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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON230 China-Free(チャイナ・フリー)現象を加速させる、中国のIT情報開示制度~大前研一ニュースの視点~

2008年10月3日

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中国・IT情報開示制度 日米欧の経済界共同で懸念表明へ
ソフト設計情報 知的財産権の保護対象
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●中国は、知的財産の基本すら分かっていない


 IT(情報技術)製品のソフトの設計情報開示を求める新制度を、
 中国が2009年から導入する計画を進めています。これを受け、
 日米欧の経済界が共同で懸念を表明する検討に入りました。


 ソフトの設計情報は、通常、知的財産権の保護対象となる
 機密情報であるほか、外国企業にとって貿易の障壁に
 なりかねないと再考を促すとのことです。


 この制度は過去に聞いたことがないほど身勝手な
 法律ではないかと思います。


 「ITセキュリティー製品の強制認証」という名目のもとで、
 中国政府主導で外国企業に対しIT製品を制御する
 ソフトウェアの設計図の開示を要求するというものです。


 対象となっているソフトウェアの範囲は「基本ソフト(OS)
 一体型の製品」「ネットワーク監視システム」など13分野に
 及ぶとのことです。


 パソコンはもちろんのこと、デジタルテレビ、携帯電話
 といったかなりの広範囲の家電製品がその影響を受ける
 ことになると思います。


 外国企業が中国政府に対して情報を開示しない場合には、
 中国国内での販売を禁止するというのですから驚きです。


 建前上は「中国政府に対して」開示するといっても、
 例えばIC技術などの専門的な設計図を政府の役人が見ても
 理解できるわけはありません。


 必然的に中国のメーカーに持ち込まれ、外国企業が持つ
 技術情報が中国企業に渡るということになるのは
 目に見えています。


 中国政府は「ITセキュリティー製品の強制認証」のためなどと
 言っていますが、私に言わせれば、
 中国側が「IP(Intellectual Property)=知的財産」というものを
 基本的に理解していない、ということに過ぎません。


●いかに巨大な中国市場とはいえ、このままでは世界から無視される


 同じようなケースとして、米マイクロソフトが反トラスト法
 違反について欧州委員会と争っていたことを思い出される人も
 いるかも知れません。


 2004年に独占禁止法違反の判決を受けたマイクロソフトは、
 2007年欧州委員会の是正指示に従うことに合意しました。


 そして、「オープンソース・ソフトウェア開発者に互換性情報を
 提供し、その利用を許可する」、「技術情報の提供料を、
 1万ユーロに引き下げ、支払いを1回限りとする」といった
 是正措置が実施されることになりました。


 しかし、今回のケースでは対象となっている企業の状況も
 マイクロソフトが置かれていたものとはかなり違いますし、
 何より中国政府と欧州委員会では真の目的が
 全く違うところにあると思います。


 中国政府が提言している法律は、欧州委員会の是正措置とは
 比べるべくもない「暴挙」と言っても過言ではない代物です。


 中国がこのような態度に出るのは、自国のマーケットに
 それだけの「自信」があるからだと思います。


 業界団体の試算によると、日本企業の対象製品は現在の
 中国国内での売上高で1兆円規模に上る可能性がある
 とのことですが、欧州や米国にしても中国は無視できない
 大きな市場になっていることは確かです。


 しかし、例え中国といえども、自国マーケットへの自惚れが
 過ぎると「致命的」な結果をもたらすことになってしまうと
 私は思います。


 例えば、中国産の食品や玩具製品などに対する不信感への
 対処として、米国では中国製品の使用を止める「China-Free
 (チャイナ・フリー)」という現象が起こりました。


 中国がこのような身勝手な法律を押し通そうとするなら、
 あらゆる業界で「China-Free(チャイナ・フリー)」現象が
 発生するかも知れません。


 さらには、中国市場での売上を失っても構わないから
 中国への輸出も取りやめるという国も出てくるでしょう。


 そのような事態は中国にとっても致命的です。


 今年8月、中国が独占禁止法を施行したときにも、
 中国政府に対する不信感が強まりました。


 しかし、今回はそれ以上です。


 世界の中でも無視できないほどに大きく成長した中国市場
 だからこそ、中国は本当の意味での競争原理とは何か、
 そして規制とは何かということをしっかりと考えてもらいたい
 と思います。


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