大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON173 ≪Death Bond≫サブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅ローン)問題の本質と今後

2007年8月3日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
 世界同時株安
 サブプライムを引き金に世界同時株安
 サブプライム関連投融資 邦銀の残高1兆円
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●世界同時株安を引き起こした
          サブプライムローンの猶予は、2-3ヶ月。


26日、ニューヨークの株式市場が大幅に下落しました。


サブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅ローン)
問題で株式市場から投資資金が引き上げられるとの懸念が
高まったことが背景にありますが、


これを受けた27日の東京株式市場は、日経平均株価が、
前日の終値に比べ418円安で今年4番目の下げ幅となりました。


株安は欧州やアジアの市場にも波及し、2月末の中国・上海発、
3月の米国発に続く、世界同時株安となりました。


私は、常に史上最高値には注意が必要だと思っています。


過剰流動性で高値がつくだけであって、何か理由があれば
必ず落ちてくるからです。


今回の場合には、先日のバーナンキFRB議長の演説も
影響していると思いますが、何よりサブプライムローン問題が
引き金になっています。


これは90年代初めのS&L問題と基本的には同じ構造です。


日本では邦銀のサブプライム関連投融資の残高が
1兆円(米UBS証券推計)だと騒がれていますが、


サブプライムローン全体では、約170兆円(米・ベアスターンズ
推計:1兆4500億ドル)にのぼることを考えると、
日本の傷など大したことはないと感じます。


欧州、米国の金融機関が受けるダメージは比較にならないでしょう。


しかも、今後はさらに厳しい状況が待ち構えていると
私は見ています。米抵当銀行協会(Mortgage Bankers
Association)の発表によれば2007年1-3月期の米サブプライム
ローンの延滞率が13.77%と2005年以降上昇傾向です。


さらに米国の場合、90日以上滞納すると債務不履行と見なし、
住宅を取り上げて競売にかけます。


競売で投売りされる住宅が増加すれば住宅価格が下落し、
担保価値も目減りします。


また、2004年以降に実行されたサブプライムローンでは、
当初の返済軽減期間が終了し負担急増に直面するものが、
なお相当に残っていると見られるため、今後さらに延滞や
債務不履行が増加することになると思います。


このような状況で、バーナンキFRB議長は
「シリアスだけど克服できない問題ではない」と
言っていますが、私には理解できません。
 
 
 
●サブプライムローンが引き起こした
              構造的な問題はどこにあるのか?


このような状況になるとファンドが集める予定の資金が
集まらないという事態になっていきます。


そのような状況で、市場から引き上げた莫大な資金は、
どこに流れていくのか? という点が非常に重要だと
私は見ています。


その資金の流れを考える際に押さえおくべきポイントは、
「人はパニックになったときには論理的な行動を取らない」
ということです。


ロシア危機でLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)が
破綻したとき、論理的に判断するなら、まずREITなどの
住宅関連へ流れ、それでもいよいよダメだとなって
初めて米国債へと向かうべきでした。


しかし、実際には、いきなり米国債へと資金が流れたのです。


論理的な判断と行動を取るのではなく、誰かが叫んだ声を
信じて、そこへ流れていくというわけです。


今回のサブプライム問題を懸念して引き上げられた資金に
対して、この「叫び声」をあげたのは、ウォールストリートの
人たちです。


ちょうど、今週(2007年7月30日号)のBusinessWeekに、
「Death Bond(死亡債/生命保険債)」というタイトルの記事が
掲載されましたが、この仕組みは、まさに今回のように
行き場を失った資金を流していくための叫び声となるものだと
私は思います。


これは、自分の生命保険を買い取ってもらえるサービスです。


例えば、1億円の生命保険に入っている人がいたとして、
70歳なら2割、75歳なら4割でその生命保険を買い取るという
サービスです。


この仕組みで数千人~数万人規模で集めて、
さらにABS(Asset Backed Securities:資産担保証券)にします。


それがファンドに組み込まれるという形になっていく
という構造です。


特徴的なことは、生命保険という商品を扱っているため、
根本的に株やコモディティの波長と異なるという点です。


つまり、世界同時株安で株やコモディティが全面的に
下落しても、被保険者が死亡するわけではないので、
この商品はほとんど影響がないと思います。


この点において、ファンドからのニーズが高くなって
いるのでしょう。


ただ、私はこの手法は非常に危険だと感じています。


まさに今問題になっているサブプライムローン問題も
全く同じ構造を持っています。


個人の人たちが借りているうちは、リスクも明確で安全で
あったものを、それらをまとめてABS化し、ファンドに
組み込んだことで、最終的におかしな事態を招いたのだと
私は思います。


今後、米国はサブプライムローン問題を切っ掛けに
金利を上げるにも上げられず、金利を下げようにも、
ユーロへの資金移動のために下げられないといった事態になり、
パニックに陥ってしまうのではないかと私は危惧しています。


                          以上


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点