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〔大前研一「ニュースの視点」〕#114 中央青山監査法人の業務停止で何が変わるのか?

2006年5月26日

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 中央青山監査法人の業務停止で何が変わるのか?


 金融庁は10日、中央青山監査法人に対し、
 上場企業など法定監査先およそ2300社の監査業務を、
 7月1日から2ヶ月間やめさせる業務停止処分を下した。


 監査先企業だったカネボウが、決算書類を粉飾した際、
 所属の公認会計士がその作業に加担したことをうけたものである。
 これを受けて、資生堂をはじめ、
 中央青山との契約を解除する動きも出始めた。
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●米会計事務所が中央青山を産み、そしてまた同じサヤへ納まる


中央青山監査法人の2ヶ月に渡る業務停止。
最大の問題は、その期間、中央青山監査法人に依頼していた
上場企業の監査業務を、誰が受け持つのかということです。


一部では、中央青山監査法人が提携している
アメリカの会計事務所、プライスウォーターハウスクーパースが
設立計画中の新法人が、受け皿になるとの憶測が
飛び交っています。


これを受けて与謝野経財・金融相は、新法人の監査業務の
「質」が高ければ容認できるとの見解を述べていますが、
これはまったくナンセンスな発言でしょう。


そもそも、プライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)
はすでに世界的にトップレベルの質が認められている
監査法人です。
いまさら「質」うんぬんが問われる立場とは言い難いといえます。


中央青山監査法人はクパース・アンド・ライブランドと
提携関係にあった旧中央監査法人と
プライス・ウォーターハウスの日本法人であった
旧青山監査法人が前身です。


クーパース社とプライス社がPwCとして合併したのを受けて
両者は統合しましたが、今回の件でPwCが受け皿を
用意するのであれば、そのまま元のサヤに納まる、
という図式となります。


このような「元を正せば・・・」といった状況は、
じつのところ監査業界では珍しくありません。
訴訟のリスクを回避するため、世界規模で合併・提携が進み、
中央青山以外の日本の監査法人も軒並み米国の会計事務所と
関係を持っている状況です。


なかには、エンロン事件のアーサー・アンダーセンのように
解体された会計事務所もありますが、その際に人材は移動し、
違う看板の元で働くことになるわけです。
中央青山監査法人もまた、同じ道を辿るような気がします。



●脱・中央青山。多国籍企業は新監査法人へ流れる気配


現在の中央青山監査法人にとって、この2ヶ月は切実な問題です。
当然その間も上場企業は、四半期ごとの監査結果を
アウトプットしなくてはなりません。


金融庁が中央青山監査法人に業務停止を命じた7月と8月は、
まさに4月~6月の監査結果を出さねばならない時期です。
よってこれまで中央青山監査法人に依頼していた上場企業は、
臨時で別の監査法人を立てることが必須となります。


いち早く資生堂や東洋水産が、同監査法人との契約解除へ
動き始めたとのことですが、最も困るのは
ソニーやトヨタでしょう。両企業の海外法人の監査を、
先に挙げたPwCが行っているためです。


グローバル化が進んだ企業は、国内、国外を
一元的に監査するほうが望ましいため、
あずさやトーマツ、新日本といった中央青山以外の監査法人へ、
なかなか移行しづらいと思います。


他の企業も人馬一体で新法人に鞍替えすると思いますので、
中央青山のダメージは相当大きくなるのではないでしょうか。
また、この期に及んで無碍に救済しようとすると、
世界的な非難を受けることになるでしょう。


ともあれ今回の騒動で一体何が変わったのでしょうか。
中央青山監査法人に新法人がとって変わるだけで、
新日本、あずさ、トーマツを加えた日本の「四大法人」という、
選択肢の少ない図式は変わりません。


トカゲの尻尾切りで奥山章雄理事長をはじめとした
役員達が引責辞任し、トップだけ据え置いた形で、
若手の有望株たちはすべてPwCが用意する新法人に
行くのではないかと思います。


「大山鳴動して鼠一匹」といいますが、
果たして鼠一匹ほどの成果も生まれたのかどうか、
甚だ疑問が残ります。


                       


                    -以上-


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