大前研一「ニュースの視点」Blog

KON599「法人減税・2015年度補正予算案・国内経済~企業の競争力と法人税率は無関係」

2015年12月11日 2015年度補正予算案 国内経済 法人税率

本文の内容
  • 法人減税 2016年度に29.97%へ引き下げ
  • 2015年度補正予算案 総額3兆3000億円で最終調整
  • 国内経済 7-9月期GDP成長率上方修正の可能性

企業の競争力と法人税率は無関係


自民、公明両党は企業の利益にかかる法人実効税率について、現在の32.11%から2016年度に29.97%に引き下げる方針を固めました。

私は何度となく「企業の競争力と法人税率は無関係だ」と述べてきましたが、安倍首相は、誰かから間違った情報として「法人税率が30%を下回ったら企業の競争力が高まる」と吹きこまれて信じてしまったのでしょう。

安倍首相は事あるごとに「法人税率を下げるから、設備投資をしてくれ、賃上げをしてくれ」と経済界に働きかけています。しかし、設備投資も従業員給与も法人税率ではなく、需要が見込まれているかどうかがポイントです。

かつて法人税率が40%を超えている時代でも、需要があれば企業は設備投資をしていました。逆に、アイルランドは法人税率が12.5%と非常に低い水準ですが、設備投資が積極的に行われているわけではありません。

日本の法人税率が30%を下回ったからと言って、世界中から企業が集まってくることもありません。

全く現実味のない議論が展開されていて、こんな人たちが日本の国政を牛耳っていて大丈夫なのだろうか?と本気で心配になります。


1円でも国債返済に充てなければ、という危機感を持て


政府は4日、2015年度補正予算案を、総額3.3兆~3.4兆円とする方向で最終調整に入りました。「一億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策に1兆円余りを盛り込む一方、国債の発行額を当初の予定から4500億円程度減らす方針です。

このニュースも新聞で報道するにはみっともないレベルのものです。今よりも税収が増えたならば、それは「全て国債返済」に充てるべきです。

「一部は返済で、残りは」などと、呑気なことを言っている場合ではなく、今は1円でも多く国債返済を進めなければ、日本経済は危険な状態なのです。

一般会計税収の推移は確かに増加傾向にありますが、これは消費税が5%から8%に上がった分であり、所得税や法人税が増えたわけではありません。

「今回の増加分を社会保障費にあてる」などと発表していますが、日本という国家がどれほど危険な水準になってきているかを全く理解していないのでしょう。

約4000億円の削減と言っても、未だに新規国債発行額は30兆円以上になっており、当初の目標である「赤字国債ゼロ」には程遠い状態です。2020年までに新規国債発行をゼロにするという話は、どこにいってしまったのでしょうか。


安倍首相と黒田日銀総裁の間にできた溝


内閣府が8日に発表する7~9月期の国内総生産(GDP)改定値で成長率が上方修正される可能性が出てきました。民間調査機関10社の予測平均では実質GDPは前期比年率0.01%減と横ばいになるそうですが、私に言わせれば「まともに計算」していれば、おそらくマイナスだと思います。

役人が一生懸命GDPを計算する根拠を洗い出し、再計算を繰り返していますが、小賢しい作業に過ぎません。計算方法をいじるだけで、いつの間にか「GDP600兆円」も達成できた、という夢でも見ているのでしょうか。

安倍首相は、2年半前に「2年後にGDP2%成長」という目標を掲げ、黒田日銀総裁と一緒になってあらゆる手段を講じていくと発表していましたが、全く目標達成できる気配すら感じません。

最近の黒田日銀総裁の「静かさ」を見ていると、このまま安倍首相の言うとおりにやっていたら、いつか自分が日本国債暴落など取り返しの付かない事態の「トリガー」を引くことになる、と気付いたのでしょう。

安倍首相が声高に経済界に発破をかけている一方で、黒田日銀総裁は沈黙を保ち続けています。黒田日銀総裁は、自分が「最後のトリガー」を引く立場にあると気づき、おそれているのでしょうが、安倍首相と黒田日銀総裁は一心同体で取り組んでくれなければ、それもまた問題だと私は思います。

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※この記事は12月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は法人減税に関する話題をお届けしました。

法人税率を2016年度に引き下げる方針を固めた安倍首相。これに対し大前は、企業の競争力と法人税率は無関係であると指摘しています。

問題解決においては、目的達成に向けたキードライバーを把握しておくことが重要です。この認識を間違えているままでは、いくら打ち手を講じても大きな成果を出すことはできません。問題の構造や仕組みを正しく理解することが求められます。

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