大前研一「ニュースの視点」Blog

KON755「日仏原発開発/中国原発市場/武田薬品工業/LINE/飲食店業界~キャッシュレス決済で遅れをとる日本の現状。日本はまずシステムを構築せよ」

2018年12月7日 LINE 中国原発市場 日仏原発開発 武田薬品工業 飲食店業界

本文の内容
  • 日仏原発開発 フランス政府が次世代原子炉開発を凍結
  • 中国原発市場 中国、新型原発の稼働ラッシュ
  • 武田薬品工業 シャイアー買収「賛成できない」
  • LINE スマホ決済で中国テンセントと提携
  • 飲食店業界 「無断キャンセル」防止へ議論

日本の原発計画はすでに詰んでいる。今後の原発の中心は途上国へ


日本がフランスと進めている次世代原子炉開発について、仏政府が2020年以降、計画を凍結する方針を日本側に伝えたことがわかりました。建設コストが増加したことや、原発依存度を引き下げるフランス政府の方針などを受けたもの。日本は2016年に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を決め、今後の研究開発にはこの原発のデータを活用する計画で、日本の原子力計画への影響は必至と見られています。

日本がプルトニウムの備蓄を増やしていることについて、かねてから欧州や米国から注意勧告を受けてきました。日本としては高速増殖炉の開発を続けているという大義名分を掲げてきたものの、「もんじゅ」の廃炉が決定したことでそれも通用しなくなりました。

そこで、フランスの実証炉「アストリッド」に資金を投じて一緒に開発を進める立場を取ろうとしていたのです。しかし、フランスは原子力依存度を現状の約70%から50%程度に落とすことを決定し、この思惑も失敗に終わることになりました。

フランスはすでに「ラプソディ」「フェニックス」「スーパーフェニックス」という1000メガワット級の高速増殖炉の開発に成功していますから、無理に「アストリッド」を開発する必要がありません。「日本が資金を出すなら一緒にやってもいい」くらいの考えだったのでしょう。それを急に止めると言い出すあたりは、マクロン大統領らしいなと思います。

日本では「日本の原子力計画に打撃」と一部で報道されていますが、こんな都合がいいだけの便乗政策が中止になって「打撃」と解釈するのは、私には理解できません。プルトニウム備蓄の大義名分となる日本の全原子力政策が、全面的にフランスに依存していたというのも悲しい話です。

結局、日本の原子力政策という意味では、高速増殖炉もんじゅの失敗でゲームオーバーだったということです。日本のプルトニウムの備蓄については世界中から注目されていますが、この事態に至っては備蓄し続ける正当な理由付けをすることは難しいでしょうから、不要なものは返却するしかないと私は思います。

日本とは対象的に開発が進んでいるのが中国です。日経新聞が報じたところによると、中国では9月から11月にかけて、加圧水型軽水炉(PWR)「AP1000」を採用した原発3基が商業運転を開始しました。事故で電源が失われても自動で原子炉が停止可能な次世代型の原子炉「第3世代プラス」と呼ばれるもので、習近平指導部が打ち出す産業政策「中国製造2025」を背景に、030年には最大で現状の4倍近くの1億5千万キロワットまで発電能力を引き上げる計画です。

この「AP1000」という原子炉は米ウエスチングハウスが開発したものです。もし今も東芝がウエスチングハウスを保有していれば、ライセンス料だけで相当なことになっていたでしょう。東芝としては泣くに泣けない事態でしょう。

世界各国の原子炉の建設状況、計画状況を見ると、メインはロシアと中国、それに次ぐのがインドで、ほぼこの3国に集中しています。結局、発展途上国が原子炉の主力建設地域になってきています。日本は計画中としているものがいくつかありますが、実際に開発されることはないでしょう。

中国の原発開発状況を見ていると、日本の川崎重工が開発した新幹線がいつの間にか中国製として輸出されるようになっていたパターンを想起してしまいます。中国が原子炉の開発をマスターすると、同じようなことが起こってくると思います。




武田薬品のシャイアー買収は下手をすると「ルノー・日産化」する


武田薬品工業の創業家で社長・会長を務めた武田国男氏がアイルランドの製薬大手シャイアーの買収に反対していることがわかりました。武田氏は「医薬業界にはM&Aは必要」としながらも、独自に分析した結果、シャイアーの案件はリスクが高いと判断したとのことです。

武田国男氏は偉大な経営者ですが、すでに海外(シンガポール)にいる身ですから、負け犬の遠吠えのように見えてしまいます。シャイアーは買収に次ぐ買収で大きく成長した企業ですが、業績推移を見ると純利益の乱高下が激しいのがわかります。今のタイミングは「高値づかみ」したような形になっています。こういう点も買収に賛成できない理由になっているのだと思います。とは言え武田国男氏を含め、創業家の株式保有比率は3%程度なので、まず委任状争奪戦(プロキシーファイト)には影響しないレベルです。

武田薬品の社長は、武田国男氏から長谷川氏、そして長谷川氏から同社初の外国人社長になったクリストフ・ウェバー氏へ引き継がれています。このシャイアー買収問題は、下手をすると「ルノー・日産化」する可能性があるので、その点は注意するべきでしょう。




LINEはアント・フィナンシャルを目指せ


LINEは中国ネットサービス大手のテンセントと提携し、2019年から訪日中国人客にスマートフォン決済サービスを開始する見通しが明らかになりました。また、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)と提携し銀行業に参入する計画も発表しています。

実務的なことで言えば、みずほとの提携は要らないでしょう。アリババのアント・フィナンシャルと同じようなことをすれば、LINE自体が金融機関のような仕事をすることは難しくありません。おそらく、顧客の取引DBの情報などを狙っているだけだと私は見ています。




キャッシュレス決済で遅れをとる日本の現状。日本はまずシステムを構築せよ


飲食店の無断キャンセル防止へ向けて、業界団体や弁護士、経産省などが参加する検討会が開かれました。会議ではコース料理を予約して無断キャンセルした場合は全額を、席だけを予約した場合も平均客単価の5割程度を請求することなどが指針としてまとめられました。

年間被害総額は約2000億円ですから、もちろんこの問題を解決すべく取り組むのは良いことです。しかし、「指針をまとめる」よりも「システムを構築」するほうが先だと私は思います。というのは、すでに中国ではアント・フィナンシャルが構築したシステムのおかげで解決しているからです。

お客さんは飲食店を予約すると同時に、アント・フィナンシャルのシステムで電子決済が完了してしまいます。キャンセルされても、すでにお金を払ってもらっているので飲食店としては特に困りません。実際には、このシステムが構築されたことで、中国では飲食店の予約キャンセル数が激減しました。



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※この記事は12月2日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

飲食店の無断キャンセル防止へ動き出し、
検討に向けて取り組みが始まりました。

この話題に対して大前は記事中で、
キャッシュレス決済で遅れをとる日本の現状を指摘し、
まずシステムを構築することが先だと言及しています。

中国のアント・フィナンシャルの例を
記事中で紹介をしていますが、
成功した事例とその理由を具体的に読み解くことは重要です。

事例を学ぶ際には、成功事例だけを学ぶだけでなく、
失敗事例も探し、その理由を探ることも大切です。

ノウハウを積み重ねることで、
自分が応用できるパターンとして認識し、
ビジネスの勝率を高めることができます。


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