大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#133 経営の基本は、AND経営ではなく、OR経営 ~後編~

2006年10月6日

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  経営の基本は、AND経営ではなく、OR経営 ~後編~


 事業成功の鍵を見極めて、選択と集中をすべし
 松下電器にしても、1つのことに集中した経営だった


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●松下電器も、実はたった1つのことに集中した
経営手法だった


新幹線に乗ったときにパッと目に入ってきた広告に、
「YAZAKI」の広告がありました。私はその広告を見て、
「大切なことがわかっていないな」と感じました。


その広告では、
このような主旨のコピーが使われていたからです。
「YAZAKI、何をやっている会社か?
一言で説明できないのが惜しい!」


ヤザキは、ワイヤーハーネスで世界一の会社です。
説明しづらいことなんて、何もないはずだと私は思います。


これは、先週も指摘した、
まさに「AND経営」の影響ではないかと私は見ています。
つまり、「ウチはAもBもCもやっています。」という
経営発想がそのまま、広告表現にも適用されてしまって
いるのです。


「AもBもCもやっています」というような
AND経営で成功できるのは、
GEくらいだと先週説明しましたが、
このようなご意見をいただきました。


「AND経営」の成功事例として、
日本の松下電器は当てはまらないのか?
松下は、あらゆる商品を取り扱える多角化した
企業ではないのか?


たしかに、松下電器は
白モノ家電からAV機器、自転車、電池に至るまで、
非常にバラエティにとんだ商品を取り扱っています。
そして、経営の神様・松下幸之助は、
一種の天才経営者であったと私も思っています。


しかし、松下電器の経営手法は、
「AND経営」ではなく、基本に忠実な「OR経営」でした。
松下電器の場合には、家電販売網というチャネルを
整備することが最重要テーマであり、逆にそれだけを
追求していたと言ってよいでしょう。


そして、その販売チャネルに乗せられる商品であれば、
何でもOKだったということなのです。
だから、ジューサーからテレビから何でも
取り扱うことができたわけです。


ところが、米国では日本と事情が違い
白モノと茶色モノ(AV機器)は別々の販売チャネル
であったため、松下は茶色モノの展開には成功しましたが、
白モノの展開は上手くいきませんでした。


この例からもわかるように、


やはり松下の事業展開上、成功の鍵は、
販売チャネルを確保することだったのだと思います。


逆に、販売チャネルさえ確保してしまえば、
そこに流し込む商品は多ければ多いほど良いという
状態になっていたのです。


だから、松下電器の経営は、
取り扱っている商品は多岐に渡っているけれども、
販売チャネルの構築に集中した
「OR経営」であって、決して「AND経営」ではないと
私は思っています。



●成功の鍵を見極めることが、選択と集中の大前提


「OR経営」を行う上で、
いかに選択と集中が大切だといっても、
無計画に選択と集中をしても上手くいくはずは
ありません。


ポイントは、成功の鍵を握っている要素を見極めて、
集中するということでしょう。


松下の例で言えば、
販売チャネルの構築こそが成功の扉を開く鍵だった
わけです。


一方、USENや楽天などを見ていると、
事業ごとに成功の扉を開く鍵が全く別物で、
それぞれの事業がつながっていないように思います。


それなのに、無理に別々の事業をまとめようと
「AND経営」をするから、経営が全体として
迷走し始めてしまうのだと思います。


ここで、こんな疑問を持つ人がいるかも知れません。
もし、すでにその市場に将来性がなかった場合には、
どうすればいいのか?
そういう場合には、やはり多角化という
「AND経営」になってしまうのではないか?


この場合にも、
「OR経営」の考え方で全く問題ないでしょう。


例えば、紳士服業界などを考えてみると
わかりやすいと思います。
紳士服業界はこれ以上の市場の拡大は望めない
可能性が高いと思います。


そういう状況ならば、
例えば、アオキのとるべき戦略の1つとして、
全店舗をスウェーデンのヘネス&モーリッツに
売却することを考慮してもいいでしょう。


これは、今あるお金を使って、
婦人モノや他のアパレルへシフトしていく
という方向転換になります。


これは、
「AもBも」というAND経営による判断ではありません。
「AかBか」という選択をしているわけですから、
「OR経営」としての経営判断なのです。


USEN、楽天を始めとして、日本の成長企業の中に
「AND経営」に陥ってしまって迷走している企業が
見受けられます。


先週も述べたように、
事実上、「AND経営」を成功させているのは、
世界を見渡してもGE1社のみだと思います。


無理に「AND経営」に乗り出す必要はないですし、
安易に「AND経営」を選択するべきではないと思います。


1つの事業でエクセレントな結果を出し続けて、
世界化していける企業になることが先なのです。
ぜひ、経営者の方には肝に銘じてもらいたいところです。


逆に、株主という立場で企業へ出資できる
私たちとしては、1つの事業に対する想いと
気骨がある経営者かどうかを見極めることも
大切になってくるのではないかと思っています。


                       ―以上―


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