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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON225 透明性が課題の中国流「独禁法」:中国国有企業・日本企業への影響は!?~大前研一ニュースの視点~

2008年8月29日

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中国商法改革 中国政府 独占禁止法を施行
英空港会社 英競争政策委員会 英BAAに3空港の売却を要請
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●中国・独占禁止法の真の狙いとは?


 8月1日、中国政府は独占禁止法を施行しました。カルテルや
 市場シェアが高い企業の「支配的地位」の乱用を禁止し、
 海外企業を含めた企業の合併・買収を規制するとのことです。


 細則などが未定のままで、今後、当局が個別の事例で示す
 判断にどれだけ透明性があるかが焦点となりそうです。


 中国で独禁法が施行されると聞いた私の率直な感想は、
 「怖いことになった」というのが正直なところです。


 というのは、中国で独禁法が適用されることにより、
 日本企業が大きなダメージを受ける可能性が高いのではないか
 という懸念を拭えないからです。


 そもそも中国では、国策として国有企業による独占を許可して
 きたという歴史的な背景があります。


 例えば、ルーターはファーウェイ・テクノロジーズ、
 移動通信はチャイナ・モバイル、そして自動車なら第一汽車、
 上海汽車、東風汽車といった企業が国策を背景に圧倒的な
 シェアを獲得しています。


 こうした歴史的背景に鑑みると、果たして本当に中国が独禁法
 を適用する気持ちがあるのか、私は疑問を感じてしまうのです。


 今回の独禁法の適用対象は「1社で50%、2社で66%、
 3社で75%以上の市場シェア占める企業」となっており、
 国有企業も含めて対象とすると発表しています。


 しかし実際のところ、このままの条件では電話会社などは、
 即刻独禁法に抵触してしまいます。それでも厳格に適用する
 のかどうか、非常に気になります。


 「先進国並みの経済法を整えるため」に今回の独禁法の適用に
 踏み切ったと中国は発表していますが、その目的は大きく2つ
 あると思います。


 1つは、WTOにアンチダンピングの手続きで不利に扱われる
 非市場経済国の撤廃を承認してもらうことです。ここ数年来、
 中国が要求していることです。


 そして、もう1つが外資企業による買収・シェア獲得の防止です。
 私は、ここに中国の真意があると思います。独禁法の場合、
 市場をどこで区切るかによって、いわゆる「独占」であるか
 どうかを判断する基準も変わります。


 例えば、電子部品という比較的大きな市場でシェアをみると
 問題がないかも知れませんが、日本企業が世界的に大きな
 シェアを獲得している「シリコンウエハ」をひとつの市場と
 みなしてしまうような動きがあると、おそらく多くの日本企業が
 独禁法に抵触するという事態になってしまうでしょう。


 高度な技術力が求められる精密部品などで、日本企業だけが
 開発・製造している、という事例も数多く存在しているためです。
 そうなってしまうと、お手上げ状態です。


 今回の独禁法の執行体制として「細則は未定、個別に判断」と
 なっている点なども、非常に怪しいと感じてしまいます。
 中国による外資バッシングを助長することになるのではないか
 と危惧しています。


 外資の企業に対して独禁法を盾に中国が恣意的な行動に出る
 可能性は、私は高いと見ています。


 日本企業としては、準備を怠らないことです。常に中国政府の
 動向に注視し、万一の時には、中国企業の独占市場の事例を
 提示し、すぐに応戦できるような準備を整えておくべきだ
 と思います。


●日本・中国が見習うべき、英国の一流の規制緩和


 中国の例とは逆に、これぞ「一流の規制緩和」と賞賛したい
 のが英国の次のような事例です。


 8月20日、英国で市場独占問題を担当する競争政策委員会は
 ロンドン・ヒースロー空港など主要7空港を保有・運営する
 空港管理会社BAAに対し、3空港を外部に売却するよう要請する
 中間報告書をまとめました。


 空港運営が独占状態にあるため、十分な競争が働かず、利用客
 や航空会社の利便性が損なわれていると判断したものです。


 これは、ガトウィック空港とヒースロー空港は競い合いなさい、
 シティ空港とヒースロー空港は競い合いなさい、という強烈
 かつ具体的なメッセージです。


 何とも素晴らしいやり方だと、拍手を送りたくなります。


 中国にしてもこのようなやり方を見習ってもらいたいものです
 が、この点については日本にも同じような指摘ができると
 私は思います。


 いまだに国土交通省は、羽田空港のターミナルビル管理会社に
 外国資本が入ることを嫌っている傾向があるからです。


 英国のような真の規制緩和が実現し競争原理が働くと、今後、
 着陸料金もますます低価格になっていくことが可能だと思います。


 例えば、アイルランドのライアンエアーという航空会社は
 着陸料金が安い空港だけを選んで経路を設定することで、
 ロンドン・パリ間の航空運賃を約5000円程度で提供することに
 成功していますが、このような事例が増えてくる可能性は高い
 と思います。


 1985年に設立されたヨーロッパ最大の格安航空会社で、
 日本でも人気があるライアンエアーなども、このような動向を
 追い風にさらに安価なサービスを考え出してくるのではないか
 と思います。


 このような事例がサッチャー流のいわゆる「一流の規制緩和」
 の結果だと思います。


 中国にしても日本にしても、学ぶべき点は数多くあります。
 本当の意味での規制緩和、競争原理とは何か?ということを
 改めて問い直す必要があると思います。


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