- 本文の内容
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- 日欧貿易 日欧EPAを承認
- 憲法改正 自民党の憲法形成案提示見送り
- 税制改正 2019年度税制改正大綱を決定
- 国内景気 景気回復が「いざなぎ景気」超え
日欧EPAのインパクトは極めて小さい
欧州議会は12日、仏ストラスブールで開いた本会議で、日本とEUの経済連携協定(EPA)を賛成多数で承認しました。
日本は8日に国会承認を済ませており、これにより日欧EPAは2019年2月1日の発効が固まりました。この日欧EPAには、トランプ米大統領への対抗心もあって欧州側も大いに喜んでいています。欧州と日本を合わせると世界第2位の経済圏となり、世界の自由貿易の4割に達するということで、大きな影響を期待させる報道もあります。
しかし私は、この日欧EPAはそれほど大きな効果は期待できないと思います。たしかに日欧EPAの対象で関税が低くなるものはありますが、関税率などたかが知れています。例えば20ユーロのワインの関税は、270円前後といったところです。ところが、このワインが日本国内に流通するときには、7~8倍の価格に跳ね上がります。これは、関税のせいではなく、独占的な輸入商社が価格を上乗せしているからです。
つまり本質的な問題は、特定の輸入商社に輸入業の独占を許していることです。私が好きなルーチェというワインなど、現地にて19ユーロで売っているものがあるECサイトでは18,000円ほどの値段になっています。さらにそれが、高級レストランでは値段が上がって6万円程度になります。
その一方、港区のあるインターナショナルスーパーマーケットでは、ワインなどのお酒の値段はかなり安くなっています。これは、独占的な輸入商社を介さずに直接仕入れを行っているからです。せっかく関税も下がるのなら、このお店のように、現地価格に輸送費を加えて多少の利益を上乗せする程度で提供して欲しいものだと思います。問題は関税ではないのです。
日本の国会議員は、憲法改正をゼロから構想できるレベルではない
臨時国会会期末の10日、衆議院で憲法審査会が開かれましたが、安倍首相が意欲を示してきた「自衛隊の明記」などを含む自民党の憲法改正案の提示は見送られました。先月の憲法審査会で、与党側が合意を得ないまま開催を強行したとして、野党側が反発したことを受けたものです。国民投票法改正案の審議も再び次の国会に持ち越しとなりました。
自民党案を見ても反対している野党を見ても、何とレベルが低いことかと思います。私は「平成維新」という本で今から約30年まえに、「ゼロベースで憲法を構想するなら、こうすべきだ」というのを示しました。憲法の議論をするなら、自分がゼロベースで構想を練ることができるくらいでなければお話にならない、と私は思います。
今回、安倍首相が指摘している憲法改正の4項目など、誤文訂正のレベルに過ぎません。その上、それに反対している野党側も、手続き上の問題を指摘するくらいで、どちらにしても全く憲法に対する構想を示すことができていません。
「自分たちなら憲法をこうする」という提案があるべきです。
このような状況では、今後憲法改正が俎上に載ってくることはないでしょう。強引に進めることも可能ですが、最終的に国民投票で否決されるのがオチです。おそらく能力的な問題として、今の日本の国会議員に任せることが無理なのだと思います。
憲法改正を実現できる方法があるとすれば、オンブズマンを作って原案を提出させ、その原案を与党と野党が国会で審議・検討し、そして最終的に国民投票にかける、という方法でしょう。一度、オンブズマンに戻して原案を提出してもらわないと、まともな議論が始まらないと思います。
政府がすべきなのは、増税の目的を国民に説明すること
自民党と公明党は14日、「2019年度与党税制改正大綱」をまとめました。10月の消費増税に伴う駆け込み需要や反動への対策に重点を置いたもので、自動車と住宅は消費増税後に購入すればメリットを得られる措置を拡充。単年度ベースで自動車と住宅で1670億円の減税となる見通しです。
参議院選挙を睨んだ対策なのでしょうが、あまりに細かく複雑にやりすぎています。飲食店で普通に購入したものは減税対象で8%になるのに、それを店内で食べると外食扱いで10%が適用されるとか、コンビニのイートインスペースはその適用範囲なのかとか、細かい問題がありすぎて、誰も正確には理解できていないと思います。
自動車や住宅の減税策にしても、そんなことをするなら、そもそも税率を上げた効果が薄れてしまって意味がないと思います。
政府がやるべきことは、意味不明に細かい規則や減税策を考えることではなく、国民に「なぜ消費増税が必要なのか?」という理由をきちんと説明することです。増税を契機にキャッシュレス化を進めるという話も出ていますが、これも全体を複雑にしているだけです。
アジェンダが増えすぎて、狙いが多すぎて、意味不明になっています。私に言わせれば、余計なことばかりやっています。選挙対策とは言え、あまりにひどい状況に陥っていると感じます。
平成の30年間は、失われた30年。景気回復など全くしていない
内閣府は13日、有識者による景気動向指数研究会を開き、2012年12月から続く景気拡大局面が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて、昨年9月で戦後2番目の長さになったと認定しました。またさらに景気回復が今月まで続いていることが確認されれば、戦後最長に並ぶことになり、政府や民間エコノミストの間では来年1月には戦後最長を更新するとの見方が強まっているとのことです。
それほど良い景気が続いているという感覚を持っている国民は、誰もいないでしょう。これは利用している「指標」が間違っているので、これほど実態とかけ離れた発表になってしまっています。平成になってからの30年間の事実は、日本は失われた30年と言っても良いほど、世界の中で日本が最も衰退した期間だということです。
例えば、平成元年における世界の企業時価総額ランキングでは、トップ10のうちエクソンモービルとIBM以外は全て日本企業でした。それが2018年のランキングでは、トップ10のうち中国企業が2社で残りは全て米国の企業になっています。この30年間の株価指数で見ると、ダウ工業株は同じ期間で価格が2倍になっているのに、日本は2倍どころかマイナスになっています。
名目賃金でも、米国やユーロが2倍に上昇したのに、日本はマイナス7%です。平成元年からの30年で見ると、日本経済で「上がった」ものなど1つもありません。景気回復と言っても、30年前から比べればマイナスなのですから、意味がないことがわかります。
この平成の30年間は戦後経験したことがない30年間になりました。企業でいえば、日本のトップであるトヨタ自動車が世界では26位です。あれだけ強かった企業も世界から姿を消した日本において、いざなぎ景気に匹敵する景気回復などとよく言えたものだと思います。
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※この記事は12月16日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、日欧貿易の話題を中心にお届けいたしました。
国会承認を経て来年の発効が固まった日欧EPA。
経済効果が期待されるとの声があがるなか、
大前はワインの例を挙げてそれに疑問を呈しています。
本当に関税が下がれば販売価格も下がるのか?
どのようなプロセスを経て販売価格は決定されているのか?
今回のケースに関しては、このような視点で冷静に考えることで
関税減のインパクトを想像することができます。
構造把握を通じて最も効果の出る箇所を理解し、
それに対して打ち手を検討することが問題解決において重要です。
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