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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON236大前流・不況脱出策:「新しい」ニューディール政策を打ち立てよ~大前研一ニュースの視点~

2008年11月14日

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G20に向けて EU 金融サミット
IMFの権限大幅強化 G8の拡大など
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●米国を中心とする世界経済時代の終焉


 11月14、15日の金融サミット(G20)に向け、欧州連合(EU)
 が描く新たな金融規制の青写真が明らかになりました。


 格付け機関やヘッジファンドの規制、国際通貨基金(IMF)の
 権限の大幅強化に加え、主要8カ国会議(G8)の拡大など、
 金融規制や監督体制を抜本的に見直す内容とのことです。


 G20に向けての欧州側の打ち合わせを見る限り、EU議長国の
 フランス・サルコジ大統領は、


 「EUとしては1つの意見に統一すべき」


 という自身の方針を貫き、かなりのリーダーシップを
 発揮している様子が伺えます。


 おそらくその勢いのまま、今日から明日にかけて行われる
 G20では欧州側がヘッジファンドの規制・空売りの規制などを
 提案することはほぼ間違いないと思います。


 議論の相手が米国・ポールソン財務長官であることを考えると
 皮肉な結果です。


 ポールソン財務長官といえば、米大手投資銀行の
 ゴールドマン・サックス社の会長兼最高経営責任者として、
 空売りなどを駆使して大儲けした人物だからです。


 このG20において、米国・ポールソン財務長官が欧州側の
 意向に対してどのような態度を示すのか、
 私は非常に興味深く見守っています。


 例えば、米国は歴史的にIMFで大きな影響力を行使してきて
 おり、もし今回の会議において欧州が提案するIMFの抜本改革
 に米国が同意するなら、それは大きな意味を持つと思います。


 すなわち、過去に例を見ないほど米国の経済力が弱っている
 ことを意味します。


 マーケットにとっては、米国経済がどれほど痛んでいるのか
 という点を判断する良い材料になるかも知れません。


 そして同時に、米国を中心にして世界経済を考えてきた時代の
 終焉を告げることになるのではないかと私は思っています。


 2008年11月3日号のNewsweek誌に掲載されていた
 「We Need a Bank Of the World」という記事も、
 時代の終焉を予感させる内容と言えます。


 要するに、今世界には「新しい銀行」が必要だと述べています。


 それは、主に加盟国の為替の安定を支援するIMFでも、
 途上国の開発援助を担う世界銀行でも、あるいは各国の
 中央銀行でもない存在だと。


 今ある銀行の中で考えるなら、欧州中央銀行が一番近い
 イメージかも知れません。


 私は以前から、「ドーラー」や「ユーラー」のような世界共通
 通貨が必要になる時代が来ることを示唆してきました。


 まさに今、1つの時代が終わりを迎え、世界共通通貨などの
 新しい概念を取り入れた構想を実現するべき時期が来たのかも
 知れません。


●地球の破壊者と戦うという新たな「戦争」を定義する


 今後この世界不況をどのように乗り越えていくべきかという点
 について、同じく2008年11月3日号のNewsweek誌に
 「A Green New Deal」(新環境保護政策)という記事が
 掲載されていました。


 英ブラウン首相、米オバマ次期大統領、仏サルコジ大統領を
 始め、現在世界で指導力を発揮し支持を得ているのは、
 環境問題に取り組む姿勢を見せている指導者が多い現状がある、
 という指摘です。


 「A Green New Deal」という言葉は、地球や環境への配慮を
 意味する「Green」と新しい政策を意味する「New Deal」を
 繋ぎ合わせたうえで、かつてのニューディール政策
 (New Deal Program)のかけことばにしているのです。


 これは非常に面白い着眼点だと思います。


 歴史的に見ると、不況からの脱出策は2つしか存在していません。


 1つは、1929年の世界大恐慌に際してF.ルーズベルト大統領
 が実施した、「ニューディール政策」。
 そしてもう1つは「戦争」です。


 F.ルーズベルト大統領によるニューディール政策が、当時の
 世界恐慌に対してどれほどの経済的効果を発揮したかという
 点については、いまだに学者の見解が分かれています。


 第二次世界大戦がなければ成功しなかった政策だという意見と、
 戦争がなくても成功したのだという意見が真っ向から
 対立しています。


 ですから短絡的にニューディール政策が有効だと考えるべき
 ではないでしょうが、今この世界不況からの脱却を考えるには、
 さらにニューディール政策を進化させて対応していくべきだ
 と私は考えています。


 具体的には、もし私がオバマ次期大統領の立場ならば、
 1つの解決策として「地球破壊者に対する戦争」という定義を
 することで「新しい」ニューディール(New New-Deal)政策
 を打ち立てます。


 つまり、地球を破壊しようとするものに対して、
 環境を破壊しようとするものに対して、世界中が
 手を取り合って「戦争」を挑むべきだと主張するのです。


 「地球破壊者に対する戦争」ならば、実際の「戦争」を
 引き起こすことなく、巨大な経済的効果を期待できると
 私は考えています。


 実際に「戦争」をするのではなく、巨大な経済的効果を得る
 というのは大きなポイントです。


 例えば、かつての米ソ間の「冷戦」は経済的な効果から見ると
 非常に有効だったと私は見ています。


 というのは、核兵器の開発や人工衛星の開発などあらゆる面
 において米ソが競い合うことで莫大なお金が費やされましたが、
 「実質的」に人を殺めるという戦争行為は行われなかったから
 です。


 極めて平和的で経済的効果が高い政策だったと言えます。


 そういう意味では、私に言わせれば、ブッシュ大統領の政策が
 いかに愚かなものであったかを痛感せざるを得ません。


 結果論ではありますが、2001年9月11日の同時多発テロ事件
 における犠牲者の数よりも、さらに多くの米国人がイラクで
 戦死しているのです。


 「地球破壊者に対する戦争」を旗印にして、例えば自動車の
 排出エネルギーを半減させる、発電効率を向上させる、
 石炭の使用を禁止する、など地球環境に配慮した政策や規制を
 作るべきだと思います。


 その実現には相当のお金が必要とされるはずです。


 「地球破壊者と戦う」「見えない敵と戦う」「地球を守る」
 というスローガンのもと、「これはどれ程お金がかかっても
 実現すべきことなのだ」とオバマ次期大統領が主張する意義は
 大いにあるでしょう。


 演説上手で知られるオバマ氏の手にかかれば、かつてケネディ
 大統領が「1960年代中に月へ人間を送る」と宣言して米国民を
 鼓舞した時と同じような効果も期待できると思います。


 今週末のG20ではどのような決定がなされるのか、
 米国時代の終焉を迎えるのか、そしてオバマ次期大統領は
 どのような手を打ってくるのか。未曾有の世界不況を迎える今、
 各国の指導者の動向に注目したいと思います。


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