大前研一「ニュースの視点」Blog

KON630「英独立党・スコットランド情勢・EU離脱問題~英国の移民・難民による雇用問題は幻想。英国はEU加盟前の状況を思い出すべき。」

2016年7月15日 EU離脱問題 スコットランド情勢 英独立党

本文の内容
  • 英独立党 ファラージュ党首が辞任表明
  • スコットランド情勢 EU残留へ「奇策」も浮上
  • EU離脱問題 残留派が7割、民意とズレ

EU離脱ドミノ現象の可能性は薄い。スコットランドはまず英国から独立すべき


英国の欧州連合(EU)からの離脱派の急先鋒だった英国独立党のファラージュ党首が4日、辞任を表明しました。

EUへの拠出金を社会保障に回すなどの国民投票前に掲げていた公約を撤回したことで、批判が高まっていました。

同氏は、英国のEU離脱を勝ち取ったことで「自分の役割は果たした」と党首辞任の理由を説明しています。

ファラージュ氏は、米国のトランプ氏と似ています。この10年間「独立党」として極端なことを発言し続けてきました。

EU離脱の国民投票の影響もあって、あまりに評判が悪くなったので空気を読んで辞任したのでしょう。

今欧州は、英国に続いてEU離脱をする国が出てくる「ドミノ現象」を恐れています。

先日のEU加盟国27カ国の会議でも、これを避けるために英国に対する処遇を確認しています。
EU離脱の可能性があると言われているのはデンマークやハンガリーですが、現在の英国の状況は、ある意味、見せしめのようになっていると思います。

7月11日号のTIME誌は「THE FALL OF EUROPE」という特集を組み、欧州全体がEU離脱の方向へ傾くことを懸念していましたが、私はそうはならないと感じています。

実際、英国内でもEUから離脱したくないという意思表明をする人が増えています。
国民投票の結果によると、年配者が離脱を望み、若者が残留を望んでいたということが明らかになりました。

年配者は若者の意に反した離脱表明に反省しているでしょうから、この事実を知った今、再度国民投票をすれば結果は変わると思います。

日経新聞は「スコットランド、EU残留へ「奇策」も浮上」と題する記事を掲載し、英国の状況を受けて北部スコットランドは連合王国(UK)を解体せずに、実質的にEUに残りたがっていると紹介しています。

スコットランド行政府のスタージョン首相がEU委員や欧州議会の議員と行った会談では、デンマークとグリーンランドの例の逆に、連合王国(UK)の中にスコットランドだけがEUに加盟する構想も浮上したとしています。

スコットランドが残留の意思表示をしたのは確かでしょうが、連合王国(UK)は離脱しスコットランドだけが残る構想というのは、信ぴょう性が低いと思います。

英国が議会で残留を決めるのがベストだと私は思いますが、もしそうならなかったらスコットランドはまず「英国から独立」すべきだと思います。

独立投票をして連合王国(UK)から正式に離脱し、その上でスコットランドとしてEUに加盟すればいいのです。

かつてスコットランドが独立に踏みきれなかった大きな理由の1つは、単独でEUに加盟することが難しい、ということでした。
スコットランドの独立に反対する英国が反対票を投じたら、スコットランドはEUに加盟できないというルールがあるからです。

しかし英国がEUから離脱した後なら、英国はスコットランドのEU加盟に反対票を投じる権利がありません。

EUへの加盟手続きには2年間かかるのが難点ですが、スコットランドとしては独立とEU加盟をセットで考えるべきだと思います。

もしそうなれば、ウェールズも続く可能性があるので、
連合王国(UK)の崩壊へとつながっていくでしょう。



英国の移民・難民による雇用問題は幻想。英国はEU加盟前の状況を思い出すべき。


日経新聞は7日、「英国議会 残留派が7割、民意とズレ」と題する記事を掲載しました。

これは、欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国の国民投票には法的拘束力がなく、実際に離脱するには英国議会でEU加盟に関する法律の廃止が必要との説があるとの説を紹介しています。

しかし議会には、残留派が多い上に解散するにも3分の2の賛成が必要で、民意との「ねじれ」が先行きを不透明にしているとしています。

この問題について、非常に興味深いデータが2つあります。

1つは「英国に在住するEU加盟国市民の人口」データです。
これを見ると、EU加盟国から英国に入ってきている人口が分かります。1位はポーランドで約85万人。アイルランド(約33万人)、ルーマニア(約17万人)、ポルトガル(約17万人)と続きます。EU加盟国間は移動が自由ですから、これだけ多くの人が英国に入ってきています。

もう1つが「英国における外国人労働者の推移」データです。
これを見ると、この数年間ではEU加盟国出身者数が伸びている一方で、非加盟国出身者数が横ばいになっていることがわかります。

英国内では「移民・難民」によって雇用が奪われているという意見がありますが、それは全くの勘違いです。

かつてEUに加盟する前の英国の失業率は10%を超えていましたが、現在の失業率は5%程度です。そもそも、英国の経済が発展した大きな理由は、ポーランド等から自由に移住してきた人がいたからです。もし彼らがいなければ、英国内は人手不足でレストランも拡大できない、という状況でした。

もし英国がEUから離脱すれば、英国に対する投資は減り、20年前の失業率10%超の時代に逆戻りすることになると私は思います。

英国人は客観的に自国の歴史を見ず、感情的になり過ぎています。

私は約40年間、英国を投資家として見続けてきました。かつて日産の英国進出を手伝ったこともあります。その立場から言わせてもらえば、英国は何を錯覚しているのか、と思います。EUに加盟する前の「博物館に入る直前」のようだった、あの状況を忘れてしまったのか?と言いたいところです。

またEUから離脱するとなると、100万人を超えるEU加盟国に在住する英国人が戻ってくるか、あるいは滞在許可を取り直す必要があります。

この点についても、キャメロン首相から国民への説明が不足しています。

英国は今一度、自国の歴史と現在置かれている客観的な立場を理解し、「EUからの離脱」を再考するべきです。

キャメロン首相は国民投票のやり直しはしないと明言していますから、あとは議会に任せるしかないという状況です。

今後の英国議会に期待したいと思います。


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※この記事は7月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


英国のEU離脱に関する議論が活発になっています。

これに対し大前は、数値データを提示しながら、今一度、自国の歴史と現在置かれている客観的な立場を理解し、「EUからの離脱」を再考するべきと主張しました。

英国がEUから離脱することで、どのような影響があるのか?
意思決定においては、事実データに基づき、ポジティブ、ネガティブな影響の両方を想定しておくことが必要です。

この想定が十分ではない決断は安易なものになってしまい、考え抜かれた意思決定とは言えません。

慎重かつ納得のいく判断を行うため、情報を集め、正しく分析できる技術が、問題解決者には求められます。

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