大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON209 冷静さを取り戻せ!食糧不足は錯覚に過ぎない~大前研一ニュースの視点~

2008年4月25日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
食料高騰
ハイチの首相解任 食料急騰で暴動1週間
コメ国際価格が急上昇
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●食料高騰からパニックに陥っているアジア


 カリブ海の島国ハイチ共和国の首都ポルトープランスで、
 食糧価格の急騰が引き金で商店略奪などの騒ぎが
 1週間以上続き、国会は12日、事態を収拾できなかった
 としてジャック=エドゥアール・アレクシ首相を解任しました。


小麦やコメの国際価格の上昇が、南北アメリカの最貧国
 と言われる同国を直撃した形になりました。


 ハイチという国は、元来、世界で最も貧しい国の1つです。
 最近は、米国への亡命者が母国へ戻り、経済も上昇へと
 向かってきたと思っていましたが、
 どうやら状況はそれほど良くないようです。


 今回、私が気にしているのは、ハイチにおける食料高騰への
 暴動だけでなく、この2~3週間のうちに、ハイチ以外の
 世界の国々でも、似たような騒ぎが発生していることです。


 具体的には、特にアジアの国に集中しています。
 例えば、タイ、ベトナム、インド、フィリピン、パキスタン、
 中国といった国です。


 タイではコメの価格が50%近く上昇し、輸出を制限する
 可能性を示唆しています。ベトナム、インドなどでも
 同様の動きが見られ、


 中国に至っては、香港経由での食料の密輸を防ぐため、
 香港への中継ぎ輸出の禁止を発表しています。


 また、タイでは一部農村においてコメ泥棒が発生し、
 フィリピンではコメの輸送車が襲われるという事件も
 発生しています。


※「食料価格高騰による各国の混乱状況」チャートを見る
→ 


 こういった事態の原因の一つに、原油高が挙げられます。
 原油価格高騰が石油からバイオエタノールへという発想を促し、
 食料としての農作物の供給が減るという連想が生まれます。


 結果として、農作物の価格も勝手に高騰していくという図式です。


 ただ、冷静に判断すれば、食料の価格が上がるからといって、
 食料の供給が不足するということには直接的にはつながりません。


 それなのに、アジア各地ではパニック状態に陥ってしまい、
 コメ泥棒、コメ騒動が発生しているというのは、
 恐ろしい事態だと思います。


●価格高騰から食糧不足へと連想するのは、錯覚に過ぎない


 コメ以外の食料品の価格も高騰しています。
 日本でも10%~20%程度の値上げが予想されている卵は、
 アメリカでは24%の高騰率になっています。


 その他の食品を見てみると、ひき肉8%(チリ)、
 コメ40%(シエラレオネ共和国)、パスタ14%(イタリア)、
 乳製品12%(フィリピン)、パン10%(オーストラリア)など、
 世界的に食料品価格の高騰は顕著です。


 こうしてみると、他の食料品に比べて、コメの高騰率が高い
 のがわかります。しかし、ここで見逃してはならないのは、
 実際のコメの不足量と価格上昇の釣り合いが取れていない
 ということです。


 現在、コメは全世界で約4億トン収穫されています。
 そのうち、91%がアジアでの収穫になっています。


 現在のところ、取り立てて今年の作柄が悪いわけでもなく、
 世界のコメの貿易量は恐らく4%程度の減少と予想されています。


 それに対して、例えば中級程度のタイ米の価格は今年の初めに
 1トンあたり400USドルだった数値が、795 USドルまで上昇して
 きています。


 つまり、4%の不足分に対して、価格は約90%程度
 跳ね上がっているわけです。


 この事態を引き起こしているのは、食料が不足するのでは
 ないかという「心理的な不安」です。原油価格が上昇し、
 食物がバイオエタノールとして利用され、食糧が不足すると
 連想され、食物価格が上昇しています。


 しかし、先ほども述べたように、値段が上がる
 からといって直接的にすぐに「不足する」と考えるのは
 錯覚です。


 このような錯覚が生まれてしまうと、心理的な不安が
 強まっているパニック状態ですから、非常に危険だと
 私は思います。


 コメの買占めなどにより誰かがトリガーをひくと、
 いつどこでコメ騒動が起こってもおかしくないという状況が、
 アジアの各地で起こっています。


 実際、香港のスーパーマーケットでは、食料品の棚からコメが
 なくなっているそうです。コメの価格上昇を受けて、これから
 コメを入手できなくなるのではないかという不安から、
 備蓄のためにコメを買い占める人が出てきているというのです。


 ハイチのような貧しい国の場合には、コメの値段が上がれば、
 コメを買うことができなくなり、暴動に発展するというのは
 理解できます。


 しかし、多少コメの値段が上がっても何とか切り盛りできる人
 たちまで、不安心理に煽られて、コメの買占めを始めてしまう
 というのは、私には理解できません。


 盲目的に不安感情に任せて判断すると、このような事態を
 招いてしまいます。マスコミから流れてくる情報や他人が
 言うことを鵜飲みにせず、


 事実を自分自身でしっかりと見極めて判断するということが
 できるようになってもらいたいと強く感じます。


 同時に、パニック状態に陥っているアジアの各国で、
 おかしな暴動などが起こらないように、一刻も早く冷静さを
 取り戻してもらいたいと願っています。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点