大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#109 ばく大な調達資金をもとに動き出す「ケータイ新規参入組」

2006年4月14日

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 ばく大な調達資金をもとに動き出す「ケータイ新規参入組」


 イー・アクセスは5日、携帯電話事業子会社イー・モバイルの
 事業資金調達を完了したと発表した。調達資金は株式発行と
 銀行借り入れで計3500億円となる。


 一方ソフトバンク・グループによるボーダフォン日本法人買収
 に向けた資金調達の全容も4日、明らかになった。
 ボーダフォンの資産や収入を担保とする
 LBO(レバレッジド・バイアウト)による借り入れで、
 国内外の7金融機関から計1兆2800億円を調達する。
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●ドコモ、auと肩を並べるために設備投資を急ぐイー・アクセス


携帯電話事業で新しく認可された会社は三つあったのですが、
結果的にはイー・アクセスだけが自分でゼロからスタートする
ことになりました。


今回イー・アクセスが携帯電話事業のために調達した資金は
計3500億円で、事業開始前の企業に対する増融資額としては
過去最大ということですから、その投資規模の大きさが
うかがえます。


そして、イー・アクセスはこの調達した資金でこれから
設備投資をしていくことになります。


この11月から始まるナンバー・ポータビリティ、すなわち同じ
番号のままで携帯電話会社を変更できるようになったときに、
顧客を失う恐れのある側に立つのはNTTドコモだと思います。


今のままですと、顧客はドコモからauに流れることが予想
されます。それをauではなくてイー・モバイルやボーダフォン
に流していくようにするためには、イー・アクセス、
ボーダフォンを買収したソフトバンクの新規参入組は
事業の立ち上げを急がなければなりません。


例えばイー・モバイルが3年後に立ち上がってきたとしたら、
他社はそのサービス、そのメニューと同じものをぶつけて、
穴をふさぐようにつぶしにかかるでしょう。


これをプラグ戦略と言い、例えば新しい航空会社ができると、
その新会社が持つ路線の価格をJALやANAが下げるのと同じこと
です。ですから立ち上がりは他の会社と同じ規模で同時に立ち
上がっていないと非常に苦しくなってくるわけです。


ソフトバンクの孫社長がボーダフォンくらいの規模が必要だと
判断した理由は、やはりプラグをさせないため、そして逆に
自分がプラグ戦略を仕掛ける攻撃側に回れるようにということ
でしょう。


ですからイー・アクセスは調達した資金を早急な事業立ち上げ
のために使うことが大事だと思います。



●ソフトバンク巨額LBOの抵当はボーダフォンだけか?


一方ソフトバンクはボーダフォン買収のための資金をLBOで
調達するとのことですが、LBOという言葉はここ半年くらいの間
に日本でも耳にするようになりました。


ライブドアがフジテレビの買収を仕掛けたとき、堀江前社長は
アメリカと香港に飛んでLBO資金を集めてきました。LBOを実施
するのは世界的にもまだ数が少ないので関心を引き、
あっという間に資金が集まったのです。


フジテレビはそれを聞いて白旗を揚げ、結局440億円を
ライブドアに支払うことで落着し、LBOには至りませんでした。
ですからこういった大きな規模でLBOという手法が使われる
のは、日本では実質的には初めてのことなのです。


通常ですと、LBOというのは買収した会社自身が抵当になって
いるので、孫社長は自分の個人資産もソフトバンクも抵当に
入れてないはずです。


今回ボーダフォンを抵当にして借りたということであれば、
もし事業がうまく行かなかった場合、ボーダフォンを
差しだしてしまえばそれで終わりになります。


返済につきましては、買った会社が持っているキャッシュ
フローや会社の資産そのものを抵当にして、5年から8年掛けて
返していくことになります。


しかし、今回のような1兆円以上の借り入れですと、
そのくらいの期間で返済を完了するのは難しいのではない
でしょうか。


またソフトバンクのほうではボーダフォンのサービスを
Yahoo!BBや日本テレコムなどと複雑に組み合わせて、
オールインワンで月々6000円というようなことをやると
思われます。


ですから、ボーダフォンだけを銀行が取り返してほかに
売りつけようとしても難しいでしょう。そうなると、
もしかしたら孫社長は今回のLBOでソフトバンクやYahoo!BB、
日本テレコムなどを抵当に入れているのかもしれません。


そうであれば携帯電話事業がうまく行かなかった場合、
それらの会社も全部持っていかれてしまうことになります。
どこまでを抵当に入れたかというのは今のところクリアでは
ありませんが、これは今後明らかにしないと、今年の
ソフトバンクの株主総会では問題になるでしょう。


携帯電話はナンバーポータビリティ導入に加え、第4世代や
ワンセグ放送、またドコモが進めるクレジットカード機能
など、さまざまなサービスが新しく投入され、競争はますます
激化しています。


イー・アクセス、ソフトバンクの新規参入組が、調達した
ばく大な資金をもとに今後どのようなサービスを展開し、
ドコモ、auの牙城に切り込んでいくか、大いに注目したいと
思います。



                       -以上-


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