大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON493「カンボジア・ミャンマー・バングラデシュ~情報収集の流れを理解して考える」

2013年11月22日


 カンボジア情勢 「工場不毛」返上

 ミャンマー経済 2012年度成長率6.5%

 バングラデシュ産業 バングラ資本のメーカー快調


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 ▼ タイの賃金上昇が、周辺諸国へ影響を与えている

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 日経新聞は5日、

 『カンボジア「工場不毛」返上、「タイ+1」候補に急浮上』

 と題する記事を掲載しました。


 モノづくり不毛の地とされたカンボジアに製造業が相次ぎ進出しており、

 ミネベアが小型モーターの大規模組み立て工場を立ち上げたのを機に

 住友電装や矢崎総業などが工場を稼働。


 人件費の安さに加え、タイやベトナムなど周辺国との連携の

 しやすさが魅力、と紹介しています。


 総じて言えば、カンボジアもバーツ経済圏の1つということです。


 アジア主要都市の製造業ワーカーの平均賃金で比べてみると、

 上海、広州、バンコクの約3分の1ですから、魅力があるのはわかります。


 日本でこの種のことにアンテナを張っている代表格は矢崎総業です。


 ただし、カンボジアの都市は非常に人口が少ないですから、

 一気にいろいろな企業が押し寄せても、受け入れられないと思います。


 今回のニュースの背景にあるのは、

 タイの人件費が上がり始めてきたことです。


 今現在、タイの大きな流れとしては、賃金の安い違法移民を受け入れる、

 あるいは賃金の安い周辺国に自分たちが出ていく、

 という2つの選択肢になっています。


 私に言わせれば、インドシナ半島全体をバーツ経済圏と考えて、

 縦横無尽に好きなところへ行けば良いと思います。


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 ▼ 数値だけを見てミャンマーを信用するのは、大きなリスク

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 世界銀行は6日、2012年度のミャンマーの

 実質国内総生産(GDP)成長率が6.5%になったと発表しました。


 前年度に比べ0.6ポイント上昇で、外国からの投資増や

 好調な天然ガス生産がけん引したということです。


 一方、日経新聞は13日、「国境超える物流網・アジアの生産基地に」

 と題する記事を掲載。


 タイと国境に近いミャンマー南部ダウェーで1兆円規模の壮大な

 工業団地建設事業が始まると紹介。


 港湾や鉄道などのインフラ整備が進み、物流が通じることから

 今後ミャンマーは中国、インド、ASEANの生産基地になる

 可能性があると分析しています。


 確かに数値を見ると、ミャンマーの成長は堅調です。


 直接投資も増えていますし、GDPも成長しています。

 輸出入も増加しています。


 そして、地理的にもインド12億市場と中国13億市場の間にあり、

 その仲介ができる場を抑えています。


 天然ガスという資源にも恵まれています。


 外から見ると、ミャンマーには素晴らしい事業機会が

 あるように見えます。


 しかし、私はそこに警鐘を鳴らしたいと思います。


 というのは、ミャンマーという国は、かつてのベトナムと同様、

 途上国にありがちな贈収賄が横行する腐敗にまみれた国だからです。


 私の周りで、実際にミャンマーで事業を展開している人で、

 ミャンマーを良く言う人を聞いたことがありません。


 アウンサンスーチー女史にしても、最近は影が薄いですし、

 そもそも彼女はビジネスのことはよく知りません。


 確かにミャンマーの人件費が安いのは魅力的でしょうが、

 企業はよほど注意したほうが良いと思います。


 結局、ミャンマーという国はようやく鎖国から開放された

 という状況で、まだまだ経済的な経験値が浅い国なのです。


 例えば、タイが日本企業と一緒に数十年にわたって、TQC活動に

 取り組んできた経済的な経験を持っていることを考えると、

 両者の間には雲泥の差があります。


 この点を忘れてはいけないと私は思います。


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 ▼ バングラデシュは、繊維産業の避けられない宿命をたどっている

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 朝日新聞は5日、

 「バングラ資本の二輪・家電メーカー快調 衣料品頼み脱却図る」

 との記事を掲載。


 世界有数の衣料品輸出国のバングラデシュで、地元資本で初めての

 二輪車・家電メーカーが成長を続けていると紹介しています。


 またバングラデシュで11日、衣料産業の最低賃金引き上げを求める

 労働者のデモに対し警察が放水やゴム弾を使用し鎮圧を図ったとのこと。


 デモの激化で100以上の縫製工場が一時閉鎖に追い込まれています。


 バングラデシュという国も、今まさに過渡期にある国です。


 輸出の圧倒的な大部分が労働集約型の衣料品に占められていて、

 安い賃金ゆえにデモ・ストライキが絶えない、という状況でしょう。


 実はこうしたことは、歴史的に見ると、世界中のあらゆるところで

 発生しています。


 日本でも、戦後、近江絹糸紡績(現:オーミケンシ)において

 100日間を超える大規模な労働争議がありました。


 繊維産業というのは、どの国でも搾取される対象であり、

 常にデモやストライキと背中合わせです。


 英国の産業革命の頃から、繊維産業はずっと地球上で一番安い労賃を

 求めて世界を回ってきました。


 ニューイングランド、アパラチア、そして、日本、韓国、台湾を経由して、

 インドネシア、中国。


 20年前の中国から引き継いで、今はバングラデシュなのです。


 バングラデシュは人口も多いですし、しばらくはこの状況が

 続くでしょうが、これは発展途上の宿命です。


 その中で光明なのは、地元資本で初めての二輪車・家電メーカーが

 成長を続けているということでしょう。


 かつての日本で言えば、松下電器や本田技研のような存在です。


 かつて日本には約260のバイク屋がありましたが、最終的には

 4社だけが生き残り、世界に羽ばたきました。


 バングラデシュの二輪車・家電メーカーにも、同じような成長を

 期待したいところです。

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