- 本文の内容
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- 自動運転規制 自動運転事故は車の所有者に賠償責任
- 米テスラ 「モデルS」のリコール開始
- ライドシェア 大手米ウーバーのアジア事業を買収
- ドイツ自動車大手 移動サービス事業を統合
ライドシェアの未来像と日本メーカーにとっての危機とは?
東南アジア配車サービス最大手のグラブは先月26日、米最大手ウーバーテクノロジーズの東南アジア事業を買収すると発表しました。ライバルを買収し、東南アジア市場で圧倒的なシェアを確保する考えですが、これについてフィリピン競争委員会は競争法に関する審査を終えるまでフィリピン国内の事業統合を延期するよう命令を出したとのことです。
グラブは非常に大きな会社へと成長しつつあります。実はこの買収の背景にはソフトバンクの差し金もあったのでは?と言われています。ソフトバンクは、グラブにもウーバーにも投資をしています。ウーバーは、中国市場を滴滴出行に売却する形で撤退しましたが、フィリピンでも同じような形をとるつもりなのでしょう。
結果として、東南アジアはグラブ1社、中国は滴滴出行1社が独占する形になります。フィリピンでは選択肢が少なくなるということで、今回の件がいわゆる独禁法に抵触するのではないかと指摘を受けています。
ライドシェアの会社は、今後車が自動運転になることでさらに重要度が増していくと思います。自動車メーカーは直接顧客とつながっていませんが、ライドシェアの会社は顧客と直接つながります。その点で、自動車メーカーよりも強さを発揮してくる可能性が高いでしょう。
独ダイムラーと独BMWは先月28日、ライドシェアなどの移動サービス事業を統合すると発表しました。ダイムラー子会社のカー2ゴーとBMW傘下のドライブナウを軸に幅広いサービスで統合するもので、BMWのハラルト・クリューガー社長は「統合は新しい競合への強いメッセージだ」と語りました。
バンクーバーなどで私が見かけた光景から言えば、カー2ゴーの影響は相当大きいと感じます。約3000台のメルセデスがばらまかれていて、消費者はスマホで予約して好きなときに乗ることができ、自分で車を所有する必要はありません。それでも都合がつかない場合には、ウーバーを利用すれば事足りてしまいます。
ダイムラーとBMWが競合するのではなく、統合するという選択肢をとったのは、日本の自動車メーカーにとっては大きな脅威だと思います。こうした移動サービスがさらに普及すると、あえてトヨタや日産の車を選ぶ人は少なくなる可能性が高いからです。
ちょっとした距離を乗るだけであっても、もし選べるのであれば、「ベンツSクラス」に乗りたいという人は多いでしょう。逆に、安さを追求するのであれば、小さい車を選択すればいいだけです。日本車は、高すぎず安すぎず、という中間層に位置しているので、選ばれなくなる可能性が懸念されます。日本のメーカーはこの脅威を感じて、準備をしておくべきだと思います。
外国勢に目を向けると、ディーゼルの燃費不正問題で大炎上したフォルクスワーゲンが、生き残るのではないかと、ビジネスウィーク誌で特集されていました。一時期は倒産するかもしれないと言われていましたが、一気にEVへ舵を切って将来像を示した戦略が功を奏した形です。
また、不正問題発覚で株価は下落しましたが、中国市場で販売が好調だったおかげで世界的に見ると売上はそれほど減少しませんでした。中国では良くも悪くも、この程度の不正は大きく問題視されなかったということでしょう。逆に米国では不正について大騒ぎになりましたが、もともと販売が不調だったので売上に対する影響は少なかったという何とも皮肉な結果になりました。
自動運転の賠償責任は、将来的に車種の売れ行きを大きく左右する
政府は先月30日、自動運転中の車の事故について、原則として車の所有者に賠償責任を負わせる方針を決めました。これは運転手が乗った状態で限られた条件で運転を自動化する「レベル3」までが主な対象で、メーカーの責任は車のシステムに明確な欠陥がある場合のみとする方針です。
これは、もしかしたら大変な事態を招いてしまうかも知れません。この場合、もし自動運転が可能な車種について事故率のデータやレポートが発表されたら、特定の車種に注文が殺到する可能性があります。
車の所有者として賠償責任を負わされるとしたら、事故が少ない車種を購入したいと思うのは自然な流れでしょう。もしそうなれば、統計的なデータや消費者レポートのようなものが車のシェアに多大な影響を及ぼすことになるでしょう。
私としてはレベル3の自動運転くらいまでは、このような規制については発表せず、もう少し見守る姿勢を取った方が良かったのではないかと思っています。
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米電気自動車(EV)専業のテスラは先月29日、主力車種「モデルS」のリコール(回収・無償修理)を始めたと明らかにしました。寒冷地で使われる路面凍結防止剤の影響でパワーステアリングのモーターを固定しているボルトが腐食する恐れが判明したということで、2016年4月以前に製造した12万3000台が対象となるとのこと。ブランドイメージのさらなる毀損につながる可能性があります。
苦戦続きだった「モデルS」について、ようやく量産のメドがついてきた矢先に、このリコール問題が発覚しました。米国の自動車メーカーの業績と時価総額を見ると、テスラは売上高ではフォードやGMの10分の1にすぎないのに、時価総額では両社に匹敵するほど評価されています。一時期に比べると時価総額はやや下がりましたが、それでも市場の期待は非常に大きいことが伺えます。
エイプリルフールの日に、イーロン・マスクCEOは「イースターエッグを土壇場で大量販売するなど資金調達に奮闘したにもかかわらず、残念ながらテスラは完全に経営破綻してしまった」と冗談ツイートをしていましたが、テスラの置かれている状況を考えると、こんな冗談はやめてほしいところです。疑う余地がないほどIQが高いイーロン・マスク氏ですが、EQはそれほど高くないのかもしれません。
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※この記事は4月8日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、自動車業界の話題を中心にお届けいたしました。
ライドシェアなどの移動サービス事業を統合する
と発表した独ダイムラーと独BMW。
これに対して大前は、ダイムラーとBMWが
競合するのではなく、統合するという選択肢をとったのは、
日本の自動車メーカーにとっては大きな脅威だと指摘しています。
今回のダイムラーとBMWの例のように、
グローバル化、競争激化、技術革新のスピードが上がり、
企業が自社の経営資源のみで成長を目指すことが
難しくなっていることから、戦略的提携が加速しています。
連携や提携で補完的な機能分担や価値提供を行うことで、
高い競争力を獲得し、競合に対する持続的な優位を
確保することができます。
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