大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#137 対ソフトバンク戦略!私がNTTドコモの社長だったら

2006年11月3日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
ソフトバンクモバイル
加入者同士なら、通話・メールが無料
28日、予想外の申込みでシステム停止
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●ソフトバンク価格戦略そのものに、
              「予想外の焦り」を感じる


23日、ソフトバンクはソフトバンクモバイルの
加入者間の通話やショートメールの料金を無料にする、
新しい定額料金制度の導入を発表しました。


この大幅値下げの価格戦略で、
ブローバンド市場におけるYahoo!BBのときと同様、
携帯電話市場のサービス価格を下げる効果があるのは
間違いないでしょう。


マスコミ各社も、その期待感から好意的に受け止めている
報道が目立ちます。


しかし、私は、今回のソフトバンクの価格戦略は
手放しで賞賛できるものではないと見ています。


ソフトバンクは英ボーダフォンの
日本法人(現ソフトバンクモバイル)の買収にあたり、
約1.2兆円を基本的にLBOによって資金調達しました。


この買収資金は、短期の繋ぎ資金だったため、この度、
携帯電話事業の証券化により1.45兆円の資金調達を行う
予定です。


この証券化による資金調達では、
携帯電話事業のキャッシュフローが抵当にはいることと
なっています。


ですから、そもそも今回の場合には
Yahoo!BBのときのような大胆な値下げ戦略は難しい
というのが前提でした。


だからこそ、はじめは孫社長も「大人の戦い」と称して
無理なプライシングはしないと言っていたのでは
ないでしょうか。


今回のキャンペーン価格の設定にあたって、
ソフトバンクが証券化により資金を調達する銀行からは
反対を受けただろうと思います。


しかし、そういう背景があってもなお、
 銀行を説得して、このタイミングで強引な手を打たなければ
 ならない点に、今回の価格戦略の"焦り"のようなものを
 感じざるを得ません。


おそらく、番号ポータビリティによる流出ユーザー数が
予想以上に多かったため、急遽対策を講じたという
ところではないかと思います。



●対ソフトバンク。NTTドコモは、どう対処するか?


このソフトバンクの価格戦略に対して、
NTTドコモ・auはどのように対応してくるでしょうか?


もし私がNTTドコモの社長なら、どうするか?
私がドコモの社長なら、
当面は知らん顔を決め込むことにします。


9月時点のユーザー数は、NTTドコモ:5,200万人、
KDDI(au+ツーカー):2,600万人、
ソフトバンク:1,500万人という状況ですが、
仮にソフトバンクが2,500万人くらいまでユーザー数を
伸ばしてきても、焦ることなく放っておきます。


※「携帯通話・PHS各社の取り組み」チャート
「携帯通話・PHS各社の取り組み」チャート


2,500万人まで達成しても、
今回提示したサービス(来年の1月15日までに加入の場合:
月額2,880円で使いたい放題)では、ソフトバンクには
それほどの利益はでないでしょう。


むしろ、資金繰りは悪化していくのではないかと
私は見ています。


それでもソフトバンクは
どんどんユーザー獲得のための施策を打ってくるはずです。
それでも待ち続けます。


そして、いよいよ、
 ソフトバンクがユーザー獲得のあらゆるカードを
 出し尽くし、十分なユーザーを獲得したので、
そろそろ獲得したユーザーから利益を回収する
 新しいサービスなどを考え始めるようなタイミングに
 なったときに、初めてこちらから仕掛けます。


このタイミングで、ドコモが価格を一気に値下げするのです。


つまり、ソフトバンクのカードを全て出させておいて、
そこから純粋な体力勝負となる価格勝負に持ち込むわけです。


この場合、どちらが水面下で長く息を止めていられるかという
資金面の体力だけがモノを言います。


こうなれば、もちろん、ドコモが勝つでしょう。
ドコモにはこれまでの利益の留保分が十分にありますし、
一時的に赤字になっても問題ありません。


しかし、銀行から多額の資金を調達しているソフトバンクは
 そういうわけには行きません。


おそらく、ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)の
1.45兆円のファイナンスであれば、3年くらいしか体力は
続かないだろうと思います。


どうせ、価格勝負になるなら、こういう戦い方をするでしょう。
この段階では、番号ポータビリティで、客を取り戻そうという
欲はだしません。


徹底的に相手(ソフトバンクモバイル)をつぶすことだけに
専念します。なぜなら、相手をつぶした後に、
またそこからゆっくりと価格を上げていけばよいだけです。


戦略勝負とはこういう戦い方をすることを意味します。


そういう意味では、
今回の件はマスコミが騒ぐほどの効果も ないだろうし、
全く面白くないと私は思ってしまうのです。


孫社長には、がんばってもらって、ぜひ携帯電話の市場にも、
ブロードバンドのときと同じようなインパクトを与えて
欲しいと思っています。


しかし、残念ながら、今回発表しているような
価格戦略に持ち込んでも、最終的に勝つのは難しいだろうと
思います。


孫社長には、また別の手を使って、ぜひ携帯電話業界を
活性化させてくれることを期待したいと思います。


         以上


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点