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米景気対策
オバマ次期米大統領・景気対策の骨格発表
効果の程は未知数
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●オバマ次期米大統領の景気対策案に不安
10日、オバマ次期米大統領はラジオ演説で、政権の最優先課題
に掲げる景気対策の骨格を発表しました。
2年間で300万から最大で400万人の雇用創出を目指す景気テコ
入れ策と、金融規制見直しや住宅差し押さえ防止など金融改
革を一体で進める方針を表明。また、米国の成長力と競争力の
強化に向け、環境・エネルギーや教育、医療分野などに重点投
資する考えも示しました。
私はこの演説を聴いていて、オバマ次期米大統領で米国の金融
危機を乗り切ることができるのかどうか少々不安を感じました。
オバマ次期米大統領が検討中の景気対策概要※を見ると、景気
対策の規模は2年間で8000億ドル程度(3000億ドルは減税含
む)とし、その目標は「2年間で最大400万人の雇用創出」と
「GDPの3.7%押し上げ」というものです。
※「オバマ氏が検討中の景気対策概要」チャートをみる
→
目標としては立派ですが、これを実現するためのそれぞれの施
策については具体性・実現性が乏しいと指摘せざるを得ません。
特に住宅・金融対策として挙げられている「2ヶ月以内に差し
押さえ対策の改革案」「4月までに規制強化等の素案を策定」と
いう目標設定では、具体的な施策内容は全く見えてきません。
また「夫婦に所得減税1000ドル」という施策も効果は期待で
きないでしょう。それは、ブッシュ大統領が昨年実施した「1
人当たり戻し減税600ドル」の効果を見ても明らかです。
結局、「最大で400万人の雇用創出」をどのように実現するの
か見えてきませんし、過去に誰も成し得ていない「GDPの3.7%
押し上げ」というのも当てずっぽうに言っただけという印象を
持ってしまいます。
さらに、6日、オバマ次期米大統領は景気悪化を背景に過去最
高を更新中の財政赤字について「今後数年間は1兆ドル(約92
兆円)規模が続く可能性がある」との見通しを発表しています。
具体的には、GDPに占める赤字の割合が日本を越えて8%以上
になる見込みであり、しかもそれが数年間続いていくと述べて
います。
GDPに占める赤字割合は欧州では3%がデッドラインとして考
えられていますし、この十数年間の米国においても同様の水準
でした。いかに8%という水準が高い数値であるかわかると思
います。
※「日米財政の状況」チャートをみる
→
要するに、オバマ次期米大統領の最初の任期においては米国の
景気回復は見込めないということになりますが、これではオバ
マ次期米大統領の景気対策に不安を感じる人は私だけではない
と思います。
●この金融危機に対処するのに必要な資金規模は、
第2次世界大戦の2回~3回分
私はこの金融危機の始めから指摘してきましたが、ようやく米
国内でも今回の金融危機の経済規模を正確に発表し始めました。
2008年12月22日のNewsweek誌によると、今回の金融危機
に対処するのに必要な資金規模は800兆円に上ると試算されて
います。
当初は50兆円程の規模という発表が続いていましたが、この
段階に至り、もはや隠し切れなくなったというのが本音でしょ
うか。
今後、ファニーメイやシティグループの救済などに乗り出せば
さらに赤字は拡大し、それらを全て納税者が負担しなければな
りません。
この800兆円という経済規模はどのくらい大きいのか?
Newsweek誌では次のような他の歴史上の事例と比較されてい
ました。
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・ベトナム戦争:698ビリオンドル(約70兆円)
・S&L救済:256ビリオンドル(約26兆円)
・イラク戦争:597ビリオンドル(約60兆円)
・第2次世界大戦:3.6トリリオンドル(約360兆円)
※1ドル=100円とし、全て現在の貨幣価値に換算しています
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見て分かるとおり、ベトナム戦争を上回り、第2次世界大戦
2回~3回分の経済負担を強いられることになるのが今回の金融
危機の経済規模なのです。
これだけの事態を収束させなければならないという重責をオバ
マ次期米大統領にはしっかりと認識してもらいたいと思います。
また、これだけ世界経済が停滞してしまうとインフレになる可
能性もあるでしょう。税収が増えず赤字が続けば、各国政府が
打開策として市場に資金を潤沢に供給するという可能性が高い
と思います。
ただし、インフレになってモノの値段が上がっても、それで経
済が回復するかどうかは分かりません。
かつての日本では、マネーサプライによって市場をお金でジャブ
ジャブの状態にしても、誰もモノを買わず、逆にデフレに陥った
という経験があります。お金が経済に吸収されないという事態です。
日本の場合には全てのセオリーに逆らった結果になったわけで
すが、米国や欧州の人たちの心理がどのように動くのかは正直
かりません。
日本とは違い、マネーサプライが効果を発揮する可能性もあり
ます。この点については、実際に効果を確かめて見ないことには
何とも言えないと思います。