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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON227 信用に値しない「日本国の貸借対照表」「総合経済政策」の欠陥を暴け~大前研一ニュースの視点~

2008年9月12日

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債務超過 国の債務超過277兆円 06年度貸借対照表
総合経済対策 事業規模11兆7000億円
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●問題は、貸借対照表の評価そのものが信用に値しないこと


 8月22日、財務省は2006年度の国の資産と負債の状況を示した
 貸借対照表を発表しました。


 一般会計と特別会計を合わせて計算した場合、負債が資産を
 277兆円上回る「債務超過」であることが判明。国債発行残高の
 増加などで資産と負債の差額は2005年度と比べ約3兆円悪化した
 とのことです。


 政府は財政の健全性を示す指標であるプライマリーバランスの
 均衡に向けて着実に進歩していると言っていますが、実際に
 今回発表された日本国の貸借対照表を見ると、よくもそんな
 発表ができるものだと私は感じてしまいます。


 「負債が資産を277兆円上回る債務超過状態で、バランスシート
 上の欠陥がある」という状況以前の問題として、今回発表された
 貸借対照表そのものが信用に値しないと思っています。


 なぜなら、資産と負債の評価額が必ずしも適正なものとは
 言えない可能性があるからです。


※「国の貸借対照表」チャートを見る
→ 


 まず負債について見ると、負債として計上されていない
 「隠れ負債」が存在しているというのが最も大きな問題です。


 計上はされていないものの、国が「将来」支払わなければ
 ならない負債です。「隠れ負債」の代表例が年金です。
 年金は今すぐに支払う必要はありませんが、将来的に支払いが
 発生することは間違いありません。


 日本の場合、年金を含む「隠れ負債」は約800兆円になると
 予想されています。今回発表された負債総額は約980兆円。
 まさに負債が倍増するほどインパクトを与える約800兆円という
 金額を無視するのでは、とても適正な評価だとは言えないでしょう。


 また資産については、そもそも全ての評価を一方的に政府が
 発表しているだけであり、その資産価値が適正なものかどうか、
 何ら根拠がありません。


 例えば、政府が東京大学などの国立大学をいくらで査定して
 いるか分かりませんが、その査定が第三者機関の評価に見合う
 ものかどうか、あるいは、実際に売却するとなったら本当に
 その査定額で売却できるのかどうか、全く分からないのです。


 逆に、国が保有している特許の中に思わぬ資産価値を持つ
 ものが隠れているという可能性もあるかも知れません。
 いずれにせよ、日本政府の独断による評価だけでは、
 資産の評価額が適正だとは言えないのは確実でしょう。


●政府・財務省は、
      真剣に経済対策を実施する気があるとは思えない


 結局、評価額が適正ではない「貸借対照表」を開示し、
 債務超過が277兆円もあると発表した政府や財務省は
 何をしたかったのでしょうか?


 私には、どうも政府や財務省が真剣にこれらの問題を解決すべく、
 取り組んでいるとは思えません。


 先ほど指摘した「隠れ負債」の代表格である年金問題。
 企業に対して財務省は、将来支払う必要がある年金を「負債」
 として計上することを義務付けています。


 しかし企業会計では負債計上を求めている一方で、
 国の貸借対照表には計上することを強いていない。


 これが財務省のやり方だということです。


 このような政府や財務省の姿勢を見ていると、今回277兆円の
 債務超過を発表したのは、国の債務超過解消のためには1500兆円
 の個人金融資産を利用するのも致し方ないと国民に納得させる
 ための布石ではないかと疑いたくなります。


 また、債務超過という現実を受けとめた上で、今後の経済政策
 をみてみると、8月29日に発表された「総合経済政策」
 なるものは大変お粗末な代物だったと言わざるを得ないでしょう。


 『政府は物価高や原油高への対応を柱とした総合経済対策を決定。
  融資枠の拡大など財政支出を伴わない対策を含めた事業規模は
  11兆7000億円。財政支出は2兆円で、その内1兆8000億円を
  今年度補正予算で賄う計画。
  また、赤字国債は発行しない方針である。』


 これだけを聞くと、事業規模11兆円もの景気対策を実施する
 とはすごいものだと一瞬期待したのですが、私は中身を見て
 ガックリきてしまいました。


 例えば、「生活者の不安を解消するため」の実施項目の1つは、
 輸入麦の政府売り渡し価格の上げ幅圧縮です。これが普通の
 国民にとってどれだけ有難いというのでしょうか?
 私には全く理解できません。


 また、「持続可能社会への変革加速」のために挙げられている
 太陽光発電設備の導入支援。これが「総合」経済対策として
 掲げるべきことでしょうか?


 さらには、1万棟の公立学校施設の耐震化というすでに
 公約として発表しているものを、新しい経済対策の中に含めて
 発表している始末です。


 11兆円の景気対策と言っても、国が捻出するのは2兆円です。
 11兆円はあくまで事業費ということです。


 しかもその事業費の大半を占める9億円弱は、「原材料高に
 対応した中小企業向け保証制度(中小企業金融公庫の信用
 保証制度拡充)」に割り当てられています。


※「総合経済対策の概要」チャートを見る
→ 


 大げさに「総合経済政策」などと発表していますが、要するに
 「中小企業への貸付の枠を少し拡大しましょう」という、
 たったそれだけのことに過ぎないのです。


 一体どのあたりが「総合的な」経済対策になっているのか、
 全く理解に苦しみます。


 今回の総合経済対策は赤字国債を発行する必要はありません、
 などと言っていますが、当たり前です。また、この程度の
 内容では、経済対策とは呼ぶに値しません。


 また、この「総合経済政策」が発表されたときに、民主党などは、
 政府は選挙対策のためだけに発表したと批判していましたが、
 私に言わせれば、選挙対策としても通用しないほど低レベル
 であると思います。


 日本国政府には、まずは経済政策に取り組む姿勢から
 見直してもらう必要があると思います。


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