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- 国内株式市場 日経平均が前日比1343円高
- 国内経済 4-6月期GDP 前期比年率1.2%減
- 日本郵政 郵政3社の上場を承認
日本の景気は上向いていない。株価上昇は、ショートカバーの結果に過ぎない
9日の東京株式市場で日経平均株価は急反発し、前日比1343円高の1 万8770円で終了しました。上げ幅は1994年1月以来、約21年7カ月ぶりの大きさです。短期マネーの買い戻しに、海外勢の高速・高頻度取引が重なったことが要因と見られています。
21年ぶりの株価上昇に興奮している人が大勢いますが、全体的な値動きを見ると株価が2万円を超えた後、緩やかな下げ基調になっています。
その中で空売りを仕掛けている投資家が約40%いて、彼らがリスクを回避するために買い戻したために、一時的に株価が上がりました。
いわゆる「ショートカバー」です。ゆえに、これは「技術的な」ことであり、日本の景気、ファンダメンタルなどは全く関係がありません。その証拠に、翌日には約400円一気に株価は下落しています。
一部のマスコミが経済トレンドのように解説していますが、全く的を射ていません。恐怖におののいたトレーダー心理を理解していないのでしょう。
問題は揮発性の高い状態が続いていて、外国人の売り買いが全体の7割を占めることだと私は感じています。彼らはプログラム売買をしつつ、巨額の資金を動かします。完全に素人が手を出せる状況ではなくなっています。
そのような中、内閣府が8日4~6月期の国内総生産(GDP)改定値を発表しました。物価変動の影響を除く実質で前期比年率1.2%減と、速報値の1.6%減から上方修正された形です。設備投資は下方修正されましたが、消費や輸出の停滞で製造業の抱える在庫が積み上がり、結果としてGDPの上方修正につながったとのことです。
私に言わせれば、上方修正等と言ってもGDPがマイナス成長であることに変わりはなく、そもそもアベノミクスでは、今ごろ2%成長を達成しているはずでした。実質GDP成長率の推移を見ても、今後も上昇していく気配は感じません。
また、部門別に見ても好材料が見当たりません。例えば、住宅投資で消費者の支出が伸びているとか、輸出・設備投資が伸びているとか、そういう材料がありません。
この状況を見ると、アベノミクスは何に効果があったのか?と疑問に感じます。結局、何にも効果を発揮していないという状況だとわかるだけです。
この状況に対して日銀の黒田総裁も頭を悩ませていることと思います。打開するために、黒田バズーカ第3弾を出すのかどうか。しかし、財政状況の悪化リスクを高める可能性も高いですし、場合によっては国債暴落のトリガーを引きかねません。
私は何度も繰り返し話をしていますが、日本社会は「低欲望社会」です。1700兆円の個人金融資産、340兆円の企業プール資金は、いずれも表に出てこないまま眠っています。
いくら日銀や政府が息巻いても意味はなく、「低欲望社会」の本質を理解した手を打たなければいけません。古い20世紀型の経済論は通じないのです。
その意味で言えば、未だに「インフレターゲット」を提唱する人がいて、私は驚いてしまいます。先日のBusinessweek誌には、「インフレターゲットを目指しても、誰も当たっていない」という記事が掲載されていましたが、まさにその通りです。
私はインフレターゲットには大きな2つの問題があると思っています。1つは、インフレターゲットという施策は、20世紀型の古い経済論なのでもはや効果がないということ。
そして、もう1つには万一、本当にインフレになったらそのままハイパーインフレになる可能性があることです。インフレターゲットと言いつつアベノミクスを提唱する人は、私に言わせれば無責任極まりない人だと思います。
小泉改革の成れの果て。郵政3社のゆがんだ上場
日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の東証一部への株式上場が10日、承認されました。株式時価総額は3社あわせて13兆円を超え、1987年2月に上場したNTT(約25兆円)に次ぐ規模になります。現在株式は政府が保有していて、最終的に3割は持ち続けるとのことです。
ホールディングカンパニーの下、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命という3本柱の事業を展開しています。ゆうちょ銀行とかんぽ生命は利益を出していますが、郵便事業は103億円の営業赤字を計上しています。
今回の上場は、先行きの暗い郵便事業を外出しにして、取り敢えず日本郵政として上場して資金を調達するという形です。
そもそも小泉元首相の郵便改革のときには、上場した資金を利用して日本の借金返済という話でしたが、今回は市場から約1兆3000億円の資金調達し、これを震災復興に充てるということです。
日本郵便という赤字事業を隠しておいて、残りの2つの事業だけを表に出して上場するわけですが、全体で見ても先行きは明るくありません。現状で言えば、日本郵政グループ全体で利益は出していますが、経常利益は逓減しています。
そして、ゆうちょ銀行で資金は持っていても、それを運用できないという問題があります。かんぽ生命についても同様です。上場したのは良いですが、ここから先13兆円の時価総額を維持できるのか?と考えると、問題は山積しています。
通常、今の日本郵政のような経常利益の推移で上場することはできません。過去に上場したNTT、JR東日本、JTとは違う「ゆがんだ上場」だと私は見ています。
1兆3000億円もの資金を市場から調達することで、市場をもゆがめます。様々な問題がありますが、小泉改革の重要な結末として、この事実を受け止めるしかありません。
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※この記事は9月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は国内経済の話題をお届けしました。
20世紀の経済論で考えているアベノミクス。大前は、低欲望社会の性質を理解する必要があると指摘しました。
打ち手を実施する際、現状の本質を把握していない限り成果の創出は難しくなってしまいます。
変化の激しい時代。過去の考えや成功法に頼っていては問題解決はできません。今起こっていることに目を向け、それに相応しい打ち手を検討することが重要です。
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