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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON212 Jパワー問題 ~ 日本の国際感覚欠如が第2の鎖国時代を生む~大前研一ニュースの視点~

2008年5月23日

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Jパワー問題 日本政府はTCIに株買い増し中止命令
TCIがJパワー取締役に賠償請求
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●TCIの戦略変更は、なかなか見事な一手だ


5月13日、Jパワー電源開発は同社の筆頭株主である
英投資ファンドのザ・チルドレンズ・
インベストメント・ファンド(TCI)が、


Jパワー監査役会に対し、Jパワー取締役13人全員に
総額60億円の賠償を求める訴訟を検討するよう
求めてきたと発表しました。


去年9月に実施した料金引き下げにより、営業利益を
およそ60億円減少させたことによる賠償金の請求とのことです。


今回のザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド
による対応は、非常に面白く、日本政府に対しても
有効な一手だと私は感じました。


これまでの経緯を整理すると、
持ち株比率を現在の9.9%から20%に引き上げを狙う
ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドによる
Jパワー株の買い増しに対して、
財務省と経産省が中止勧告を行っていました。


しかし、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドは、
4月25日、両省に対して勧告を拒否することを正式に通知。


これを受けた財務省と経産省は、
「中止勧告」から「中止命令」に切り替えました。
これは外為法による初の中止命令でした。


「命令」に反してJパワーの株を買い増しした場合、
刑事罰の対象になります。逮捕された後、
裁判にて決着をつけるということになるのです。


ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドとしても、
さすがに逮捕者を出してまで争うのは得策ではない
と考えたのでしょう。


そこで方針展開を図ったのが、今回の対応でしょう。


つまり、逮捕されてしまうリスクがある買い増しなどは止めて、
逆に取締役の経営に瑕疵があったと指摘し、
怠慢経営を弾劾するという反撃に出たということです。


本質的には、この指摘は株主として当然の主張です。


60億円の損失を計上したというのであれば、
忠実義務違反として訴えることは可能だと思います。


株主への賠償を求めて争うことも可能ですし、
役員の退任要求を求めることもできるでしょう。


財務省と経産省が「中止命令」という強硬手段に訴えたのに
対して、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドは、
戦略を変更することで見事にそれを交わしたという
状況になったと私は見ています。



●日本は世界から孤立しつつある
           という状況を真摯に受け止めるべき


ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドから
このような反撃を受けて困っているのは、
Jパワーの役員の人たちでしょう。


これまでは、相手が逮捕されるかどうかを見ているだけで
良かったのが、一転して、自分たちが損害賠償の対象になる
可能性が出てきたのです。


彼らにとっては、事態は辛い方向へと
転換したのではないでしょうか。


また、財務省・経産省としても、こうなってしまうと
非常に手が出しづらい状況になったと思います。


これまで両省が主張してきたのは、ザ・チルドレンズ・
インベストメント・ファンドによる要求が、Jパワーの経営に
影響を与えることで、電力の安定供給が妨げられる恐れが
あるというものでした。


この主張そのものの是非はともかくとして、
Jパワーの経営への影響を主張している以上、


過去において60億円の損失を計上したという経営に対する
責任を追求されると、財務省・経産省
としても、軽くあしらうことはできないでしょう。


私としては、非常に「いい線」を狙ってきた戦略だと思います。


昨年8月、米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・
ジャパンによるブルドッグソースの買収に対し、最高裁は
ブルドックソースによる買収防衛策の発動を認めました。


この事件以降、ことあるごとに私は主張していますが、
外資の買収に対して、「国」としてそれを守るという姿勢は
大きな間違いです。


経営者がどこの国籍の人であろうと、
資本がどの国の資本であろうと、
最も立派に経営できる人に委ねるべきです。


もちろん、国益や国民生活の観点から外資に対して
一定の規制を設けて保護する必要がある企業もあるでしょう。


しかし、公平性を考慮せず、一方的に「国が守るべき」
という姿勢は、外国人投資家に時代錯誤と見なされ、
世界の常識から外れていると解釈される恐れがあります。


こうした日本の海外からの投資に対する態度が
世界に知れ渡ってしまうと、世界の投資家から日本は
見放されてしまう危険性があると私は危惧してきました。


そして、ついにその兆候を感じられるような記事が
NewsWeek誌に掲載されていました。


それは、「This Nation Is an Island」というタイトルの
記事です。日本という国は、地理的な意味だけでなく、
国際経済の意味においても、「島国」として孤立している
ということを示唆しています。


今、サブプライム問題など大きな経済問題の影響も手伝って、
世界中のお金はかなり激しく動き、経済は過熱しています。


そのような状況の中、日本は取り残されてしまい、
静まり返っているようです。


まるで第2の鎖国時代に突入したようだとの指摘もあります。
全くその通りだと私は思います。


私はボーダレス経済を提唱して久しいですが、
今の日本の状況はそれには程遠く、最低限の国際感覚さえ
欠如していると言わざるを得ません。


財務省、経産省の人たちはこのNewsWeek誌の記事を
読んでいるでしょうか。世界が日本をどのように評価して
いるのか真摯に受け止めて、
その硬直した考え方をぜひ改めてもらいたいと思っています。


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