大前研一「ニュースの視点」Blog

KON771「株主還元/資金配分/米株式市場/米政策金利~世界経済の現状と先行き」

2019年3月29日 株主還元 米政策金利 米株式市場 資金配分

本文の内容
  • 株主還元 2018年度に世界で約265兆円
  • 資金配分 米、自社株買いに規制論
  • 米株式市場 米株の強みとコストの怖さ
  • 米政策金利 政策金利を据え置き

経済のソフト化によって大きな設備投資が不要になった


日経新聞が21日報じたところによると、世界の企業が行った配当と自社株買いの合計額は2018年度に2兆3786億ドル(約265兆円)と過去最高となったことがわかりました。

金融緩和で資金が大量に出回っていることに加え、産業構造の変化により企業が設備投資を行わなくなっていることが要因で、投資家が株主還元ばかりを重視するようになれば、特定の企業にお金が集中する富の偏在を生みかねない現状としています。

経済がソフト化し、大きな設備投資をする必要がなくなったということが大きな要因になっています。

かつては100~200億円の投資も当たり前だったシリコンバレーでも、今は1~2億円でも充分な案件が増えています。

企業が設備投資をしなくなったのではなく、大きな設備投資の必要がない成長機会が増えた、というのが実態です。

ユーザーが買ってくれたスマホが設備投資の役割を果たすなど、現在の設備投資は特定の企業が大きく実施するものではなくなっています。

「5G」の設備投資は従来型の大きなものですが、それでも初期の頃の携帯電話網の設備投資額に比べると小さくなります。

経済のソフト化に伴い、企業には資金が余ります。

これを株主還元し、株価が高くなるという構図です。

株価が上昇することで「富の偏在」という問題が発生する、という指摘もありますが、米国企業のように401Kを組み込んでいると、むしろメリットを享受できます。

例えば、近年では株価が低迷していますが、GEは自社株を401Kに組み込んでいて、ジャック・ウェルチ氏が経営者の時代に株価は約30倍になりました。

この自社株を保有できた社員は、もしGEを解雇されても困ることはなかったでしょう。

失業が増えても、早期退職を迫られても個人として安心できるというのは非常に大切なことだと思います。




競争力を前提とせず、給与・賃金を上げても問題は解決しない


日経新聞は12日、「米、自社株買いに規制論」と題する記事を掲載しました。

米民主党上院トップのチャック・シューマー院内総務が企業は労働者のために資金を使うべきだとし、自社株買い規制の必要性を訴えたと紹介。

トランプ大統領は、株式市場にショックを与えかねない政策には慎重姿勢ですが、共和党内の一部にも規制に同調する動きが見られ、背景には米国の深刻な格差問題があるとしています。

シューマー氏は金融関係では、特に大きな発言力を持つ人物です。

しかし、今回の発言にはもう1つ具体性がなく説得力が欠けると私は感じました。

労働者のために資金を使うというのは、具体的に何を意味しているのか?と考えると、おそらく「給料」のことだと思います。

しかし、そうであれば、一体どんな競争力を前提として給料を上げることができるのでしょうか?

競争力を持つIT関係の米国企業は、すでに世界最高水準の給料を支払っています。

世界的に競争力を失っている、下請け企業やレストランなどで働く人の給料を上げるとなると、即インフレを招くことになるでしょう。

すでに多くの米国企業が競争力を失い、中国からの輸入が止まらない時期に、このような発言をされても、「結局、何をどうすれば良いのか?」というのがわかりにくいと思います。




長期的に見ると、米国株・米国不動産は群を抜いて安定している


日経新聞は24日、「米株の強みとコストの怖さ」と題する記事を掲載しました。

ウォーレン・バフェット氏が、経営するバークシャー・ハザウェイの株主に年に1回送る手紙で、『今年は「米国株に投資する強み」と「コストの怖さ」を指摘した』と紹介しています。

株高が米国の多くの国民の幸せに結びつく構図が、米株の長期上昇トレンドを維持させていることや、
売れ筋投信の多くが高コストのアクティブ型である日本の投資家こそコストの重要性を知るべきかもしれないとしています。

日本でも米国でも、運用成績が良い投資信託は、ほぼ全てが「米国株」を組み込んでいます。

日本株なども良い時期はありますが、長期間で見ると米国株だけが圧倒的な安定感を誇っています。

トランプ大統領は、米国が負けている感を演出していますが、実際にはそんなことはありません。

GAFAを筆頭に、米国企業は最先端市場でも強いですし、株価も上がっています。

競争力も圧倒的で、IT技術者などの給与もかなりの高水準です。

結局、ブラックマンデー、リーマンショックなど大暴落があったとしても、10年、20年、30年という長い目で見ると、「最も上昇しているのは米国株」というのが実態となっています。




米国の政策金利据え置きは、決してマイナスのことではない


米連邦公開市場委員会(FOMC)は20日、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25-2.50%のレンジで据え置く方針を全員一致で決定しました。

海外経済の成長鈍化が逆風となり、米国経済も予想より減速していることを受けたもので、2018年12月に続く追加利上げも見送りました。

パウエルFRB議長の発表を見ていて、なぜ、わざわざ惨めな言い方をしてしまったのだろう?と残念な気持ちになりました。

FF金利の誘導目標を据え置く理由を、「海外経済の成長鈍化」と言う必要は全くありません。

私なら、このような言い方は絶対にしないでしょう。

日米欧の政策金利の推移を見ると、ECBも日銀も0%あるいはマイナスに張り付いていて、FRBだけが2.5%近辺まで上昇してきています。

これを根拠に、「米国企業は非常に好調であり、これ以上金利を上げる必要性がなくなったので据え置く」と発表するべきだったと思います。

海外経済の成長鈍化などと「他に原因」を求める必要はなく、欧州、日本という巨大経済が停滞している中、米国経済はよく持ちこたえていて、これを維持していく方針だ、と言えば何も問題はなかったはずです。

また、中央銀行の総資産残高を見ても、FRBは残高を下げてきています。

この点もリスクマネジメントができているということを強調して発表できたと思います。

一方、日本は大きな問題を抱えています。

日銀はいまだにマイナス金利を継続し、日銀が抱える総資産残高は上昇していて、リスクは高くなっています。

日本としては、かなり重大な問題として受け止めて対処するべきものです。



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※この記事は3月24日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




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