大前研一「ニュースの視点」Blog

KON568「財政健全化・国内株式市場・休眠預金~問題解決者の姿勢を考える」

2015年5月15日 休眠預金 国内株式市場 財政健全化

本文の内容
  • 財政健全化 計画の基本方針固め
  • 国内株式市場 日本株を買い支え、引き上げる7頭のクジラ
  • 休眠預金 議員立法の素案まとめ

日本の財政に対する安倍総理の姿勢


政府は夏にまとめる財政健全化計画の基本方針を固ました。2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする道筋として、経済成長による税収増で7兆円、歳出削減などで9.4兆円を賄う計画です。消費税の10%超への引き上げは当面検討しない予定とのことです。

経済成長による税増収ということで、GDP成長率2%を前提とした発表になっていますが、あまりにも楽観的に過ぎて、私は目が点になりそうです。

経済が現状にしたがってベースラインのまま推移をすると、基礎的財政収支は一向に改善しませんし、このままの状況ではGDP成長率2%を達成することも不可能でしょう。

なぜ、何ら実現性のない計画を発表しただけで安心して、財政の立て直しをやろうとしないのか、消費税を10%のままで凍結と言えるのか、私には全く理解できません。

安倍総理に言わせれば、「経済成長すればいい」ということになるのでしょうが、そもそもそれすらも今のままでは難しい上に、客観的に見れば経済成長したとしても、程度が知れています。

安倍総理が言うようにGDP成長率2%を実現しても、2023年には基礎的財政収支を黒字化できません。今、世界全体の傾向として、GDPに対する債務残高が増加しています。しかし、その中にあっても日本は異常です。

かつて日本と同じ程度に債務残高を抱えていたイタリアもユーロの中にあって、この15年間は、債務残高は対GDP比150%弱でやや落ち着きを見せています。日本だけが200%を超えて突き抜けています。

市場の状況が変化すれば、日本は大変なことになる可能性があります。安倍総理の脳天気さには開いた口が塞がりません。


日本株が上がっている本当の理由とは?


ニュースメディア・THE PAGEは、「日本株を買い支え、引き上げる7頭のクジラ」と題する記事の中で、日本銀行、ゆうちょ銀行、かんぽ生命など巨額の公的マネーが日本株を買いまくっていると伝えています。

ここに、「なぜ今日本株が上がっているのか?」という問いに対する答えがあります。「株価が上がっているのは、企業業績が良くなっているから」という回答もあるでしょうが、もはや今の株価は企業業績だけで説明できる範囲を超えています。

日本の株高の原因は、公的年金ポートフォリオにあります。日本株を買い支える7頭のクジラというのは、日本銀行、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、国民(GPIF)、国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済の7つの公的資金です。

ちょうど1年ほど前に、「公的年金のポートフォリオ」が発表され、その方針にしたがって、今これらの公的年金は巨額な資金を株に突っ込んでいるのです。

今後も、日本国債の割合を減らし、さらに日本株式を6ポイント増やす予定になっています。外国株式(主に米国)も、25%まで買い進めることになっていて、リスクが高い株式で50%を保有するというポートフォリオです。

株式市場は歓迎ムードですが、短期間のうちに無謀とも思えるほどの金額だと私は思います。現状では、誰かが空売りを仕掛けても、買う力が強すぎて失敗に終わっています。

しかし、いくら政府から委託されたもので、巨額の資金だと言っても限界はあります。この状況がどこまで続くのか、逆に言えばいつ終わりを見せるのか、要注意でしょう。

山高ければ谷深しと言いますが、その状況が秒読み段階に入ってきているように私は感じます。


休眠預金は「富を生み出す」ために使え


自民、公明、民主など超党派の議員連盟が、金融機関で10年以上取引のない「休眠預金」を活用する議員立法の素案をまとめました。使い道を「生活困窮者」「子ども・若者」「活力が低下する地域」の3分野の事業支援に限定する内容を盛り込んだもので、今国会への提出をめざす考えです。

休眠預金の利用というのは、民主党政権時代には古川元久議員が取り組んでいたテーマで、私はそのときから「休眠預金は若者の起業に利用してほしい」と意見を述べてきました。

なぜ起業なのか?というと、「富を生み出すのは起業しかない」からです。そして、富を生み出す人が少ないというのが、日本が抱えている大きな課題の1つです。

今回超党派の議員がまとめた素案にある「生活困窮者」「子ども・若者」「活力が低下する地域」という使い途は、単に「配分」しているだけであって、富を生み出していないのです。

富を生み出すのは企業であり、政府は配分しかしません。政治家としては、美談につながると思っている施策なのでしょうが、私に言わせれば全く無意味です。

休眠預金という形でお金を残した先人たちも、この国を背負って立つ若者が何かをやりたいというときの支援に使う、というのであれば文句はないはず、と私は思います。

富を生み出す人を作らないと、日本という国は発展しないのですから。

---
※この記事は5月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は財政健全化に関して解説をお届けしました。発表された財政健全化計画に対して、あまりにも楽観的な内容と大前は指摘しています。

増税をせず、今回のような代案となる解決策を提示したとしても、それが本質を見誤っている限りはインパクトを生み出せません。

解決策の実行に阻害要因はつきものです。この要因を取り除き、解決策を推し進めていくことが問題解決のアプローチにおいて重要となります。

解決を先送りせず、自らが使命感を持って人を巻き込むこと。これは、問題解決者のあるべき姿勢です。

★6月開講クラス募集中!一流のプロが教える成果につながる「考える技術」
問題解決力トレーニングプログラム(大前研一総監修)
http://tr.webantenna.info/rd?waad=kB56jPN4&ga=WAAAAk-1

問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点