税・社会保障改革
民主と与謝野氏
「年金改革の考え共有」
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▼ 税制を考える際の3つの対立軸
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枝野官房長官は17日、民主党が公約した消費税を財源とする
「最低保障年金」の創設に与謝野経済財政担当相が否定的な見解を
示したことについて「哲学論争にさえしなければ、調整は充分に
可能だ」との見解を示しました。
一方、与謝野経済財政担当相は21日、公的年金の支給開始年齢に
ついて「『人生90年』を前提に定年延長を考えねばならない。
それにより年金支給開始年齢の引き上げも考えられる」と
指摘しました。
「人生90年を前提に」とは、与謝野経済財政担当相もよくぞ言った
ものだと思います。「自民党」「たちあがれ日本」そして「民主党」へ
と次々と籍を移しているのも、「そういう考え方に基づいて、楽しく
人生を謳歌しているのですね」と皮肉の1つでも言いたくなります。
マスコミでも盛んに取り上げられている税と社会保障の一体改革ですが、
私が見聞きしている限りでは、どの議論も箸にも棒にもかからないもの
ばかりです。
とりわけ消費税について議論されていることが多いようですが、この
議論を進めるならば、もっと根本的な部分から着手しなくてはいけない
と私は思っています。
「そもそも税とは何か?」という点に立ち返るべきで、具体的には
次の「3つの対立軸」について、それぞれゼロベースで議論を進めて
いくべきでしょう。
1.社会負担方式 VS 税方式
国民負担率を考えた時、現在の日本の租税負担率は25%程度です。
加えて、医療・失業保険・年金などが社会負担方式として徴収されて
います。
全部を合わせてみると約42%で、多くの欧州諸国(約50%超が多い)
よりやや低い数値になります。失業保険、健康保険なども結局は税金
と同じだと思えば、日本も税方式のみで運用することは可能かも知れ
ません。
ただし、日本人は世界でも類を見ないほど「増税」を嫌う国民である
ことを留意するべきでしょう。消費税の導入時、消費税率の3%から
5%への引き上げ時のいずれも首相が、不祥事などの影響もあったで
しょうが、導入、税率引き上げ後しばらくして退任に追い込まれて
います。
おそらく、現行の5%から10%へ消費税率を引き上げることがあると
したら、その際にも同じことが起きると思います。
2.フロー VS ストック
フロー課税というのは「収入(フロー)」に対して課税するもので、
法人税・所得税などが代表です。
一方のストック課税は「資産(ストック)」に対して課税するものです。
不動産税などが分かりやすい例ですが、銀行に預けられている多額の
預金も「資産」として課税対象とすることができます。
日本のように経済的な成長が鈍化している国は、フロー課税のままでは
税率を上げる以外に税収を伸ばす方法がありませんが、ストックは
積み上がってきているので、ストック課税方式を採用する道も考えて
おくべきです。
3.直接 VS 間接
「所得税」のような直接税方式、あるいは「消費税」のような間接税
方式のどちらを用いるのかも議論するべき事項です。例えばストック
課税の場合で言えば、日本にある約1500兆円の個人金融資産に対して
課税するのが直接税方式です。この場合、資産に対し1%課税する
だけで15兆円もの税収が入ります。
一方、所得や資産の額によって課税額が増減・免除されるのではなく、
課税対象を広げようとする考え方が間接税方式です。
この3つの対立軸について議論をしながら、最終的には社会負担方式
と税方式のいずれを採用していくのかを考えなくてはいけません。
今の民主党の議論を見ていると、「フロー課税による税方式を前提に
して」つじつまを合わせようとしているので、年金の原資が足りない
などと嘆く結果になるのです。抜本的な議論に立ち戻らなければ、
全てが小細工に終わってしまうと私は思います。
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▼ 今の日本の税制を抜本的に見直すと?
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では具体的に3つの対立軸を意識しながら、現在の日本の税制に
ついて議論を進めてみます。
例えば、年金保険料の税方式と社会保険方式の特徴について見てみると、
社会保険方式では個人が拠出した額に応じて支給されますが、税方式
では個人での拠出が不要です。
また財源の負担者は、社会保険方式の場合には現役世代のみですが、
税方式の場合には年金受給対象の高齢世代も消費税などの間接税の
形で負担することが可能になります。
※「年金保険料の税方式と社会保険方式の特徴」
→
また年金財源にもフローとストックの2つの考え方があります。現在、
日本では今年の保険料はその年の保険料で賄っている状態です。
一方、ストック課税の方法をとると積立方式になり、事前に
積み立てた保険料と運用収入で年金給付を行います。
401kなどが典型的な例です。
※「年金財源のフローとストックのイメージ」
→
最後に直接税・間接税について言うと、直接税は多くの人が負担できる
メリットがある反面、累進性になりやすい特徴があります。実際、日本
の税制は世界で最も累進性が高くなっています。一方、間接税は酒税・
たばこ税・消費税のように受益者負担のため、資産の額に関わらず
消費が同じなら等しい課税額になります。
※「直接税・間接税の仕組み」
→
菅首相のような「社会福祉型」を志向する人は、間接税には「逆進性」
があるとして所得の低い人には不利だという側面を強調する傾向が
ありますが、この点だけの「損得」で考えても意味はないと私は
思っています。
場合によっては欧州の国のように、部分的にある特定の食品には税金
をかけないという調整をしても良いでしょう。
こうした税制度全体についての理解をした上で議論をせず、いきなり
全てを消費税にシワ寄せしても無駄な議論に終わるだけです。これら
を考慮した上での私の結論から言えば、もう20年前から変わりません。
拙著「新 大前研一レポート」で1993年から提唱しているように
「資産課税にシフトする」ことです。ぜひ、このような視点を議論の
一角に加えてもらいたいと強く思っています。