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- 日ロ関係 ロシア・プーチン大統領と会談
北方4島の返還は日米安保条約の対象にならない理屈が必要
安倍首相とロシアのプーチン大統領は14日、平和条約締結後に北方四島のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させることで合意しました。安倍首相は会談後、「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという強い意志を大統領と完全に共有した」と語りましたが、プーチン大統領はその後「日ソ共同宣言には、引き渡す根拠やどちらの主権になるかは明記されていない」と述べ、交渉には時間がかかる認識を示しました。
安倍首相もようやく日ロの歴史的な背景などを理解したので、プーチン大統領の在任中に日本とロシアの問題を解決し自らの功績を残しておきたいという思いで動いているのだと思います。
そもそもプーチン大統領は数年前にも「2島返還」については承諾する姿勢を見せていましたが、外務省の谷内氏が「(2島返還された場合)日米安保条約の対象になって米軍基地が置かれる可能性」があると発言したために交渉が行き詰まってしまったのです。私は当時から諸悪の根源は谷内氏であると指摘していましたが、今回初めて朝日新聞がこのことに言及する記事を掲載しました。
安倍首相はロシア問題について、不思議なことに外務省・谷内氏に頼るところがあります。私に言わせれば、そもそも日ロ関係について国民に嘘をついて混乱させる事態を招いた張本人は外務省であり、頼るべき相手ではありません。当時の重光外相は、ダレス米国務長官から沖縄返還の条件として、ロシアに対して4島一括返還を求めるように恫喝されました。米国の意向によって日本は4島一括返還を主張するようになったのです。このような背景を外務省は国民に明らかにしていません。
プーチン大統領の「どちらの主権になるかは明記されていない」という発言は、日本に対する嫌がらせではなく、日米安保条約の対象になるか否かを見据えたものです。返還された島の主権が日本になると、当然のことながら日米安保条約の対象になり、米軍基地が置かれる可能性が出てきます。そうなるとロシア国民に納得してもらえませんから、プーチン大統領は困ります。
一方、北方4島は日米安保条約の「対象にならない」とすると、今度は米国が許容できないはずです。中国との尖閣諸島問題では日米安保条約の対象として米国に庇護を求めていますから、北方4島は対象外というのは虫が良すぎるということになります。
ロシアと米国のどちらも納得できる理屈が必要です。例えば、沖縄返還と同様に「民政」のみ返還し、「軍政」は返還しないという方法です。この形であれば、米軍基地が置かれることはなくプーチン大統領も国民に説明できるでしょう。ただ、現実的に島民のほとんどがロシア人なのに民政だけ返還されても、ほとんど意味がないという意見もあります。いずれにせよ、北方4島の返還にあたっては、日米安保条約の対象にならないようなプロセスや理屈が絶対に必要になってくると思います。
安倍首相は何よりも平和条約締結を重視すべき
ロシアとの2島返還の交渉が進んだ場合、対象となるのは歯舞群島と色丹島でしょうが、この2島は日本にとってそれほど利用価値は高くありません。現実的に最もメリットがあるのは国後島と色丹島の間にある「漁場」です。歯舞群島と色丹島の2島返還であっても、この漁場を使えるとなると日本にとっては大いにメリットがあります。
ということであれば、政府の交渉もこの流れに乗りたいところですが、地元の漁民が反対しているという話もあります。国後島と色丹島の間にある漁場が使えるのはありがたいけれど、日本中から漁師が押し寄せることになったら、地元の漁師としてはデメリットが大きくなるということです。日本側も一枚岩とはなっていません。
先日、私は網走から近い漁港で「ロシア産ウニ」というものを見かけて、「なるほど」と思いました。つまり、そのウニはロシアの漁師に獲らせて、それを買っているということです。北洋漁業は寒く危険ですから、ロシアから輸入するほうが日本にとってもメリットが大きいかも知れません。
返還交渉が進むと、元住民の人たちが戻るのかどうかという現実的な問題も出てくると指摘されていますが、私はかなり限定的なものになると見ています。今も約1万人の元住民が島の返還を求めていますが、年齢はほぼ90歳近い人たちですから、実際に移り住む人は少ないはずです。また先ほど述べたように、ロシアが軍政を残したまま返還するとなったら、なおさら新たに島に移り住む日本人は少ないでしょう。5~10年後、住民の大半はロシア人というのが現実だと思います。その人たちの福利厚生まで日本が考えるべきとなると、日本側の負担も馬鹿にできません。
どうしても日本人は現実的な島の返還を求めがちですが、ロシアと日本との関係性を改善していくことを考えれば、象徴的な問題として平和条約を締結することのほうが重要であり、安倍首相にとってもそれを実現できれば大きな功績になると思います。
もちろん2島を返還してもらうのは象徴的な意味合いとしても良いですが、例えば鈴木宗男氏が言うように「2島先行返還で、残り2島についても継続交渉」にこだわる必要はないと思います。むしろ平和条約を締結すれば、その後しばらくの間はロシア人が島に残っているのも認めるくらいのオプションを付けても良いと感じます。
領土よりも平和条約を締結しロシアと正常な関係性を築いていくことが、何よりも重要だと私は思います。ようやく安倍首相もこの重要性に気づいて交渉を進めています。自らの実績にもなりますし、ぜひ実現して欲しいところです。
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※この記事は11月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、日ロ関係の話題を中心にお届けいたしました。
安倍首相とロシアのプーチン大統領が、
日ロ平和条約交渉を加速させることで合意しました。
この話題に対して大前は、
ロシアと日本との関係性を改善していくことを考えれば、
北方4島の返還よりも、象徴的な問題として
平和条約を締結することのほうが重要だと
大前は記事中で言及しています。
交渉は双方の問題解決を目指した対話であり、
双方の満足度を高めるような生産的な交渉を
目指すことが大切となってきます。
交渉の過程では何かしらの歩み寄りが必要となり、
相手にも同等の譲歩を求めながら、
ゆっくりと譲歩するのがよい交渉です。
互いの利害が尊重され、やり方がフェアで、
合意事項を守ると互いに信じられる交渉こそが、
双方に納得感をもたらすことができます。
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