大前研一「ニュースの視点」Blog

KON772「ドイツ金融大手/決済サービス/三井住友カード/デジタル銀行~テクノロジーの進化に揺れる金融業界」

2019年4月5日 デジタル銀行 ドイツ金融大手 三井住友カード 決済サービス

本文の内容
  • ドイツ金融大手 独コメルツ銀行との統合交渉へ
  • 決済サービス 米ワールドペイを買収
  • 三井住友カード 米スクエアとの提携強化
  • デジタル銀行 タイで「スマホ銀」開業

ドイツも英国系と同様、銀行の統合による大規模化の流れ


経営再建中のドイツ銀行は先月17日、ドイツのコメルツ銀行との統合交渉を進める方針を明らかにしました。

ドイツ政府は、これまで経済成長を支える強力な銀行が必要だとして両行の統合に前向きな姿勢を示してきました。

ドイツ銀行は単独での再建が進まない中、政府の後押しを得て統合に舵を切る考えです。

ドイツ銀行には、ドナルド・トランプグループとの関係性もあるなど、何をやっているのかわからない「悪さ」を感じてしまいます。

収益性も低く、かつての負債処理が重くのしかかっている状況です。

セグメント別売上を見ると、売上高が低い資産運用部門が唯一安定しているものの、その他はアップダウンが激しくなっています。

最近の状況で言えば、投資銀行部門は特に大きな損失を出しています。

コメルツ銀行との比較で見ると、売上高、時価総額、社員数、営業拠点などはドイツ銀行が上回っていますが、純損益になるとコメルツ銀行が優れています。

ドイツ屈指の銀行同士の大型統合ですが、おそらく欧州委員会の承認も得られるでしょう。

両行が統合すると、ドイツの銀行も英国系の銀行と同様、ますます大規模化していく流れになっていくと思います。

その中で懸念されるのは、欧州の銀行に対する投資家の警戒心が強いことです。

ビジネスウィーク誌によると、欧州の銀行は「ブックバリュー100に対して、マーケットバリュー80」となっています。

米国の銀行は「ブックバリュー100に対して、マーケットバリュー140」ですから、明らかに投資家の評価が違います。

この点は、欧州の銀行全体の課題と言えるでしょう。




世界的な潮流は、クレジット決済からデビット決済


米金融サービス大手、フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービシズ(FIS)は先月18日、決済サービス大手のワールドペイを買収すると発表しました。

負債を含めた買収総額は430億ドル(約4兆8000億円)で、これにより電子商取引(EC)やオンライン決済の分野で規模の拡大をめざす考えです。

私に言わせれば、「なぜ、この期に及んでこんな買収をするのか?」全く理解できません。

決済手段の世界的な兆候を見れば、主流になっているのは、クレジット決済ではなく、特に中国を中心とするデビット系決済です。

私ならば、デビット系決済のサービスを自分で作ることを考えます。

さらに将来的なことを見据えても、ブロックチェーンなどの技術を活用し、ネットだけで決済が完結する時代になることは確実です。

そのような時代の流れがあるにも関わらず、クレジットカード決済のワールドペイに4兆円も支払う意味があるのか?ということです。

あえて言えば、現時点ではワールドペイは決済行為の約半分ほどを握っているので、まずはそこを抑えることから始めよう、ということなのかも知れません。

同じように、三井住友カードもクレジット決済という古い発想に固執してしまったようです。

三井住友カードは先月26日、決済端末を提供する米スクエアとの提携を強化すると発表しました。

4月から期間限定で中小企業などにスクエアの決済サービスを無償で提供する他、売上高30万円まで手数料を無料にするとのことです。

POSシステムがなくても、スマホなどで決済できるスクエアのクレジット決済システムはよくできています。

しかし、そもそも「クレジット決済」そのものが問題になってきていると私は感じています。

デビットカードの決済手数料が安価にもかかわらず、いまだにクレジットカードの決済手数料は3%を超えるケースもあります。

未払いリスクをクレジットカード会社が負うことになるので、その分手数料が割高になってしまうのです。

一方、デビット決済の場合には、その瞬間に決済が行われるので、未払いのリスクはありません。

ゆえに、手数料を低く抑えることができます。

特に中国を中心とするデビット決済の流れが、世界的にも広がっていくように思います。

こうした流れを見据えた提携とは思えません。

三井住友カードもスクエアも旧態然としてクレジットカードに依存し続けるなら、将来は明るくないでしょう。




LINEは決済サービスに注力すべき


日経新聞は先月20日、『タイで「スマホ銀」開業』と題する記事を掲載しました。

シンガポール大手のユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)がアプリだけで営業する銀行をタイで開業しました。

実店舗に行かなくても口座を開設できる他、ゲーム感覚の預金サービスやチャットでコールセンターとやりとりできるアプリなどを備えています。

ネットバンキングの人口普及率が74%と世界首位のタイで、利用者を拡大する考えです。

ユナイテッド・オーバーシーズ銀行はシンガポール3大銀行の1つです。

預金サービスも全てスマホで行うというのは非常に面白いと思います。

明らかに日本よりも進んでいます。

日本では銀行筋の力が強いため、この手のサービスを展開しづらい面もありますが、それでもLINEが積極的に手がければ良いのに、と私は思います。

国内月間アクティブユーザー数が7800万人に上るのが強みになるでしょう。

なお、フェイスブックはLINEと同じようなコミュニケーションシステムからスタートして、今では決済市場に積極的に参入しています。



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※この記事は3月31日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、決済サービスなど金融関連の話題について大前が解説しました。

テクノロジーの進化に揺れる金融業界。

既存勢力と新たなプレイヤーの構図は、他の業界で働く人にとっても、企業の生き残り戦略を考えるうえで非常に参考になります。

LINEとメルカリの提携が最近発表されましたが、今後どのような一手を考えているのか。

一方、大手クレジットカード会社はどんな動きをとるのか。

「もし自分が当事者だったらどうするか(What if~?)」

世の中で起きていることを、自分事として考えることで戦略的思考を磨くことができます。


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