大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON241日本の雇用制度で労働者は幸せなのか~日本雇用制度の問題点~大前研一ニュースの視点~

2008年12月19日

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内定取り消し問題
日本綜合地所が説明会 1人当たり100万円補償
麻生首相「あってはならない」
職業安定法の改正
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●日本綜合地所による内定取り消しに、思うところあり


 経営の悪化を理由に、大学生53人の採用内定を取り消した日
 本綜合地所が説明会を開きました。


 西丸社長らは学生に対し1人あたり100万円の補償金を支払う
 ことを伝え、あらためて謝罪しました。また、西丸社長は「2009
 年4月に皆さんに入社いただいても、皆さんを幸せにできる状
 況でない」と述べています。


 一方、麻生総理は新卒者に対する悪質な内定取り消しが相次い
 でいる問題について「最高裁の判例からも、かなり問題がある。
 あってはならない」と述べ、職業安定法の施行規則の改正によ
 り、内定取り消し企業名の公表を徹底していく考えを示してい
 るとのことです。


 麻生総理だけでなく、この内定取り消し問題については世間か
 らの注目度も高いようですが、私は少し大袈裟過ぎると感じて
 います。


 今回の内定取り消しの対象となっているのは数百人です。何万
 人もの人が内定を取り消されたという規模であれば話は別です
 が、今回の規模を考えるとここまで世間で大騒ぎするほどでは
 ないと思います。


 日本においては採用・内定は「雇用」に準じるものだという考
 え方に従っているので、規模の大小は兎も角として、内定取り
 消しは問題だという意見もあるのは確かです。


 しかし、私はこの考え方自体も改めるべきだと思います。


 もし私が今回の内定取り消しを受けた学生の立場だったら、
 「早めに対処してくれて良かった」と感じます。


 なぜなら、今の段階で取り消しを言ってもらえれば、まだこれ
 から再チャレンジできるからです。試験を受けてみるとか、別
 の会社を受けてみるとか、できることはあるでしょう。


 日本綜合地所の西丸社長の言葉を借りれば「皆さんを幸せに
 できない」ということですから、学生にとっては「幸せになれない
 会社」だということです。


 内定取り消しをせずに窮状を隠されたまま、いざ会社に勤めて
 みて初めてひどい状況に気づく方がよほど悲劇だと思います。


 良くも悪くも日本では「就職=永久就職」という考え方が根強く
 息づいています。だからこそ、内定取り消しを含め、ある程度の
 自由が必要だと思います。


 その上で、学生は慎重に自分が就職する企業を選ぶべきですし、
 企業側も必要以上に採用人数を確保するようなことはやめるべき
 でしょう。


 確かに建前として「内定取り消しはあってはならないこと」かも
 知れませんが、今回の日本綜合地所の対応は、企業・学生の双方
 にとって良いことだと私は思います。


●日本の雇用を守るための法律が、
  日本の雇用を失わせているという事実


 この問題への対処として、職業安定法の施行規則の改正により
 内定取り消し企業名の公表を徹底していく考えを麻生総理は示
 していますが、これは極めて「表面的な対応」に過ぎないと思
 います。


 というのは、パートタイム労働法の改正なども同様ですが、こ
 うした対応は日本の「雇用を失わせる」結果を招くことになる
 からです。


 本来「日本の雇用を守る」ということを目的としていたはずが、
 全くの逆の結果を生むのですから、問題解決の本質を完全に取
 り違えていると言わざるを得ないでしょう。


 私は中国・大連で日本企業向けに日本語のデータ入力代行など
 の業務を行う会社を経営しています。今、この会社に次から次
 へと仕事の依頼が来ていて、まさに目が回るほど忙しくなって
 います。


 なぜ急にこのような事態になったのか不思議に思い、仕事を発
 注してくれる会社に事情を聞いて見ると、日本での雇用をやめ
 て、日本で行なっている業務を海外で処理するために、その分
 の仕事を当社にアウトソースしたいとのことです。


 これまで派遣社員やパート社員を中心にした雇用形態で経営し
 ていた多くの会社が、相次ぐ法律改正の影響を受け、日本での
 雇用をあきらめて海外の拠点に業務を移しています。これは致
 し方ないことだと思います。


 最近では派遣社員やパート社員もすぐに辞めてしまう人が増え
 て、雇用の回転が早くなっています。益々、企業が安定的に雇
 用を確保するのが厳しい状況になっています。


 そのような状況の中で苦労して雇用したのに、派遣法やパート
 タイム労働法などが次々と改正され、企業にとってはより厳し
 い状況が生まれています。


 プリンター生産のグローバル拠点をベトナムに移したキャノン
 も、日本の厳しい雇用規制を踏まえたうえでの移転だとも考え
 られるでしょう。


 日本から優秀な人材を現地に駐在させ現地採用の従業員を指揮
 することで、サービスのクオリティを保てることが実証されて
 います。


 機動的に人員の調整をするだけで批判の矢面に立たされるよう
 な日本での雇用をやめようと考えるのは、不思議なことではあ
 りません。


 今シャープ三重工場の生産ライン閉鎖を受けて、インターネッ
 ト上ではまことしやかに噂話が飛び交っているようですが、余
 りにこの種の問題が続くならば、シャープもキャノンと同様に
 海外に拠点を移す可能性は大いにあると思います。


 結局、派遣法やパートタイム労働法の改正など、これらの法律
 改正は「日本の雇用を守る」という観点からすると、本来の目
 的とは180度違う方向に向っているのです。


 多くの官僚や政治家、マスコミはこうした本質を理解しておら
 ず、表面的なことしか見ていません。


 特に最近のマスコミ報道を見ていると、この点を強く感じます。
 マスコミ報道が企業の日本からの流出に拍車をかける結果にな
 っていると私は思います。


 日本的な経営が成り立つためには、雇用に柔軟性が必要です。
 選挙対策のために見かけだけの優しさを振り撒いても、結局、
 雇用全体が失われてしまうのです。


 日本の官僚・政治家・マスコミの人には、まずは自分たちがい
 かに表面上のことしか理解していないのかという事実を正しく
 認識してもらいたいと思います。


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