的に進めてきたぺんてると協業の可能性を探り、海外市場での存在感を高める考えとのことです。
この提携も良い組み合わせではないと思います。
たしかに、ぺんてるは海外展開に成功していて、逆にコクヨは海外進出に苦戦しています。
しかし、ぺんてるの海外拠点を使うだけでコクヨの海外展開も上手くいくと考えるのは、甘すぎます。
コクヨの国内の収益事業の1つは、事務機器です。
ぺんてるが主力とするボールペン販売とは似て非なる商品です。
単に拠点があるというだけで、コクヨの事務機器も簡単に海外で販売できるとは思えません。
そもそも両社ともに今後間違いなく縮小していく市場に身を置いているリスクについて、どのように考えているのでしょうか。
鉛筆やペンでモノを書く機会が減り、紙媒体も少なくなってきています。
同業を憐れむ程度の考えで、手を組んだところで全く成功できるイメージがわきません。
新聞記者は、安易にシナジー効果が期待できるなどと書きますが、この記事もその典型例でしょう。
富士フイルムは、ビジネススクールの良いケーススタディになる
富士フイルムホールディングスが8日発表した2019年3月期の連結決算は、営業利益が前期から70%増の2098億円となりました。
08年3月期以来、11年ぶりに過去最高を更新。
事務機事業での構造改革が進んだほか、医療機器やバイオ関連のヘルスケア部門も好調だった要因とのことです。
10年以上前からカメラなどのイメージングソリューション事業の売上が減少していく中、ヘルスケア事業、ドキュメントソリューション事業などを強化し、見事に経営を立て直したと思います。
特に大きく業績が落ち込んだ同業のコダックと比較すると、富士フイルムの健闘が讃えられるべきでしょう。
フィルムそのものがなくなっていく時代で、デジカメ分野にも決して強くなかったのに、よくぞ生き残ったと思います。
これはビジネススクールの立派なケーススタディになるでしょう。
よくこの手のケーススタディでは、日米の差で比較されることがあります。
たとえば、日本では電線メーカーは光ファイバーの担い手に転じることで生き延びましたが、米国ではガラスメーカーが光ファイバーのメーカーになったため、電線メーカーは没落しました。
今回の富士フイルムの例は、日米の差ではなく、企業の経営力の差として良い事例になると思います。
富士フイルムとコダックの経営陣の差が、今日の両社の違いを生み出したといえるでしょう。
キーエンス、オムロン、ファナックの違いとは?
日経新聞は8日、「キーエンス、高収益の秘密」と題する記事を掲載しました。
多くのメーカーが相次ぎ下方修正に追い込まれた中でも、キーエンスは2019年3月期に7期連続で最高益を更新した、と紹介。
背景には、データ分析と収集による営業の効率化や顧客のニーズを的確に捉えた製品開発がある一方、故障やトラブルがあっても部品を即日配送するなどスピード重視の姿勢も顧客の信頼を得ている要因としています。
自ら製造するわけではないファブレス企業のキーエンスが、これほど高収益を出し続ける要因は、世界の7不思議の1つと言っても良いくらいだと私は感じています。
BBTでも社長を務めていた佐々木道夫氏を招聘して話を伺ったことがあります。
しかし、「なぜ、キーエンスがすごいのか」もう1つわかりませんでした。
逆に言うと、それがすごいことなのかも知れません。
キーエンスの特徴は、お客様に生産性向上の答えを届けるソリューション営業が秀でている点です。
このあたりは、創業者の滝崎武光氏の影響が強いのだと思います。
競合のファナック、オムロンとの大きな違いにもなっています。
オムロンは似たような商品を販売していますが、ソリューション営業ではなく、部品などの単品売りが中心です。
メーカーのオムロン、ソリューション営業のキーエンス、その間にいるのがファナックという競合関係です。
この3社の競合関係と売上・利益を見ると、この業界の状況をよく理解できます。
売上高で見ると、オムロン(約8595億円)→ファナック(約6356億円)→キーエンス(約5871億円)の順です。
しかし、営業利益と純利益では全く逆の順序で、キーエンス(営利3179億円、純利2261億円)→ファナック(営利1633億円、純利1542億円)→オムロン(営利766億円、純利543億円)になります。
そして、時価総額もキーエンス(約8兆円)→ファナック(約3.9兆円)→オムロン(約1兆円)の順になっています。
ソフトバンクが決算を「派手」にした理由とは?
ソフトバンクグループが9日発表した2019年3月期連結決算は、純利益が前期比36%増の1兆4111億円となりました。
ファンド事業の含み益が初めて1兆円の大台に乗り、利益拡大をけん引しました。
孫正義会長兼社長はサウジアラビアなどと組んだ10兆円規模の投資ファンド「ビジョン・ファンド」の第2号ファンドを立ち上げる考えを示しました。
この発表には、若干の「トリック」があります。
それは、含み益を決算に入れていることです。
含み益は、あくまでも「含み」ですからまだ「実現」してはいません。
ですので、含み益を連結純利益に入れずに計算する、という考え方もあります。
ところが、今回はあえて含み益を入れて計算する方法をとり、またヤフーも連結子会社化して決算に入れ込みました。
これだけ「派手」な決算にしたのは、何か理由があるのだと思います。
ソフトバンクの有利子負債は10兆円を超えています。
その大きな負債への心配を打ち消したいのかもしれません。
「ビジョン・ファンド」の第2号ファンドについては、第1号と同じように上手くいくのか?というと難しいと私は見ています。
10兆円規模の投資に値する、ウーバーやWeWorkのような企業が世界を見渡しても、見つからないからです。
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※この記事は5月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、事業提携のニュースについて大前が解説しました。
トヨタとパナソニック、コクヨとぺんてる、どちらも事業提携で競争力を強化する方針ですが、はたして上手くいくのでしょうか。
住宅市場は専業が強く、トヨタもパナソニックも住宅関連事業が好調とは言えません。
コクヨとぺんてるは主力商品が異なり、海外展開が同じように上手くいくとは思えません。
事業提携を検討する際には、
「提携することによって規模の経済が発揮できるのか?」
「双方の強み弱みを補う存在となれるのか?」
協業後の競争力を冷静に把握することが大切です。
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