大前研一「ニュースの視点」Blog

KON591「新3本の矢の評価・設備投資~新3本の矢はどこかで見た"夢物語"」

2015年10月23日 新3本の矢 設備投資

本文の内容
  • 新3本の矢の評価~日経新聞
  • 設備投資 企業に積極投資を促す官民対話の初会合

新3本の矢は、どこかで見た夢物語


日経新聞は、15日「新3本の矢の評価」と題する記事を掲載しました。新しい3本の矢にはかなり疑問点が多いとし、GDP600兆円などの目標達成は困難なのにもかかわらず実現のための手段が明示されていないと指摘。

これまでの3本の矢は、経済の沈滞ムードを払拭するのに一定の役割を果たしたものの、新3本の矢は政策的裏付けのない望ましいゴールを示しただけという評価になるとしています。

私に言わせれば、望ましいゴールですらなく、これはもはや「どこかで見た夢」の話です。戦略を考える際には、ある程度その達成手段に目処をつけなくてはいけませんが、何一つそれが見えてきません。

これまでの安倍内閣の経済政策は必ずしもうまく機能していません。それなのに、いきなり600兆円です。500兆円のGDPを600兆円にするためには、20%も伸びなくてはいけません。

出生率1.8%実現というのも、非現実的です。もはや結婚したい人が全員結婚して、その上全員が子供を生むレベルです。この政策を実現するためには、移民を増やす、戸籍を廃止するということも必要になってくるはずですが、理解しているのでしょうか。

また、こうした政策の先駆的存在であるフランスやスウェーデンは、GDPの3.2%~3.75%を家族関係社会支出としています。日本はGDP1%程度の自衛隊の安全保障費で大騒ぎしているレベルです。

介護離職者をゼロにするというのは、さらに実現するのが難しいでしょう。非常勤を含めた介護職員数が130万人。年間の介護離職者が約10万人。この10万人を誰がどうやって代替すればいいのでしょうか?あまりにも唐突過ぎて、言葉になりません。

新3本の矢を提唱する前に、安倍首相としては前回の3本の矢について反省をするべきです。

もっと怖いのは、マスコミが批判も何もしない点です。これだけおかしな話を連発しているのに、それをそのまま伝えてしまうマスコミにも、大いに問題があると思います。


生産性を上げる=人が余剰になる


政府は16日、企業に積極的な投資を促すための官民対話の初会合を開きました。設備投資の拡大を求める政府に対し、経済界は法人実効税率の引き下げや労働規制など岩盤改革が先決だと主張。

新興国減速などで企業の収益環境は険しさを増しており、民間の経営判断に再び「介入」の動きを強めようとする政府の動きには経済界で反発もひろがっているとのことですが、私が首相なら「投資しろ」ではなく、「なぜ投資しないのか?」と聞くでしょう。

つまり、財界の人に次のように投げかけます。

「皆さんの企業の手元流動性は高まっているはず。政府としてもお金は供給している。これが吸収されない理由は何か?なぜ、投資しないのか?有効に使われないのか?」その理由を教えてほしい、と。そして、その理由が政府にあるのなら、規制緩和を含めて対応します。

経営者も単に反発しているわけではありません。お金の使い途がないのです。使い途があるとすれば国外でしょうが、国内にはニーズがないのが現状です。ここを理解せず、とにかく「投資しろ」では話が通じるわけがありません。

さらに、「投資して生産性を上げろ」というのは全く経済を理解していない人間の発言です。生産性を上げれば、必ず人は余剰になります。企業側からすれば、「じゃあ、クビにしても問題がない法律を作ってくれ」と言いたいでしょう。

ドイツなどでは、「生産性を上げる」ことの意味を理解していますから、この言葉は禁句になっています。もし議論になれば、組合が猛反発してきます。もちろん需要が拡大しているなら、生産性を上げつつ雇用も確保することができるでしょうが、今の日本はそうではありません。

財界の人たちも安倍首相の発表を聞いていて、何一つ指摘しないのは、情けない限りです。そんな財界のレベルも低いと言わざるを得ないですが、安倍首相のレベルの低さは次元が違います。

もう少し経済のことについて、勉強して頂きたいと強く思います。

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※この記事は10月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今回は新3本の矢について解説をお届けしました。

GDP600兆円の達成など新しい目標を掲げた安倍首相。これに対して、大前は政策的裏づけのない「夢物語」であると指摘しています。

この目標に、果たしてリアリティはあるのでしょうか?明確な達成手段のない戦略は、企画倒れになってしまいます。

どのようにしたら実現できるのか、プロセスを一つずつ描くことで初めて周囲の理解を得られます。解決策の実行においては、その道筋の描き全体像を示すことが重要です。

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